平成10年5月25日放送

診療報酬改定の問題点

日母産婦人科医会幹事 秋山 敏夫

 診療報酬改定の問題点と題し、本年4月に改定となった社会保険診療報酬の産婦人科に対する問題点を検討する。

 今回の改定では、医療機関における人件費及び物件費の上昇分を医療の質の向上の名目で1.5%の引き上げ、長期入院の是正、検査・画像診断の適正化等を医療の合理化の名目で削減し、その財源を判断料などの充実に当てることにより、差し引き0.7%の引き上げとなり、合計2.2%の引き上げとなった。

 一方、薬価2.7%、医療材料0.1%の合計2.8%が引き下げられ、実質0.6%のマイナス改定となった。

 橋本内閣が打ち出した行財政改革により国庫負担の削減が社会保障にしわ寄せされる結果である。

 厚生省は当初4,200億円を削減し、国民医療費を1兆7,000億円に圧縮させる予定であった。しかし、不景気や患者負担の増加などより、国民医療費の伸び率が鈍化したため3,260億円に修正した。しかしこれでも国民医療費の4.7%の削減に相当する。

 一番の被害は、薬価引き下げであるが、実際は薬剤使用の多寡や院外処方等の事情により、それぞれの医療機関において、影響は異なるものと思われる。

 主な改定結果の診療報酬項目別では

 1)医療技術の適正な評価として、診療所では初診料と再診料、病院では入院時管理料・  看護料等を評価し、小児医療に対する指導料等の対象年齢も引き上げ。

  技術料の適正評価の趣旨から、検査判断料・処方料・調剤料、手術料の引き上げ。

 2)維持管理費増加の対応として、入院管理料・療養型病床群の療養環境料を引き上げ。

 3)医療機関等の機能に応じた評価として、地域支援病院に入院診療料を新設し、紹介  患者加算を追加。診療所療養型病床群にも、入院医療管理料を新設。

  診療報酬の合理化という面で、老人医療の適正化、長期入院の是正、検査・画像診  断の適正化、病衣賃与加算の廃止等が行われた。

 今回改定の一般的な印象は、診療所と中小病院は外来・在宅機能を、大規模病院は急性期入院機能を評価し、医療機関の機能に応じて明確な格差をつけたと思われる。また、平均在院日数の長い中小病院の入院と外来再診料が変わらなかったため、中小病院の経営が相当影響を受けると考えられる。

 産婦人科に限って見ると、処置料、手術料、麻酔料と判断料が増額となった。一方血液・生化学検査、病理検査やCT・MRIなどの画像診断は軒並み減額となり、項目や回数に対するより一層の注意が必要となる。しかし検査の内でも、生体検査である超音波検査の点数が増額された。適応に対しより一層の厳守が必要と思われる。さらに分娩監視装置の点数も増額された。これは、生体検査判断料の追加項目として要望していたものが見送られたためかも知れない。

 また、薬価も引き下げられた。支払基金の調査によると、産婦人科は院外処方箋の発行が10%以下と最も少ない科であり、今後院外処方の活用が必要と思われる。

 今回改定に於ける産婦人科の要望に関して

 「産婦人科診察料加算の新設」は不採用

 平成8年の改定時から、産婦人科を専門とする医師が内診や腟鏡診を行った場合に、診察料加算が認められるよう要望。診察料は精神科や小児科では認められているが、医師数の多い産婦人科では影響が大きいためか見送られた。

 「特定疾患療養指導料対象疾患の追加」

 疾患には卵巣機能不全と卵巣機能欠落症、更年期障害を希望したが、不採用になった。厚生省から日産婦にこれら疾患の概要・患者数などの問い合わせがあり、採用されるのではないかと期待された。しかし、内科系学会社会保険連合や外科系学会社会保険連合からもたくさんの対象疾患が要望され、結局、思春期早発症と染色体異常の2疾患のみが採択され、産婦人科からの要望は見送られた。

