平成10年4月6日放送

わが国における卒後研修指導の現状と問題点

日産婦認定医制度中央委員会委員長 荒木 勤

 日本産科婦人科学会における認定医制度には、卒後研修、認定、生涯研修の三つの大きな柱がある。なかでも卒後研修は、医師が将来立派な産婦人科医となるための基礎を作るものである。そこで、卒後臨床研修の充実を図るためには、臨床研修病院の数や質の確保などのハード面での充実に加え卒後研修の内容等のソフト面での充実を図ることが必要である。とくにソフト面では臨床研修医の指導にあたる卒後研修指導責任医の役割が重要である。

1.認定医制度

 日本産科婦人科学会認定医制度は昭和62年4月1日に発足した。その運営機関は学会に直属する中央認定医制度委員会と都道府県に設置される地方部会認定医制度委員会である。研修施設は卒後研修指導施設であり、各施設に属する指導責任医が指導にあたり、指定有効期限は5年間となっている。

 本学会認定医制度の目的は目本産科婦人科学会認定医制度規約第1章総則第1条に記載されている。本制度は産科婦人科学の進歩に応じて、広い知識、練磨された技能、高い倫理性を備えた産婦人科医師の養成と、生涯にわたる研修を推進することにより産科婦人科医療の水準を高めて、国民の福祉に貢献する事を目的とした。

 その事業に関しては第2条に記載されているように社団法人日本産科婦人科学会は前条の目的を達成するため、社団法人日本母性保護産婦人科医会と協力し、日本産科婦人科学会認定医の認定と卒後および生涯研修に必要な事業を行なう。卒後研修事業としては、卒後研修医の登録、卒後研修手帳の頒布、卒後研修指導報告、認定申請者の試験による認定審査などを行い卒後研修の充実に努めている。

 生涯研修事業としては、研修出席証明シールの発行、総会並びに学術講演会生涯研修プログラムのビデオ収録と地方委員会への配布、機関誌へ「研修コーナー」の掲載、日産婦・日母生涯研修連絡協議会の開催のほかに、生涯研修実施状況の調査、生涯研修のあり方の検討なども行なっている。

2.年度別研修医登録数

 ここに、昭和63年より平成9年までの年度別研修医登録数を示した。昭和63年には376名の登録があったが、平成2,3年には303名、309名と落ち込んだものの、以降は350〜370名程度と落ち着いる。

3.卒後研修指導施設の指定基準と施設数

 研修医が研修を行なう卒後研修指導施設の指定基準を示す。卒後研修指導施設は医育機関附属病院、厚生大臣の指定する臨床研修病院、および一定の基準を満たす卒後研修カリキュラムの実施が可能である医療施設である。

 すなわち、他科との連携による総合診療が可能であり、年間分娩数が200件以上、帝王切開を除く婦人科手術が年間50件以上あること、複数の産婦人科認定医が常勤し、うち1名は8年以上の産婦人科臨床経験を有することが必要で、また図書館があり、産婦人科専門雑誌を5種類以上を定期的に購入していることが必要であり、症例検討会、抄読会等の集会が定期的に行われていること、学会発表、論文発表の機会が与えられ、指導が受けられることも条件に加えられている。

 卒後研修指導施設は現在の所、何施設程度あるのか昭和62年の認定医発足以来の推移を示した。昭和62年には636施設であったが毎年増加傾向をたどり、平成9年には773施設となっている。次ぎに、昭和62年以降の卒後研修指導施設数と、新規指定申請数、平成4年からの指導施設の更新状況を示した。施設更新時に不合格になる施設はほとんどなく、毎年、新規指定申請が15〜25施設程度あり、卒後研修指導施設が年々増加傾向にあることが読み取れる。

