平成10年1月26日放送

研修ニュースより「カラードプラ」

東大医用電子研究施設臨床医学電子部門助教授 馬場 一憲

 日母の会員の先生方には、既に日母医報の1月号とともに、研修ニュース「カラードプラ法、パルスドプラ法」が届いていると思いますが、本日は、この研修ニュースの内容を多少補足しながら、超音波ドプラ法に関してお話しをさせていただきます。

 超音波カラードプラ法やパルスドプラ法は10年以上も前からある技術ですが、最近になって、産婦人科臨床の現場で使用される機会が急速に増えてきています。ご覧になった先生方も多いと思いますが、一般の妊婦さん向けの、いわゆるマタニティ雑誌と呼ばれるものにも解説記事が載る時代になっています。装置の普及率が未だそれほど高くない事もあって、超音波断層法のように産婦人科での必須の検査法というところまでには至っていませんが、カラードプラ法やパルスドプラ法の意義、あるいはそれによってどのような情報が得られるかは、産婦人科医として、ある程度知っておく必要があると思われます。

 カラードプラ法は白黒の断層像の上で、血管など血流のある部分を色付けして表示する方法です。通常、プローブに近づく方向の血液の流れが赤系統の色、遠ざかる方向の血流が青系統の色で表示され、これらの色から血液の流れる方向を知る事ができます。しかし、プローブ表面に平行な流れ、もう少し正確に言いますと、プローブから出た超音波の進む方向に直角な方向の流れには色が付かないといった問題があり、例えば研修ニュース、図1のように蛇行している血管ではところどころで色が途切れた表示になってしまいます。最近の装置では血流のある部分にすべて色付けすることができるパワードプラ法と呼ばれる方法も使えるようになり、蛇行した血管でも図2のように連続して表示することできるようになりました。しかし、パワードプラ法では血液がどちら方向に流れているかは分かりませんので、カラードプラ法とパワードプラ法は検査目的に応じて適宜切り替えて使われます。

 カラードプラ法やパワードプラ法を用いれば、血流が存在する部分すなわち血管の位置を知る事ができますが、その血流の大きさや心拍動に伴う時間的変動に関して定量的に評価することができません。そこで、この定量的評価のために用いられるのがパルスドプラ法です。パルスドプラ法では対象となる血管内の血流の時間的変動が図3のような波形として表示されます。カラードプラ用の超音波診断装置にはパルスドプラ法の機能も付いており、通常は、図4や図6のようにカラードプラ法とパルスドプラ法の2つの画像を1つの画面に表示しておいて、カラードプラ法の画像の上で対象とする血管を探し、そこにパルスドプラ法の観察部位を設定して血流波形を求め、その血流波形で計測を行うといった使われ方がなされます。

 ところで、その血流計測ですが、血流の方向と超音波の進む方向とのなす角度が正確に分かればパルスドプラ法で得られた測定値を補正して、理論的には血流速度、毎秒何cmといった絶対的な値を求めることができます。しかし生体内では血管は3次元的に蛇行しており、血流の方向を正確に捉えることは難しいため、臨床的には血流速度の絶対値よりも、レジスタンスインデックスRIや、パルサティリティインデックスPIが用いられます。これらの算出方法は研修ニュースの図3に解説されていますが、このような計算をすることによって血流の方向に影響されない値を得る事ができます。これら2つのインデックスは同じような意味をもつため、研修ニュースではすべてレジスタンスインデックスで解説しています。

 さて、こうして得られたインデックスの値の意味ですが、大まかにいえば測定している動脈から末梢に血液が行きやすいか、あるいは行きにくいかを示す1つのめあすと考えられています。すなわち、標準値と比べてレジスタンスインデックスの値が大きい場合は、測定している動脈から末梢側に血液が行きにくい状態にあると考えられ、逆にレジスタンスインデックスの値が標準値よりも小さい場合は、そこから先に血液が行きやすい状態を示していると考えられます。

 次にカラードプラ法やパルスドプラ法が実際の臨床でどのように役立つかを産科と婦人科に分けてまとめてみます。

 産科領域でのカラードプラ法は白黒の断層像では見にくいような臍帯をはじめとする血管の走行を調べる時、あるいは異常な血流の存在を調べる事によって心臓大血管系の異常や胎盤の異常を診断する時などに役立ちます。パルスドプラ法では臍帯動脈と胎児中大脳動脈の2つの血流がよく測定されます。この2つは測定が比較的容易であり、また測定により得られるレジスタンスインデックスの値に臨床的意義があると考えられているからです。その他、胎児心機能評価のために胎児の大動脈や下大静脈、また母体側の血流評価として子宮動脈がパルスドプラ法の対象となることもあります。研修ニュースでは、臍帯動脈、胎児中大脳動脈、母体子宮動脈の3つについて実例を示しています。

