平成10年11月23日放送

 全国支部がん対策担当者連絡会より

 日母産婦人科医会幹事 大村 峯夫

 本日は去る11月8日に東京の京王プラザホテルにおいて行われました、平成10年度全国支部がん対策担当者連絡会についてお伝えいたします。

 この連絡会は全国支部のがん対策担当者の先生方に年一回お集まりいただき、婦人科がん検診に関わる諸問題を支部間、あるいは支部本部間でご協議いただき、支部からの要望を伝え、また本部よりの伝達事項を支部の会員にお伝えいただくために開催されております。

 また、婦人科がん検診に関連の深い講師をお招きして、その時々の新鮮な話題について講演していただく企画も、例年実施しております。

 さて本年はがん検診にたずさわる我々にとりましては、非常に大きな問題を抱えた年になりました。一つは昨年12月に公表されました、老健法に基づくがん検診に関わる、国庫補助金の一般財源化の問題です。またもう一つは今年4月に発表され、マスコミでも大きく取り上げられた「がん検診の有効性評価に関する研究班報告」です。

 これらはいずれもがん検診の根幹を揺るがす重大問題であり、これらの問題を中心に、連絡会では6時間にわたり熱心な協議が行われました。

 出席者は坂元会長をはじめ67名で、連絡会は本多副会長の開会の辞で始まり、まず坂元会長が冒頭に挨拶をされました。

 会長はこの中で人口の増加を例にとり、スクリーニングの重要性を説き、がんの検診は重要な問題であることを説明し、各論として乳がん検診とマンモグラフィーのあり方にも触れました。またがん検診の精度管理がいかに重要であるかを力説されました。

 続いて永井がん対策担当常務理事、利部がん対策委員会委員長、薬師寺日産婦学会婦人科腫瘍委員会委員長の挨拶がありましたが、薬師寺委員長は前日に開かれた婦人科がん検診学会に日母会員が積極的に参加し、各種の問題に取り組んでいる姿勢を高く評価されました。

 次に報告事項に移りました。永井常務理事は中央情勢報告として、がん検診に関わる国庫補助金の一般財源化の問題や、検診の有効性の問題については、本日の特別講演をふまえて、また乳がん検診にマンモグラフィーを導入する問題についても、すでにモデル地区を設定し、検診や研究会の具体的な方式を検討中であると実状を報告し、十分な協議を要請しました。

 次に、例年行っている各支部の婦人科がん検診料金調査結果について報告をしました。

 この中で、本年は特に補助金のあり方が大きく変わりましたので、平成10年度の実状と11年度の見通しについてもおたずねしました。

 その結果、平成10年度は各自治体の予算編成後ということもあり、ほとんどの地区で例年並の検診が行われていましたが、平成11年度に関しては見通しが立っていないのが現状のようです。

 これから暮れにかけて予算編成が行われる自治体が多いので、くれぐれもがん検診の縮小、中止といった事態の起こらないよう、会員の皆様には、十分に関係当局への働きかけをお願いいたします。

 続いて特別講演が昼食を挟んで2題行われました。まずはじめに「がん検診国庫補助金の一般財源化に関する今後の動向」と題して、厚生省老人保健課の関課長補佐が、講演されました。

 関先生は前日の婦人科がん検診学会で老人保健課西山課長も話されたように、国庫補助金の一般財源化にいたる経緯より説明され、これからの国のがん検診に対する関わり方について言及されました。

 この中で、今後の方向性として、1.がん検診の厳密な効果判定、2.受診者の利便性も考慮した検診による、受診率の向上、3.インフォームドコンセントの問題、4.検診精度の向上、の4つを挙げられました 特に成人病検診管理指導協議会の活性化による精度管理は重要なので、開催主体は自治体ではあるが、国としても指針は出したいと話されました。これに関しては質問が相次ぎ、何とか国から自治体に指導できないか、との意見も出ましたが、国としては自治法の建前上、要望できるだけであり、日母会員からも自治体に強く働きかけてほしいと結ばれました。

 2番目の特別講演は「子宮がん、乳がん検診の有効性とこれからの対策」と題し、東北大の久道医学部長によって、行われました マスコミ等の報道でご存じの通り、久道先生は厚生省のがん検診の有効性評価に関する研究班の班長であり、大変お忙しい中を我々日母会員のために駆けつけていただきました 先生はこの講演で、我が国のがん検診の歩み、研究班発足の経緯、から説き起こされましたが、1.がん検診に関する情報提供の必要性があり、2.がん検診の見直しが必要かどうかを見定めるため、3.専門家の科学的検討による意見を求める、というプロセスより研究が始まったと述べられました。

 研究方法の詳細な説明をされた後、結論として1.子宮頚がん検診に関しては十分な精度と効果が認められること、2.子宮体がん検診に関しては効果が推定されるものの、未だ十分検討されておらず、今後の早急な研究が待たれること、3,乳がん検診については視触診のみや、自己検診に関しては有効性を示す根拠は必ずしも十分でなく、マンモグラフィーを導入しての検診は有効性を示す確かな証拠がかなりあるので、今後はこの方向で検討されると結ばれました。また、精度管理に関しては各県の成人病検診管理指導協議会の存続がのぞましいと話されました。

 この後、各支部よりの提出事項に移りましたが、今年はシンポジウム形式でいくつかの支部より実状、問題点を出していただき、これを軸として協議を展開してゆくという方式をとりました。

 まず、岩手県支部の小林先生が、地区医師会長という立場からお話しされましたが、自治体との交渉に関する苦労を説明されました 次にがん検診先進県として、宮城県の東岩井先生が成績などの報告を行い、千葉県の八田先生は多様な検診方式を抱えた県の悩みを訴えられ、島根県の岩成先生は人口が少なく、人口移動の少ない県の状況を述べられました。最後に熊本県の橋本先生は、行政にたずさわる立場からの、検診に対する対応などを述べられました。

 各支部担当による議論は白熱し、ティータイムもとらず、そのまま各支部提出事項の検討に入りましたが、その多くは当日のメインテーマである「がん検診の有効性の問題」「一般財源化の影響」などで、そのほか受診率の向上策や、マンモグラフィー導入に関する質問など、様々な意見が出されました。

 また、本部への要望として、がん検診の有効性をわかりやすくPRするパンフレットを作ってほしい、というものがあり、これについては早急に検討の上、実現に向けて動き出すつもりである、と回答がありました。

 今回も非常に内容のある連絡会となりましたが、会員の皆様にも、がん検診を巡る厳しい情勢の中、婦人科がんの撲滅に向けて、さらなる努力を要請してやみません。