平成10年4月13日放送

平成10年診療報酬点数改定のポイント

日母産婦人科医会常務理事 新家 薫

 本日は平成10年診療報酬点数改定のポイントについてお話いたします。今回の改定では、医療の質の向上分(医療機関における人件費・物件費の上昇分)として1.5%、医療の合理化分(長期入院の是正、検査・画像診断の適正化等)として0.7%、計2.2%の点数を引き上げ、また、薬価2.7%、医療材料0.1%、計2.8%の引き下げを行い、実質0.6%のマイナス改定となりました。これは国民医療費の4.7%を削減したことになります。当初国民医療費の6%を削減する予定でありましたから、日本医師会のご努力には深謝するものであります。今回改定の一般的な印象は、診療所と中小病院は外来・在宅機能を、大規模病院は急性期入院機能を評価し、医療機関の機能に応じた明確な格差を更につけたと考えます。また、中小病院では入院の平均在院日数の長いことと外来再診料が変わらなかったため、中小病院の経営が相当影響を受けると考えます。医療の質の向上分として、人件費に関連するものとして基本診療料・手術料・各種指導管理料・検査判断料・処方料等を引き上げました。また、維持管理費用として入院環境料等の引き上げ、その他短期入院における手術料の評価や地域医療支援病院入院診察料の新設が行われました。紹介患者加算として項目が二つ増えています。即ち、地域医療支援病院と特定機能病院に対し、別の医療機関から文書による紹介と救急患者の数も含めて、紹介率が80%以上の場合と60%以上80%未満の場合の2項目の点数を新設しています。

 次に産婦人科領域の手術料では、日母が要望した手術の中から、「卵管鏡下卵管形成術(18,000点)」と造腟術の中に「腟断端挙上によるもの(14,000点)」が、認められています。卵管鏡下卵管形成術は、FTカテーテルで非観血的に卵管を形成するものであり、腟断端挙上によるものは造腟術の中に入っていますが、子宮全摘術後などの腟断端の下垂に準用できます。更に、同一視野の併設手術として、腹腔鏡下腟式子宮全摘術と帝王切開術の場合に、広靱帯内腫瘍摘出術、子宮付属器腫瘍摘出術、子宮付属器癒着剥離術などを同時に行えば、これらの手術点数の半分が加算されます。

 医療の合理化分としては、長期入院の是正、検査・画像診断の適正化の他に病衣貸与加算の廃止、特定機能病院の再診での基本的診療行為を包括化、高額な医療における施設の限定、病衣貸与加算の廃止、高血圧症の減塩食を特別食加算の対象からはずすなどの改定が行われました。長期入院の是正に関しては、平成9年の改定で入院時医学管理料と看護科に平均在院日数の考え方を導入しましたが、今回の改定では、その運用を大幅に強化し、同じく9年改定で強化された標欠病院への入院時医学管理料、看護料の減額制も更に推進しています。

 検査の適正化のうち、検体検査料は検体検査委託料の実勢を考慮して、各種検体検査の平均8.0%の引き下げを行っています。これは院外検査の委託料と院内で検査を行っている医療機関とのバランスを考慮し、旧点数と委託料との格差の約4分の1を引き下げています。検体検査判断料は引き上げられていますが、院外に検査を委託している医療機関では、検査委託料の再チェックが必要です。一方、生体検査料は引き上げられていますが、超音波検査や分娩監視装置の検査では、日母が定めている運用を会員の先生方がお守り頂いた結果と考えております。これに比べ画像診断、特にCTとMRIに関しては医療費ベースで0.12%の引き下げが行われました。最近の購入価格や維持管理費用などによって計算したと説明されていますが、その裏には、あまりにもCTとMRIを併用する症例が多いためです。超音波検査もあまり適応をはずれた使い方をすれば、同じ運命になると考えます。

 医療法改定に伴う有床診療所の療養型病床群の療養環境の基準(I)については、(1)十分な構造設備があること、(2)機能訓練室他談話室など適切な施設があること、(3)十分な医師、看護婦(看護婦・准看護婦数6:1、看護補助者6:1)でありますが、(II)は機能訓練室と病床床面積は患者1人6.0平方メートル以上で、夜間は看護職員又は看護補助者1人以上いれば良いとされています。療養型病床群への移行を考えられている医療機関は、(II)であれば比較的簡単であると考えます。

 薬価の2.7%引き下げ分は、本来なら医師の技術料に振替られるべきでありますが、財政構造改革上の問題で0.6%分が振替られておりません。言い換えれば、従来通りの処方を行っていればその分だけマイナスになります。ゾロ薬品を含め、薬剤の購入費を再検討し、処方の仕方も考えなければなりません。日母では、今回の改定、特に薬価の引き下げが、どのくらい診療報酬点数に影響があるのか、3月分の診療報酬点数を新点数に置き換える作業を行っていますが、分かり次第、日母医報などでお知らせいたします。

 次に療養担当規則が新設されています。第2条の2、これは保険医療機関について、また、第16条の2は保険医に関してですが、「保険医療機関又保険医は担当した療養の給付に係わる患者の疾病又は負傷に関し、他の保険医療機関又は保険医から照会のあった場合には、これに適切に対応しなければならない」となっています。保険医療機関も保険医も他の保険医療機関や保険医から患者の情報の照会があった場合には、その知っている医療情報を提供しなければなりません。

 今回の改定では、入院時医学管理料の在院日数の短縮は見送られましたが、支払い側は、「長期入院の是非について何らかの対応が必要」としておりますので、次回改定までに何らかの審議が行われるでありましょう。また、その他外総診における主傷病名の明示や慢性疾患に対する計画的医学管理料等解決しなければならない問題が山積しています。

 今回のマイナス改定は、財政構造改革を踏まえたものでやむを得なかったのかも知れません。しかし、平成9年9月の健保法改定以降、医療保険が支払う金額は前年に比べ約10%程度低下しています。このことは本人の2割負担・薬剤の一部負担の導入により医療機関への受診の抑制に効果があったといえます。それでは平成9年9月以前の医療費の一部は、本当に国民にとって不必要な医療行為であったのでしょうか。むしろ国民は負担の増加で、最も必要な急性期初期の医療を我慢して受けていないのではないでしょうか。この受診抑制により保険者の支払い額は、医療保険分で平成5〜6年の水準に戻ったといわれています。財政構造改革の美名のもと支払い者側だけが楽になることは許されません。国民皆保険制度が整っていても、国民が安心して医療を受けられる制度でなければ、医療保険としての機能は失われてしまいます。国民の健康を守るため、国も支払い者側も真剣に政策転換を図らないと、良質な医療を国民に提供できなくなる時が来るような気がします。日母としても医療機関の機能別に産婦人科として、最も適した対応はどうあるべきなのか、慎重に検討し、会員の先生方にお知らせするつもりです。