 初めは臍帯動脈血流のレジスタンスインデックスですが、この値は胎児胎盤系の循環に関する重要な情報を提供してくれます。すなわち、臍帯動脈血流のレジスタンスインデックスが標準範囲より高ければ胎児から胎盤に血液が流れにくい状況にあることが示唆され胎児にとって不利な状況と考えられます。状況がより深刻になると、図4のbに示されたような拡張期の逆流が認められるようになります。一般的に臍帯動脈で逆流が認められた場合は胎児にとって非常に良くない兆候であり、児が胎外生活可能な状況にあれば早急に娩出させるべきであると考えられています。

 胎児の中大脳動脈血流のレジスタンスインデックスに関しては、臍帯動脈の場合と逆に、標準範囲より低いことが問題になります。すなわち、中大脳動脈血流のレジスタンスインデックスが低いということは、胎児が低酸素状態になり血流再配分が起って脳に血液が流れ易くなった状態を反映していると考えられるからです。

 母体側の血流である子宮動脈においては、妊娠中期以降、レジスタンスインデックスは低い値を維持しますが、妊娠中毒症など母体側に異常がある、あるいは異常が将来起こるような症例では高い値、すなわち子宮に母体血液が流れて行きにくい状況を示すことがあります。

 パルスドプラ法を用いると断層像では得られない機能的な情報を得る事ができますが、得られた情報を治療やその後の処置の選択にどのように結び付けるかについての明確な基準は、今後提案されるものと期待されていますが、現時点では存在しません。また、どのような症例が超音波ドプラ法の検査対象になるかという点に関しては、ハイリスク妊娠では異常の発見だけでなく、異常発症の予測に役立ちそうだという報告がある一方、スクリーニングという意味ですべての胎児を対象にすることについては否定的な意見が多いのが現状です。私自身、常にカラードプラ用の超音波診断装置を使って診療を行っておりますが、胎児のスクリーニング検査という意味では通常の白黒の断層像だけで検査を済ますことが多く、胎児に異常が疑われた場合やハイリスク妊娠に限って、スイッチでカラードプラ法やパルスドプラ法に切り替えてさらなる情報を得るといった使い方をしております。

 次に婦人科領域での応用ですが、一般に悪性腫瘍では異常な血管新生を伴うことから、カラードプラ法で観察すると腫瘍内に血流が豊富、すなわち色が付く部分が多く、腫瘍内部や流入する血管でレジスタンスインデックスが低い値を示すことが多いと言われています。逆に良性腫瘍では血流は乏しくレジスタンスインデックスは高い値を示すことが多いと言われています。このことを利用して子宮筋腫と子宮肉腫の鑑別、あるいは良性卵巣腫瘍と悪性卵巣腫瘍の鑑別といった応用が考えられます。ただし、子宮にしろ卵巣にしろ、良性腫瘍と悪性腫瘍のレジスタンスインデックスの分布には一部重なりがあり、また例外的な症例も存在することから、レジスタンスインデックスの値だけから個々の腫瘍の良性悪性を判別するのではなく、超音波断層法、MRI、腫瘍マーカー、臨床経過などと併せて総合的に判断する必要が有ります。また、同じ腫瘍内でも測定する血管によってレジスタンスインデックスの値が異なる場合がありますので、腫瘍の血流を評価する場合は1カ所だけの測定値で評価するのではなく、できるだけ多くの部位で測定して評価する必要があります。

 白黒の断層像で充実性に観察されてしまう卵巣腫瘤に類皮嚢胞腫や一部の子宮内膜症性卵巣嚢胞などがありますが、カラードプラ法で血流の有無を調べる事で本当の腫瘍による充実部分との判別が、ある程度可能になります。また絨毛性疾患においては、筋層内浸潤の有無を調べるのにカラードプラ法やパルスドプラ法が役立ちます。

 最後に、カラードプラ法、パルスドプラ法の使用上の注意ですが、健康保険での給付に関する規定は研修ニュースに書かれている通りです。日母医報1月号の7頁、「社保運用上の留意事項」の記事の中にも関連した記載が有りますので一度お読み下さい。

 カラードプラ用の超音波診断装置は、ここ数年性能が飛躍的に向上したため、誰にでも簡単に使用できるようになりました。しかし正しい診断のための適切な画像を得るためには、パルス繰り返し周波数PRFの調整など、知っておかなければならない事がいくつか有ります。これら使用する上での技術的な注意点については紙面の都合で研修ニュースに載せる事はできませんでしたが、研修ニュースの最後に載せてあります参考ビデオに詳しくまとめられてありますので、これからカラードプラ用の超音波診断装置をお使いになろうとする先生方には、ぜひ一度ご覧頂く事をお勧めいたします。

参考ビデオ

産婦人科におけるカラードプラ(カラードプラ、パルスドプラの基礎と臨床)

VHS29分、定価 4,095円 メジカルセンス社(電話 03ー3225ー1341)