2.早期流産に対するインフォームドコンセントの注意点
○早期流産は発生頻度の高い現象である一方で,流産の体験は妊娠女性および配偶者に対して精神的ストレスを与え,時として強い抑うつ・不安を生じる.
○カップルの精神的負担を軽減するような受容的対応,説明を心がけるという精神的支援(supportive care)が重要である.
以下に説明の要点を整理して記載する.
(1)診断理由についての説明
現在では,超音波検査により子宮内の変化が確認されるため稽留流産の状態で早期流産の診断が確定できる場合が多い.しかし,稽留流産で流産に伴う出血や腹痛などの自覚的な症状がない時点では妊婦の側は診断を実感できない,信じられないということもある.そうした場合には,超音波検査の画像を示しながら前回の診察と今回の診察の間で期待された変化がないことを,時間をかけて説明することで診断根拠についての理解を促すことが重要である.また,流産の診断を納得できない様子であれば数日から1 週間後程度に再度受診してもらい確認してみることを提案するのも一つの方法である.ただし,その場合には待機期間中に自然排出が生じる可能性について触れておくことも大切である.
(2)流産の原因についての説明
流産の診断について理解が得られた場合でも,妊婦はなぜ流産となってしまったのかについて思い悩むことが多い.そしてその場合に生活習慣や食習慣,妊娠前後の服薬,仕事の状態など様々なことについて原因を求めようとすることがある.そのため,流産が発生する機序に関して医学的観点からの客観的な知識について説明することが重要となる.その要点としては,早期流産の主な原因(70~80%程度)は誰にでも生じ得る胚の染色体異常であること,そして胚の染色体異常の確率は女性の年齢が高いと上昇するため,結果として高年齢の妊婦では流産率が増加する(20 代で10 %程度に対して40 代では40%以上)こと,初回の流産であれば次回の妊娠で一般的な同年代の女性と比較して流産の可能性が高くなることはないことなどを説明する.
早期流産が連続して生じた場合には,何らかの不育症要因(抗リン脂質抗体症候群,夫婦の染色体転座保因,内分泌疾患など)が存在している可能性も考慮される.そのため,2 回以上の早期流産を繰り返した場合には不育症に関する精査を希望するカップルに対しては専門とする医師がいる病院への紹介を検討する.ただし,不育症の精査を行っても特に原因因子が特定されないことも多く,その場合には原因不明の特別な状態ということではなく胚の染色体異常の繰り返しという可能性が高いと判断されることを説明する.また,30 代で過去3 回の流産既往があっても次の妊娠では70%で生児獲得が期待できるといった前向きな情報提供も大切である.
(3)流産に対して必要な処置についての説明(表10)
稽留流産の場合には子宮内容物の自然排出を待機するのか,子宮内容除去を行うべきかについて個々の患者の状態に応じた選択が必要となる(前項参照).妊娠週数が進行してからの稽留流産で子宮内容物が多い場合は自然排出に伴う強い痛み,多量出血の危険性を考慮して入院管理による子宮内容除去術を実施する必要性が高い.子宮内容除去術の施行に際しては,手術麻酔の副作用,頸管拡張,掻爬に際しての頸管裂傷,子宮穿孔,出血,感染などの合併症の危険性があることを説明し,文書によるインフォームドコンセント(次項参照)を得たうえで行う.子宮内容物の自然排出を待機する状況としては,妊娠週数が早い場合や患者が子宮内容除去術を希望しない場合などが挙げられる.自然排出を選択した場合には,排出時にはある程度の痛みと出血を伴うことを本人や家族に十分説明しておくことが重要である.また,排出の時期は予測が困難であること,出血が大量の場合にはただちに受診することなどについても説明しておく.
排出された胎盤(絨毛)組織に関して,胞状奇胎などの異常がないことを確認する病理検査とは別に,絨毛染色体検査を行うことによって流産の原因が胚の染色体異常であるかどうかを確認することができる.絨毛染色体検査の結果が正常核型である場合には,胚の染色体異常以外の要因により流産が生じている可能性が示唆され,不育症に関する精査の必要性が高いと判断される.そのため,特に2 回以上流産が繰り返した状況では絨毛染色体検査について提案することを検討し,自院での検査実施が困難である場合には他院への紹介も考慮する.ただし,絨毛染色体検査には保険適用がないため自費での支払いとなることを患者が了承の上行う必要がある.