1.早期流産の処置方法の選択
(1)早期流産の診断に至るまでの過程
1 )早期流産の臨床形式による分類
○稽留流産:妊娠22 週未満に胎芽あるいは胎児が子宮内で死亡後,症状がなく子宮内に停滞している状態.一方,出血などの症状があり,かなりの期間,胎芽あるいは胎児が子宮内に留まる場合は遷延流産という.
○進行流産:胎芽あるいは胎児とその附属物が子宮外に排出されてきている状態.以下の「完全流産」と「不全流産」にわけられる.
○完全流産:胎芽あるいは胎児とその附属物が完全に排出された状態.完全流産の多くの場合,子宮は十分に収縮し,子宮口は閉鎖する.
○不全流産:胎芽あるいは胎児および附属物が完全に排出されず,一部が子宮内に残存し,子宮が十分に収縮せず,子宮口も閉鎖しないで,出血などの症状が持続している状態.
2 )早期流産の診断(図8)
○超音波検査にて子宮内胎囊の有無,大きさ,胎芽(胎児)の有無および心拍動の有無を確認する.表7 に示す所見を認める場合に,早期流産診断の確定あるいは疑いとなるとの報告がある.
(2)早期流産 治療法の選択
○ 手術( 子宮内容除去術D&C:dilatation and curettage, intrauterine curettage,D&E:dilatation and evacuation)と,待機的療法が選択され得る.
○手術はD&C が主体であったが,術後の子宮腔内癒着の発生を考慮して,吸引器を用いて掻爬を行わない術式(D&E)と,Manual Vacuum Aspiration(MVA)が普及しつつある.
○一般的に手術療法は,治療期間が最短で済み,追加治療も不要であるために選択されやすいが,どの治療を選択するかは患者の希望と医療者側の体制によっても異なる(図9).
○選択的プロゲステロン受容体調節薬をベースに用いた薬物療法は本邦では未認可である(Ⅲ-4 項参照).
○手術療法,薬物療法,待機療法のどれを選択してもほぼ同様の治療効果をもたらすものと考えられている.
・この三者をランダム化比較試験で検討したmiscarriage treatment (MIST)トライアル(13 週未満流産,n=1 , 200)の主要な結果を表8 に示す.MIST トライアルにおいては1~2%程度の手術時合併症がみられたこと,5 年後までの妊娠成績においても三者に有意な差はなかった.
1 )手術
○待機療法においても出血量が多い場合や,子宮内容物の感染がみられる場合には速やかな手術療法への移行が必要である.
○D&C の場合は頸管を熟化させる必要があるため吸湿性頸管拡張剤(ラミナリア,ダイラパン®,ラミケン® など)を挿入し,日母型子宮頸管拡張器(シュレーデル型・へガール型などを用いた拡張)の後,子宮内容物の除去を行う.
○MVA の場合は軽度の頸管拡張後カニューレを挿入し,アスピレーターを取り付けて圧を開放すると子宮内容物が摘出される(図10)(Ⅲ-3 参照).
2 )待機的療法(表9)
○13 週未満,感染兆候なし,バイタルサイン安定などの条件を満たせば可能で,平均的には2 週後にはおよそ75~90%前後は排出される(2 週間ルール).
○2 週間で排出しない場合にも4 週間くらいの待機が概ね許容される.
○待機する場合は,指示した施設に常時連絡がつく形で行う.
(3)流産後の子宮腔内癒着の発生頻度
○流産直後の912 人を子宮鏡で子宮腔内癒着の評価をし12 カ月以内の子宮腔内癒着発症の有無をみた研究では,子宮腔内癒着発症頻度は19 . 1 %(95 % CI:12 . 8~27 . 5%)であった.
○流産2 回以下の場合子宮腔内癒着発症オッズ比1 . 41,3 回以上の場合子宮腔内癒着発症オッズ比2 . 1 であるため,流産回数が増えるほど子宮腔内癒着の頻度が増えると報告されている.