 「産科手術点数の改定」では日母医報の解説通り

 緊急と選択の帝王切開、骨盤位娩出術、吸引娩出術、鉗子術、子宮頚管縫縮術、

流産手術と要望した全てが増額

 「婦人科手術点数の改定と新設」

 子宮鏡下子宮筋腫摘出術と中央腟閉鎖術の増額は不認、他の手術は各々増額。

 新設手術は腟断端挙上術のみ14000点で新設。以前は準用点数であった腟絨毛性腫瘍摘出術が14500点で収載。何れも、たくさんある手術ではないが、施行するときは躊躇なく使用できる。

 「同一視野において併せて行える手術の適応拡大」

 帝王切開時に子宮筋腫核出術、子宮付属器腫瘍摘出術、子宮付属器癒着剥離術、広靭帯内腫瘍摘出術を併せて行った場合と、腹腔鏡下腟式子宮全摘術に子宮付属器腫瘍摘出術、子宮付属器癒着剥離術、広靭帯内腫瘍摘出術を併せて行った場合100分の50の加算が認められる。

 「コルポスコピーの点数改定」

 この診療報酬点数の設定は、機器購入費に比べ低く、フィルム代、撮影料及び診断料が含まれる。このため点数の増額、あるいは通則を改定し、内視鏡検査の算定やフィルム代が請求できるよう要望、130点から150点に増額、通則は従来通り。

 「分娩監視装置の適応拡大」

 「微弱陣痛に対する陣痛促進を行った場合」の追加を要望。現在、陣痛促進剤の添付文書には分娩監視装置の使用を義務付けており、これを要望。前回改定時厚生省は適応拡大を約束したが、採択とはならなかった。今回の要望ではすんなり採択されると思われたが、再び不採用となった。この問題は重要であり、日母としては、再度厚生省や日本医師会と折衝していきたい。一方、検査料は1時間以内が300点から400点に、1時間30分以内が450点から550点に、1時間30分を超えた場合が600点から700点に増額。

 「赤血球不規則抗体を算定できる対象手術の拡大」

 現在この検査は輸血歴又は妊娠歴のある患者に対し、胸部手術、腹部手術、帝王切開術が行われた場合に算定が可能であるが、婦人科の出血量が多い手術に適応拡大を要望したが、不認。

 「人工羊水注入法(腹式、腟式)の点数新設と羊水穿刺の点数改定」

 人工羊水注入法は600点が新設。しかし、この処置を施行する場合、超音波断層法及び子宮内圧測定の施行が義務付けられている。超音波検査は550点、子宮内圧測定法は一般的ではなく、市販されている器具も高価であり、果たして逆ザヤになる処置が行われる可能性は低いと考える。しかし、この点数が収載されたということは、羊水過少症や前期破水に使用せずに問題が発生した場合の対処を考えておく必要がある。

 「特定注射薬剤指導管理料の適応注射品目の拡大」

 多胎妊娠やOHSS予防のためHMG製剤とHCG製剤、副作用の問題があるGnRHa製剤を要望したが、不認。

 今回、新たに30日投与可能な厚生大臣の定める注射薬に性腺刺激ホルモン製剤が認められた。またこの薬剤は在宅自己注射指導料と精密持続点滴注射の対象薬となり、自動輸液ポンプを用いて少量を間歇的に在宅注射できる可能性が出てきた。しかし製薬メーカーでも添付文書との絡みでこの適応に関し結論がでていない。

 その後の情報では、前述の様に思春期早発症が特定疾患療養指導料の対象疾患に採択され、それに伴う適応拡大と思われ、婦人科領域では使用できない。この問題については、今後日母医報で解説していきたい。

 今回の改定では、入院時医学管理料の在院日数の短縮は見送られたが、支払い側は長期入院の是正を挙げており、次回改定までに審議が行われると思われる。その他外総診における主病名の明示や慢性疾患に対する計画的医学管理料等、解決しなければならない問題が山積している。