4.卒後研修指導施設の遵守事項

 卒後研修指導施設の遵守事項は以下のようなものである。

(1)所定の卒後研修カリキュラムに従った充実した研修が行われるよう5年間にわたる年度毎の研修計画を立案し、実行する。

(2)研修施設の指定は、産婦人科認定医を志す研修医のために行われるのであり、施設の宣伝等に利用してはならない。

(3)中央認定医制度委員会に卒後研修に関する報告書を毎年提出する。

 報告事項

 イ.所属研修医指名

 ロ.施設に勤務する認定医

 ハ.研修計画および実績

 ニ.その他

(4)指定後に指導基準に該当しない項が生じた場合は、その旨を速やかに地方委員会に報告する。

5.産科婦人科研修手帳

 現在用いられている産科婦人科研修手帳は1996年に改定されたものである。これまでは1986年に教育問題委員会が作成して卒後研修手帳を用いてきたが、1993年より試験による認定医認定が行われて入ることから、本制度の目的に沿うように教育・用語委員会、認定医制度委員会合同のworking groupによる研修手帳の改定を行なった。改定の主な点は、認定医制度卒後研修項目をより具体的に示し、年度別に到達目標を定めたこと、さらに自己研修とともに指導者評価を加え確実に各項目の研修が遂行できるようにした点である。また、多くの症例を記録できるように配慮し、認定医認定審査に際し本手帳を申請者が提示することにより研修を詳細に評価できるようにした。

 本手帳は認定医認定審査に必要な書類が添付され、審査に際し、そのまま提出できるようになっていることも特徴的である。したがつて、研修5年後の認定医認定審査には本手帳が必携のもののとなる可能性がある。

研修手帳は自己研修を目的としたものであり、これを用いて自己評価をこころみるだけでなく、指導者の評価も受け、研修の不足している箇所を補うことが目的である。研修手帳は産科関係、婦人科関係、認定医制度卒後研修目標、自己評価法、略語一覧表などより構成されている。また、産科婦人科研修手帳に綴じこまれた卒後2年間の認定医制度卒後研修目標と評価が特徴的である。評価基準はA、B、Cにランク別され各項目に対する自己評価と指導者評価欄が設けられている。

 さらに、卒後5年間の研修目標も分けて設けられている。卒後2年間のものと同様に、各項目に対して自己評価と指導者評価欄が作ってある。

6.研修医のいない研修指導施設

 ここで問題になるのは、研修医の存在しない、いわゆる0報告の卒後研修指導施設がかなりの数存在することである。平成3年ころより45%前後の施設より0報告があった。

 さて、卒後5年間の研修期間を終了すると認定医認定審査をうけることになる。

 認定一次審査は書類による経歴、研修歴審査で、地方委員会が担当する。認定医の認定申請ができる資格はわが国の医師免許を有する者で、通算5年以上本会会員であり、学会指定の卒後研修指導施設で、卒後研修目標に沿って通算5年以上の臨床研修を終了した者である。

 認定二次審査は書類審査と試験であり、中央委員会が担当する。平成5年より開始された認定医面接試験の申請者数と合格者数を示した。申請者数は年々やや減少傾向にある。さて、認定医に合格すると、さらに、日本医師会、日本医学会、学会認定医制度協議会の3者の追認による承認を受けることになる。この承認は、基本的診療領域とされる14学会のうち一定の条件を満たした学会の認定医に限ってなされるもので、同時に複数の認定の承認を得ることはできない。すなわち産婦人科認定医は他学会の認定医にはなれないことになる、現在の所、加盟学会は46学会である。

7.研修出席証明シール発行状況

 年度別シール発行状況を示した。過去5年間の合計ではシール発行総数は412,508枚で、そのうちAシール340,676枚、Bシール71,835枚であり、一人あたりシール枚数はAシール28.3枚、Bシール5.9枚であった。

 なおBシールは平成9年4月より1/3シールから1/2シールになっており、平成9年9月より日本医師会主催の生涯教育講座に対しても、産婦人科関連のものであればシール発行の対象とした。

8.わが国の認定医制度における問題点

 わが国の認定医制度における問題点は現在の所、以下のような項目が挙げられる。

(1)研修医の減少

(2)指導施設の数、質の問題(3)指導施設の指定基準の見直し

(4)評価方法の改善、認定医試験のあり方

(5)認定医制度の将来のあり方

 1)Subspecialityへの対応

 2)指導施設独自のプログラム、カリキュラム立案

 3)国際的視野に立った指導

(6)その他