1.妊娠適齢年令

近年、不妊に関する悩みを抱えているカップルの割合は6組に1組と増加している1)。その要因として多様化したライフスタイルによる晩婚化が挙げられる。初めて子供を持ちたいという希望を持って、不妊クリニックを受診するカップルの年齢は男女ともに高い。2013年の厚生労働白書によると、年齢が妊娠に与える影響に関する知識の有無のアンケート調査では、10〜20代の若者のおよそ7割は知識を持っていると答え、聞いたことがないまたは知らないと答えたのは3割であった。知識がある若者たちはテレビ、インターネット、雑誌から情報を得ていた2)。一方、2010年のESHREの調査では、30代以上の日本人女性における妊娠と年齢の関係について、およそ7割が知識の欠如を認めたと報告されており、欧米の2-3割に対し圧倒的に多い数となっている。「閉経するまでは妊娠可能」と思われて来院されるカップルにも遭遇する3)。

女性の年齢変化と卵子については周知のとおり、卵子の数は胎生期の20週の頃に600-700万個と一番多く、出産時期になると200万個までに減少する。さらに思春期から生殖適齢期には30-50万個に、37歳くらいまでに2万個に、閉経時期の51歳までには1000個程度にまで減少する4)。また、女性の妊娠しやすさは、おおよそ32歳位までは緩徐に下降するが、卵子数の減少と同じくして37歳を過ぎると急激に下降していく5)。さらに卵子の質の低下(染色体数の異常)については35歳頃より数の異常な染色体の割合が上昇する。卵子、および精子のような生殖細胞は、減数分裂を2回繰り返すことで二価染色体を一価染色体として配偶子に分配し、受精によってその数を回復する。加齢による染色体数の異常の原因は、減数分裂の過程で正常に配偶子を分配できないことである。理化学研究所の報告によると、高解像度3Dライブイメージングを用いてマウスの加齢した卵母細胞の第一減数分裂の追跡解析をしたところ、二価染色体の構造を維持するのに必要なタンパク質であるコーヒチンが減少することにより、第一減数分裂において二価染色体の早期分裂や不分離が生じるためということを示唆している6)。                          
一方、男性の場合も加齢による精巣機能低下に伴い精液量、精子正常形態率、精子運動率が減少し、精子DNAの損傷の割合も上昇することから、男性の年齢の上昇が妊孕能の低下や流早産率の上昇に寄与するといわれている。2000年の男性年齢と妊孕に関する疫学調査7)によると、25歳未満の男性を基準とすると35歳以上では一年以内に妊娠へ至る確率は1/2になると報告している。男性の場合は女性と異なり閉経という概念はないが、男性も年齢とともに妊孕能が低下することは明らかである。

2005年より日本産科婦人科学会が生殖補助医療に関するデータを毎年更新しているが8)、母体年齢におる出産率は35歳頃より減少傾向を示し、39歳頃を境に急激に出産率が低下して流産率が上回るようになっている。母体年齢を強調したデータであるが、2002年 Rochebrochard Eらによるヨーロッパのデータでは、母体の年齢が35歳以上になると流産リスクが2.8倍に上がる。さらにカップルの年齢が40歳以上になると流産のリスクが5.6倍高くなるとしている。しかし、母親の年齢が34歳以下で男性の年齢が39歳以下のカップルが一番流産のリスクが低くなるという興味深いデータも散見される9)。
子供を持ちたいと希望されるカップルは、男女ともに晩婚化の影響で年齢が高くなっている傾向がみられる。そのため、年齢の上昇にともないお互いの要因で妊孕能低下や流産率の上昇があるということを周知させていくことが、今後、益々重要なことになってくると考えられる。

1. 2010年出生動向基本調査 国立社会保障 人工問題研究所
2. 平成25年度厚生労働白書
3. 2010年 ESHRE 国際調査 Starting Family
4. Faddy MJ1, Gosden RG, Gougeon A, Richardson SJ, Nelson JF. Accelerated dis-ap pearance of ovarian follicles in mid-life: implications for forecast-ing menopause. Hum Reprod. 1992;7:1342-1346.
5 . Female age-related fertility decline.Committee Opinion No. 589. Fertil Steril. 2014 Mar;101(3):633-4.
6.Sakakibara Y, Hashimoto S, Nakaoka Y, Kouznetsova A, Höög C, Kitajima TS.
Bivalent separation into univalents precedes age-related meiosis I errors in oocytes. Nat Commun. 2015 Jul 1;6:7550.
7. Ford WC, North K, Taylor H, Farrow A, Hull MG, Golding J.Increasing pater-nal age is associated with delayed conception in a large population of fertile couples: evidence for declining fecundity in older men. Hum Re-prod. 2000; 15:1703-1708.
8. 日本産婦人科学会 ARTデータ集
9. Rochebrochard E, Thonneau P. Paternal age and maternal age are risk fac-tors for miscarriage; results of a multicentre European study. Hum Re-prod. 2002 Jun;17:1649-1656.