平成11年3月29日
 平成10年度社保の動き
 日母産婦人科医会幹事 秋山 敏夫

 本日は平成10年度社保の動きと題しまして、昨年度の社会保険全般にかかわる幾つかの事柄を振り返ってみたいと思います。
 最初は、昨年4月に行われた診療報酬点数改定であります。
 今回の改定では、医療の質の向上として1.5%、医療の合理化として0.7%の計2.2%の点数引き上げと、薬価2.7%、医療材料0.1%の計2.8%の引き下げを行い、実質0.6%のマイナス改定となりました。しかし、実際には薬剤使用の多寡、院外処方等の事情により、各々の医療機関において影響は異なるものと考えられます。
 今回の主な改定結果は次の通りであります。
 医療技術の適正な評価としまして、診療所では初診料と再診料、病院では入院時管理料・看護料を評価しました。その他、小児医療の対象年齢の引き上げ、検査判断料、処方料・調剤料、手術料の引き上げが行われました。
 維持管理費の増加への対応としまして、入院管理料・療養型病床群の療養環境料が引き上げられました。
 医療機関の機能に応じた評価としまして、地域医療支援病院に入院診療料が新設されました。また紹介患者加算が追加されました。
 なお、診療報酬の合理化という面では、老人医療の適正化、長期入院の是正、検査・画像診断の適正化、病衣貸与加算の廃止などが行われました。
次は、診療報酬点数改定に関する産婦人科の要望であります。
 本会は17項目の要望を提出し、次の項目が採択されました。
 産科手術点数の改定では緊急帝王切開、選択帝王切開、骨盤位娩出術、吸引娩出術・低位鉗子術、中位鉗子術、子宮頚管縫縮術、流産手術が増額されました。
 婦人科手術点数の改定では子宮内膜掻爬術、子宮付属器腫瘍摘出術、子宮全摘術、卵管鏡下卵管形成術、マンチェスター手術が増額されました。
 婦人科手術点数の新設では腟断端挙上術が14000点、腟絨毛性腫瘍摘出術14500点、腹腔鏡下手術における超音波凝固切開装置の使用による加算の2000点が新設されました。
 同一視野において併せて行える手術の適応拡大では帝王切開時に子宮筋腫核出術、子宮付属器腫瘍摘出術、子宮付属器癒着剥離術、広靭帯内腫瘍摘出術を併せて行った場合と、腹腔鏡下腟式子宮全摘術に子宮付属器腫瘍摘出術、子宮付属器癒着剥離術、広靭帯内腫瘍摘出術を併せて行った場合に100分の50の加算が認められました。
 コルポスコピーの点数改定と内視鏡通知の変更では僅か20点の増額でありましたが、通知の変更により、全ての内視鏡において生検用ファイバースコピーを使用して組織の採取を行った場合、内視鏡下生検法300点の加算、写真診断を行った場合の使用フィルム代、当該保険医療機関以外の医療機関で撮影した内視鏡写真について診断を行った場合の点数が一回につき70点で追加されました。この場合、子宮腟部組織採取料の算定はできません。
 人工羊水注入法(腹式、腟式)の点数は600点で新設されました。羊水過少症の患者に対して、超音波断層法検査及び子宮内圧測定を施行し、適正な注入量の羊水を子宮内に注入した場合に算定されます。なお、当該手技に伴って実施される超音波検査等の費用は所定点数に含まれる、とされており実質は僅かですが新点数が採用されたことは評価されると思います。
 診療報酬点数改定による点数の変更では
 特定機能病院外来診療料90点、退院共同指導料150点が新設されました。再診料の算定では、初診・再診の同一日であるか否かにかかわらず、単に検査・画像診断・手術を受けに来た場合、検査・画像診断の結果を聞きに来た場合、往診後に薬剤のみを取りに来た場合等では算定できなくなりました。医報10年6月号を参照して下さい。
 超音波断層法では、断層撮影法が胸腹部550点とその他350点に区分されました。産婦人科領域は経腹・経腟いずれのプローブを用いても550点の算定が可能でありますが、乳房と肛門は体表に含まれ350点の算定となるので注意が必要であります。
 注射料では血漿成分輸注情報管理料加算50点が新設されました。血漿成分を輸液するにあたってその要点を患者に説明する義務があり、患者若しくはその家族からの同意を必要とします。医報10年11月号を参照して下さい。
 次は、産婦人科診察料の解釈であります。会員必携No.20「医療保険必携」平成10年度版及び日産婦誌50巻6号及び11号に、妊婦が疾病に罹患した場合の算定法及び新生児の初診料について解説してあります。最近、医療における情報公開の推進が時代の趨勢となりつつあります。カルテやレセプトの開示、インフォームド・コンセントの徹底など産婦人科を取り巻く環境も厳しくなってきています。そこで解釈が微妙な点を検討し改訂しました。
次は、日本産科婦人科学会と共同で行っている事業についてであります。
 DRG/PPS問題では、平成9年度社保の動きで報告しましたが、現在、日母と日産婦から委員を選出し診断群の選定作業を行っています。国立系10病院における保険給付の対象となる異常分娩の考え方が本会と異なり、その取扱いに関し協議を行なっています。
 研修医に対する保険指導では、医師法や保険医療養担当規則の内容等の理解を深めることを目的に、合同で日産婦誌の研修コーナーにこれらを解説することにしました。これにより医師となった早い時期から適正な保険診療が行えるよう指導していく予定で、昨年の四月号から掲載しています。また、認定医試験にも応用していく予定であります。
