平成10年2月2日放送

輸血とインフォームドコンセント

日母産婦人科医会幹事 川端 正清

 本日は、「輸血に関するインフォームド・コンセント」と「血液製剤に関する記録の保存と管理」についてご説明致します。

 平成9年4月の診療報酬改定に伴い、輸血の際のインフォームド・コンセントが義務づけられました。説明と書式について、一応の形式が示されています。それによりますと、各施設で文書によって、輸血の必要性、副作用、輸血の方法、およびその他の留意点について、患者本人に対して、インフォームド・コンセントを行うことが原則になっています。

 最近の10年間で輸血の安全性は大幅に向上しました。これは、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIV、HTLV−1、梅毒など、各種の血液中に存在する病原体が発見され、それらがスクリーニングできるようになったためです。しかし、今後も新たな感染性ウイルスが発見されるかも知れません。

 平成6年10月に日母が発行しました「産婦人科医のためのエイズ診療マニュアル」にも述べてありますように、「血液はすべて感染源として、リスクを持っている」と考えなければなりません。

 また、輸血の副作用は、感染源という観点からだけでなく、移植としての問題点も持ち合わせております。軽微な湿疹、アレルギー反応から、致死的な輸血後移植片対宿主病(GVHD)の問題まで、様々です。

 輸血については以上のようなリスクが考えられ、その利点とリスクを勘案の上、慎重に行われなければなりません。

 このような現状を踏まえ、昨年4月の診療報酬改定に先立ち、日本輸血学会インフォームド・コンセント小委員会は、3月28日「輸血におけるインフォームド・コンセントに関する中間報告」を提示しました。

 それによりますと、「待機的手術患者や、内科などで輸血するような時間的余裕が有る場合は、事前に十分な説明と承諾が必要である」とし、その場合の、説明書のサンプルを提案しています。一方、「救命が優先される救命患者や手術中に予想を越える大量出血が生じた場合は、輸血前にインフォームド・コンセントを得ることは困難である。その場合、治療は医師の裁量に託され、インフォームド・コンセントに先行して、輸血がなされ、その内容は事後に説明されることになる」となっております。

 すなわち、産婦人科領域でも、術中輸血の可能性があれば、術前にインフォームド・コンセントを取っておく必要があります。しかし、産科などで予測できない事態が発症し、救命のために緊急輸血が必要となり、患者の状態によっては、インフォームド・コンセントを得られない、または時間的余裕がないことも少なからず経験するところです。このような場合は、医師の裁量の下、輸血を行い、その後に説明することもやむ得ないとしております。

 また、輸血を日常的に行う施設では、院内体制の整備、検査体制、放射線装置の設置などが望ましく、さらに、輸血後2−3ヶ月間は副作用のチェックが必要であると述べています。

 今回の提言は、診療に「たがをはめる」ものでなく、患者と医師のよりよい信頼関係を築くための提言と受け止めたいと思います。

 日母では、今回の輸血学会の提言は、全科を対象としているため、緊急輸血の多い産婦人科では、輸血前放射線照射など対応し難い面もあり、医療医業対策部を中心として、従来作成してきた「日母カルテ・モデル」のような形で、独自のガイドラインを作成する予定にしています。

 次に、輸血学会小委員会の「輸血に関する説明と同意」の説明文から、参考となる事柄を挙げてみます。大変参考になる資料が示されています。

 約10本輸血されたとして、患者あたりの副作用発生頻度が述べられています。

 輸血後肝炎は1000〜2000例に1例。

 エイズは200万分の1といわれています。本邦では、エイズ検査開始後、エイズ抗体陰性の血液から、昨年1例の罹患が報告されました。

 輸血後GVHDは2万〜10万分の1位です。肉親からの輸血や、新鮮血液では危険性が高まります。凍結血漿や、放射線照射した血液では発症しませんが、緊急では、照射が間に合わないこともあります。

 アレルギー、蕁麻疹、発熱は、最もよく見られ、20〜100分の1です。

 その他、未検査、未知の病原体による感染の可能性についても、説明しておくのが良いでしょう。

 以上、輸血に関するインフォームド・コンセントについて日本輸血学会インフォームド・コンセント小委員会の提案を紹介して参りましたが、現在のところ、この提案を基に、各施設の実状に合う形に改変して、説明書を作成するよう述べられています。

 最後に、「血液製剤に関する記録の保管・管理について」述べさせて頂きます。

 このことにつきましては、平成9年6月3日付けで、厚生省薬務局から通知があり、平成9年9月1日から実施するよう、指導がありました。その意図するところは、検査が進んだ現在においても、未知のウイルス等の混入の可能性が否定しきれないため、感染の恐れが出た場合に備えるためであす。血液製剤に関する記録を当面10年間、保管・管理するようにとのことです。その内容は、先ず、血液製剤管理簿を作成し、管理簿には、血液製剤の製品名、製造番号、投与日または処方日、患者氏名・住所を記載し、保管するということです。

 ここで言う血液製剤とは、保存血や新鮮血などの全血製剤、赤血球や血小板などの血液成分製剤、ヒト血漿蛋白やアルブミン・グロブリン、血液凝固因子、フィブリノーゲンなど血液分画製剤などを言います。

 本日は、「輸血とインフォームド・コンセント」を中心に解説させて頂きました。

 患者と医師のより良い信頼関係を築くために、十分なインフォームド・コンセントを得る必要があるでしょう。

 本日の放送内容は、日母医報平成9年9月号にも掲載してあります。

 なお、輸血学会は本年4月をめどに最終見解をまとめる予定とのことです。また情報が入りましたら、ご紹介したいと思います。