平成11年3月1日放送
 日母医療対策部から
 日母産婦人科医会常務理事 佐藤 仁

 今日は日母医療対策部が最近行った三つの調査事業である「新規開業施設の実態調査」と「超音波診断装置の保有、活用状況の調査」さらに「出産・育児についてのアンケート」について報告します。
 最初の「新規開業施設実態調査」は都道府県日母各支部に最近10年間に開業した会員のリストアップを依頼し、699施設のうち675施設に郵送によるアンケート調査を平成9年10月に行い、59.4%401施設の回答を得て、その結果をまとめたものです。更にこの中から、ビル開業、女性医師について、また後継者問題についても検討してみました。
 この調査は、
「標榜科名」では産婦人科が88%、この内44%が併科を掲げていた。
「病床数」は11〜19床が30%で最も多く、無床は1l%であった。
「新規か継承か」では新規開業が79%を占め、新規開業では40歳代が多く、継承では20〜30歳代が多かった。
「開業時の年齢」は平均卒後17.5年で40歳代の開業が最も多く、半数を占めていた。
「分娩」を取り扱う施設は62%、
「母体保護法指定医」は89%であった。
「特殊外来」などに力を入れている施設が多いが、分娩や不妊症に関する診療は盛業に結びつき、カウンセリング的な診療の経営は良くない傾向にある。全体の61%がかかりつけ医の役割を果たしており産婦人科開業医も様々な形で地域医療に貢献していることがうかがわれた。
「診療時間」では65%が分娩以外の夜間救急外来に応じており、大都会よりも郊外の方が71%と多かった。いわゆる夕診、夕方の診療は43%が行っており、こちらは大都市の方が56%と多かった。日祭日も9%が外来診療を行っていた。
「地域的な特長」としては大都市では分娩の取扱いが30%と低く、一施設あたりの分娩数も低かった。
10年間の後半では20〜30%歳代の開業が減り40歳以上の開業が優位で多く、卒後20年以降の開業が増加している。これらから比較的高齢で分娩を取り扱わないビル開業が増加する傾向が認められる。
「女性医師」は全体の9%であったが、大都市に多かった。診療では思春期外来、更年期外来などが多く、病床なしが33%あり、大都市でのビル開業の比率が高い。 女性医師の53%がビル開業で大都市と中都市に多い、特殊外来が特徴的であり妊婦健診の比率は低かった。約半数が夕方の診療をしており、感想としてビル開業は苦しいけれど開業して良かったとするものが多い。
「ビル開業」は全体の21%を占め、すべて診療所であり0及び1〜3床が9割を占めています。
「看護婦・助産婦」正看と准看の比率については大都市のみ正看が准看より多く、他地域は准看の方が多かった。ビル開業、ベット数3床以下、分娩を取り扱わない施設に正看が多く、大都市のビル開業を中心に勤務時間など労働条件の良いところには正看護婦が集まるが、これは特に地方で分娩を扱って日本の人口維持に寄与している開業医の施設が准看の力でやっと動いているという実態が示されている。また相当数の分娩を扱っている施設でも助産婦なしや少人数の施設もあり助産婦不足が伺われた。
「現在の経営状態と感想」で20%が盛業中、51%が普通、やや苦しいと大変苦しいが合わせて19%であった。40歳代、卒後11〜20年に、また年間300件以上の分娩を取り扱う施設及び人口妊娠中絶が年間50件以上多くなるほど盛業の率が高くなる。開業して良かったが54%で半数を超え、後悔しているは6%であったが、しかし後輩に開業を勧めるという回答は少ない。
「悩んでいること」では過半数が学会出席の時間がないことをあげ、次いで忙しくて健康を損ねるが続く、「後継者の問題」で悩みを挙げたのは11%と低かった。
 総括として、やりがいのある仕事として充実した生活を送っているものの、開業は苦労が多く、経営も楽ではないとの回答が多い様であった。

 次に、種々の要件から保有率が世界のトップレベルになった日本の産婦人科医療機関の「超音波診断装置の保有、活用状況の調査」について述べる。
 委員会メンバーの協力を得られた群馬県と福島県の2県と横浜市と新潟市の2都市の産婦人科を標榜する全医療機関526施設を対象にアンケート調査を依頼し389施設74%より回答を得て集計、分析した。
 施設形態により当然格差が出るであろうため、まず病院と診療所を分け、また診療所を、分娩を取り扱う施設、分娩を扱わず妊婦健診のみの施設、分娩、妊健共に扱わない施設に分けて、また地域格差を見るために都市域、地方域に分け、集計、比較、分析した。
 保有状況は95%で地域格差なし、産科での活用状況は胎盤の位置、BPD、CRLの順で70%を越えているが分娩を扱わず妊健のみの施設の活用率が低かった。婦人科での活用率は卵胞経計測、初診時に必ず、子宮内膜計測、卵巣癌検診、子宮体癌検診と続くが、50%は越えているものの、65%には達していない。婦人科では病院・診療所の格差が大きく、特に分娩も妊健も扱わない婦人科のみの施設の活用率の低さが目立った。
 診療所における婦人科外来での超音波診断装置のより一層の活用が望まれる。
 同時に行った、分娩監視装置とインフュージョンポンプの保有活用状況は、分娩監視装置に関しては88%の保有率で病・診の格差はなかったが、病院では分監とポンプの保有率、活用率がまったく同一レベルであったが、診療所では分監の普及度に比べポンプの導入が際立って遅れていた。ポンプは分娩時のみならず、精密持統点滴注射にも活用できるので診療所における保有率の向上が望まれる。

 さらに、医療対策部では、日常臨床の場で、多くの妊産婦に接している我々産婦人科医が少しでも少子化対策について考え、対応していくための参考資料になればと思い、「出産・育児についてのアンケート」調査を行った。対象は平成9年4月〜6月の間に委員会メンバー及び15都府県の紹介59施設で出産した出産後1年の育児中の母親6,340人にアンケートを依頼し3,050通の回答を得て集計・分析を進めている。
 膨大な資料で現在分析中だが、育児中の母親の生の声は昨年の厚生白書とは一味違ったもので、地域の病院や医院への要望などは、今後の我々産科医療・医業都ともに少子化対策にも非常に役立ち参考になるものと思われる。近日中に小冊子に編集し、機会あるごとに発表し、また、全国各支部に送付する予定になっている。
 興味のおありになる先生は各支部または日母に問い合わせて頂ければ対応いたします。なお、今年1月の日母医報「医療と医業特集号」にも掲載されています。