平成11年6月28日

小冊子「ホルモン補充療法」より

自治医科大学産婦人科生殖内分泌不妊センタ−長 荒木 重雄

 

 日本母性保護産婦人科医会では女性保健診療委員会が中心となりホルモン補充療法を推進することとなり、具体的な啓蒙策を検討して参りました。

 この度、「ホルモン補充療法のすすめ−快適で健康な中高年のために」と題する冊子を作成いたしました。これは母子保健における妊婦手帳のようなもので、中高年女性がホルモン補充療法を理解するための情報を提供すると共に、ホルモン補充療法を施行する際のインフォームドコンセントに役立てていただきたいと思っております。

 中高年女性にとりホルモン補充療法の意義を判っていただけるよう、平易な言葉使いで書かれております。定価は200円と安価ですので、全国的の第一線の先生に広く活用していただけるものと期待しております。

 以下、内容についてご説明致します。

 まず表紙の裏面には「日本女性は平均寿命がのびて、閉経後の人生が30年以上になりました。この時期を健康にすごすために、ホルモン補充療法は大きな助けとなります。この小冊子を読んでホルモン補充療法を理解し、ご自分の健康管理に役立ててください。」と日本人の平均寿命をグラフにした分かり易い説明があります。

 2頁目には「女性の一生にはホルモンが深く関与しています」と題してホルモンの意義について説明しています。

 その内容は、このごろ、からだの調子はどうですか、女性は45歳を週ぎるころから、からだの調子が少しずつ変わっていきます。月経の周期が短くなったり長くなったりして、アラッと思うひとが増えてきます。

 そのうち埋由もないのにからだが急にほてったり、のぼせて顔がまっ赤になったり、やたらに汗をかくようになったり、といった話がきかれるょうになります。

 胸がドキドキして心臓病かと恩う、夜よく眼れない、腰や手足が冷えてつらい、肩こりようつうや腰痛がひどい、疲れやすくていつもからだがだるい、イライラして気分がおちこむ、こうしたいろいろの症状に悩むひとが多くなります。こうした訴えは更年期症状とよばれるもので、45歳を過ぎた女性にはめずらしくありません。

 次の頁には加齢に伴う異常、月経不順、のぼせから高脂血症や骨粗鬆症までがグラフで示されています。

 4頁から5頁には簡易更年期指数による、更年期障害の自己診断法が載っています。

 その中に、「問診表で更年期障害の程度をチェツクしましょう更年期の女性によくみられるからだの不調を表にしてみました。あてはまる症状があれば点数をつけて、合計点をだしてみましょう」と自己診断を勧めています。

 結果は、合計点で示され、それに応じたアドバイスがあります。

  0〜25点 :異常はありません。

  26〜50点:食事や運動に気をつけるなど、日常生活に注意をすればいいでしょう。       気になるかたは、産婦人科医にご相談ください。

  51〜 65点:産婦人科医によるホルモン補充療法で、早期に症状が改善します。

  66〜 80点:産婦人科医による、多少長めの計画的なホルモン補充療法が必要です。

  81〜100点:心療内科などの専門的な治療が必要な場合もありますので、産婦人 医にご相談ください。

 と、記載されており、スコアーから治療の見通しがつくようになっています。

 6頁は、不正出血、性交痛、尿失禁の有無を記載するようになっています。これらは、年齢でしょうがないものとの認識の女性が多いので、あらためて記載していただくようになっています。

 次の頁には「更年期障はひとによって、あらわれかたや感じかたがちがいます」と題して、更年期症状の多様性を説明しています。その中には「ひとによって、さまざまなあらわれかたや感じかたをするのが更年期障害の特徴です。更年期障害をまったく感じないで、更年期を過ごすかたがいます。反対にいろいろな症状がかさなって、寝込むくらいつらいと訴えるひともいます。寝込むほどではないけれど、毎日の生活に影響するような症状に悩まされたり、そんなにぴどくはないけれど症状が気になったりと、ほんとうにさまざまです。なかには埋由もなく不安になったり、イライラしたり、憂うつになったりといった精神的な症状のために、毎日をウツウツと過ごすかたもおられます。ひとによってちがいますが、女性が閉経を迎えるのは45−55歳くらいの間といわれています。女性はこのころ、多かれ少なかれ更年期症状を感じているのではないでしょうか。自分がどのような症状に悩んでいるかをふりかえって、更年期や更年期以後の長い年月を、快適に過ごすにはどうしたらいいか、真剣に考えてみましょう」と問いかけています。

 8頁には、「ホルモン補充療法は、ほてり、発汗、動悸、不眠などの症状を改善します」と題しホルモン補充療法の有効性を述べています。

 9頁から10頁には、「ホルモン補充療法は尿がもれる、痛くて性交がつらい、肌のうるおいがなくなった、などの症状も改善します」と題し、中高年女性の関心の強い事項を平易に説明しております。

 さらに、11頁では、「ホルモン補充療法は骨粗鬆症や動脈硬化、アルツハイマー病にも有効です」と題して、最近話題になっていることについてもふれています。

 13頁には、以上述べたことをまとめ、「ホルモン補充療法は中高年の女性の快適で健康な生活を助けます」と題し、ホルモン補充療法の意義を包括的に述べています。

 14頁には、自分に合ったホルモン療法を受けましょうと題し、ホルモンの投与法にいくつかの方法があることを説明しています。その中で、「さらに、目的によっては5年から10年、あるいはさらに長期に服用しても良い旨の説明があります」とのべ、継続的な使用を勧めています。

 16〜17頁には、消退出血が苦にならない女性には周期的投与法を、消退出血を好まないやや高齢の女性には持続併用療法を、子宮摘出女性にはエストロゲン単独療法や貼付剤についての説明があります。

 18頁には、ホルモン補充療法を受ける場合の注意事項、禁忌について触れています。

 19頁には、乳房検診、子宮癌検診、肝機能検査、脂質検査、骨密度測定などの必要性が述べられています。最後は、患者と医師の連絡表もあり、十分配慮された内容になっております。

 以上述べましたように、HRTに必要な知識をコンパクトにまとめてあり、診療に当たる医師にとっても、HRTを受ける患者さんにとっても、判りよい冊子となっております。本冊子の編集に携わった者の一人として、本冊子が日母会員に幅広く普及し、中高年女性の健康増進に役立つことを心から願っております。