 妊娠・分娩の給付のあり方について、本会としましては、妊娠・分娩・育児については、一貫した高いレベルの現金給付を平等に施行しうることが真の母性福祉であると考えられます。しかし、最近の少子化問題との関連で、妊娠・分娩給付のあり方が再び問われています。本会としましては、現金給付堅持の方針でさらなる理論付けを行い、委員長名で答申することとしました。
 性腺刺激ホルモン製剤の自己注射について。本年の点数表改定に伴う実施上の留意事項で、「在宅における排卵誘発を目的とする性腺刺激ホルモン製剤を用いた治療については、在宅自己注射指導管理料は算定できない」とされましたが、解釈を誤ると管理料を算定しなければこの治療を行えるとも考えられます。これを鑑み日医疑義解釈委員会に対し、その注意点の追加を要望し、日産婦誌50巻8号に発表しました。
 なお本法は現在、日産婦生殖・内分泌委員会で検討されており、将来、安全に使用できる場合、本管理料の算定ができると考えられております。
 「胎児仮死」用語の問題点。本来fetal distressは分娩中の胎児の生理的常態を少し逸脱し、放置すれば仮死に至る状態と解釈すべきであり、未だ仮死であるわけではありません。しかし、一般からみれば死の一歩手前とみられ、この言葉のみで訴訟に発展することも危惧されます。 最近、これらを考慮、レセプトに以前のような「胎児切迫仮死」「胎児ヂストレス」「胎児仮死疑い」等の傷病名が散見されます。fetal distressは1976年に定義され、その後に分娩監視装置が用いられるようになった経緯を鑑み、用語及び定義の再検討を日産婦学会用語委員会に提案しました。
 次は、平成11年4月診療報酬点数改定に関する産婦人科の要望であります。
 平成11年は大幅な改定は行われませんが、一部の変更があると考えられ、本会と日産婦で協議の上、「赤血球不規則抗体検査を算定できる対象手術の拡大」「外陰・腟血腫除去術」「内視鏡下粘膜下筋腫レーザー焼灼術」「バルトリン嚢胞造袋術」の4項目の要望を提出しました。
 産婦人科薬剤の適応外使用について。以前より学会・ブロック社保協議会・社保委員会等で要望されてきました「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱い」について、データの収集や学術的検討を行ってきました。現在、厚生省や日本医師会に対しての効果承認や一部変更承認申請方法を検討中であります。
 次は、社保委員会における委員提出議題であります。これはブロック社保協議会・
委員会で質疑のあった項目の一部であります。
 クラミジア頸管炎における検査法ではクラミジアトラコマチス抗原精密測定260点、同核酸同定精密検査330点、同核酸増幅同定検査340点のいずれの方法でも算定は可能であります。
 開腹手術における癒着防止フィルムの枚数。このフィルムは妊孕性を保つことを目的としており、子宮・卵管の存在と年齢が条件となります。インターシード、セプラフィルムとも二枚までの使用が可能であります。
 流産手術時の麻酔法。麻酔法の選択は保険診療の原則に従って、経済的にも考慮を払いつつ必要に応じ妥当適切な方法を選ぶべきとされており、静脈麻酔が第一選択とされますが、重大な合併症がある場合は閉鎖循環式麻酔の算定も可能であります。
 腹腔鏡下手術後の処置点数は術後創傷処置の49点で3〜4日程度が適当と考えます。
 全ての麻酔時における呼吸心拍監視の算定。日母研修ニュースNo.3「静脈麻酔」には、この麻酔時にモニターの装着を強く勧めています。呼吸心拍監視の通知には「重篤な心機能障害若しくは呼吸機能障害を有する患者又はそのおそれのある患者に対して、常時監視を行っている場合に算定されるものである」とされ、静脈麻酔時もこれにあたると考えられます。既に一部の支部では算定が認められており、今後、社保委員会やブロック協議会で討議されることが期待されます。
 妊婦健診とともに保険診療をした場合の実日数と再診日数の違いに関するコメントは
 「再診料は妊婦健診にて徴収済み」あるいは「基本診察料は自費にて算定済み」等を 記載して戴きたいと思います。
 HMG治療中の頸管粘液検査の回数は1クール4〜5回が妥当と思われます。
新たに保険適応となった検査項目。まずアムテックですが、妊娠22週以上37週未満の破水診断のための検査法として300点で保険収載されました。これは腟分泌液中のαフェトプロテイン検出法であります。頸管腟分泌液中癌胎児性フィブロネクチン(270点)とは同様な検査であり、併施は認められません。但し検査日が異なれば両者の算定も可能であります。各々診断確定まで1〜2回のみとなります。
 アムニテスト。平成10年12月1日より、妊娠22週以上37週未満の破水診断のための検査法として270点で保険収載されました。腟分泌液中のヒトインスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)検出法であります。頸管腟分泌液中癌胎児性フィブロネクチンを併せて実施した場合は、主たるもののみ算定するとされており併施はできません。 本テストは4月頃より発売される予定であります。 なおアムテック、アムニテストとも頸管粘液採取料の算定はできません。
 以上が平成10年度までの社保部の動きであります。平成12年には診療報酬の大幅な改定があり、既にその準備を始めています。今後の御支援の程宜しくお願い致します。