平成11年8月30日放送
マンモグラフィ読影に関する研修会を終えて
日母産婦人科医会幹事 大村 峯夫
本日は去る7月3・4の両日に行われました、日母と乳がん検診学会共催による、乳がん検診用マンモグラム読影に関する研修会についてお話しいたします。
日母女性保健部がん対策では、本年度事業の重点項目の一つとして、乳がん検診に関するマンモグラム読影講習会の開催をあげております。
これは厚生省が乳がん検診に画像診断を導入する方針を決定したことを受けて行われたものですが、ここでいう画像診断とはマンモグラフィーを指します。
さて、日母では従来より、視触診による乳がん検診を推奨してきており、1979年頃より高まってきた会員の要望に応える形で、「産婦人科医と乳房」という研修ノートを発刊しています。
このときあえて「乳がん」の表現を避けたのは、当時全国各地でみられた、乳がん検診に対する外科と産婦人科の軋轢に配慮したものでした。
1988年に第二次老健法により、全国レベルで乳がん検診が実施されることになりましたが、この検診体制規定の中に「乳がん検診に習熟した外科医師、産婦人科医師等の確保を図る」との文言があり、産婦人科医の乳がん検診への参加が公認されました。
そして現在のように、多くの都道府県で乳がん検診が産婦人科医によって行われるようになった訳ですが、複数の科の医師が参加する検診にはいくつかの問題もあったようです。
その後厚生省では、かねてより世界的にスタンダードとなりつつあった画像診断の導入をするに当たって、班会議を編成して学術的な検討をしてきました。その結果、視触診による検診の限界が示され、またマンモグラフィーの有用性が示されたため、画像診断の導入は必須とされました。
こうして視触診とともにマンモグラフィーを併用する指針が示されたわけですが、実際に現行の方式との整合性をはかりながら導入する方法については、未だ検討中で、A,B,C方式等いくつかの方式が考えられているものの、結論は出ておりません。
しかしながら、今後は検診医にもある程度のマンモグラム読影力を要求される可能性が高いため、読影に習熟していない産婦人科医の参加の形式が問題となってきました。
今回行われましたマンモグラム読影研習会は、こういった乳がん検診の方向性の変化を受けて、視触診中心であった産婦人科医の乳がん検診に、画像診断を取り入れてゆくためのステップの一つと考えております。
すなわち、まずこういった講習会が、画像診断を行った経験の少ない産婦人科医に、どの程度の研修効果を与えるのか、年齢、経験年数、その他の条件を加味したデータを収集し、これからの各支部で開催されるであろう研修会の基礎資料とすることが、第一の目的ですが、それとともに各支部での研修会の中核となる産婦人科医を養成する事も目標の一つです。
研修会の実施方法は、乳がん検診学会研修委員会・精度管理中央委員会の方式にのっとり、乳がん検診学会より借用した標準的マンモグラム約200症例を使用して、学会指定の指導者により行われました。
ここで今回のマンモグラム読影に関する研修会の概要をご説明いたします。
まず、第1日目は研修会に先立ち、全く予備知識なしに100枚のマンモグラムを150分かけて読影する試験を受けていただき、その成績を出します。この後、マンモグラム読影に必要な基礎知識について、4人の講師による講義を各45分間受けていただき、終了後、7人ずつ6グループに分かれて各1名の指導者による各45分間の読影実習を6回受けます。
この実習は、腫瘤像、石灰化像、構築の異常などのテーマごとに2日がかりで行われ、終了後第2回目の読影試験を受けていただきますが、このときのフィルムは名前・番号を隠し、順番をランダムに組み替えてあります。 この成績も、先の第1回の成績とともにコンピュータにて解析を行います。
この解析結果につきましては、本年11月14日に開催されます全国支部がん対策担当者連絡会にて、日母がん対策委員会の土橋副委員長より詳しい報告が行われる予定ですが、現在判明している部分だけをお話しいたします。 受講メンバー40名の平均年齢は52.7歳で、読影経験のない方が43.6%、日常診療でも25例以下の乳がん診療経験しかない方が71.8%でした。
また、成績は感度、特異度、カテゴリー感度の3項目を元に、乳がん検診学会の基準に従って5段階に評価を行います。この場合の感度とは、精査が必要な乳房に対して、カテゴリー3以上と評価できた率をいい、特異度は精査の必要でない乳房に対して、カテゴリー2以下と評価できた率をいいます。
また、カテゴリー感度とは、精査が必要な乳房に対して正しくカテゴリー分類が行えた率をいいます。
評価は、A,B−1,B−2,C,Dの5段階評価で、カテゴリー感度・特異度ともに85%以上のものがA評価、この方は指導的立場に立てる読影力を持っているといって良いでしょう。
評価B−1は感度、特異度ともに80%以上、B−2は感度+特異度が170%以上で、かつ感度80%以上の方です。B評価の方は、一応一人でマンモグラムを読影して良い力量といえますが、後ほど述べますようにある条件が付きますのでご注意ください。評価Cは感度が70%以上、この方は評価Aの方と共同で読影する事になり、D評価の方は今後一層の研修が必要です。
研修会前の第1回読影試験では、A評価が1名のみ、B評価はなく、Cが6名、Dが1名でした。また、全体の平均感度は56.4%、特異度は84.2%でしたが、研修終了後の第2回読影試験では平均感度77.9%まで上昇しました。
また、感度80%、特異度75%以上の方、すなわちB−2評価以上の方は1名から15名に増えました。このことは、この乳がん検診学会研修委員会研修プログラムに沿った、研修会に参加することによって、経験の少ない産婦人科医でも、検診用マンモグラムの読影が可能なレベルまで達することができることを示しており、この研修会が有効であることが証明されたといって良いと思われます。
ただし、最終評価別の平均年齢を出してみますと、AからB−2までが44.9歳、Cが55.1歳、Dが59.8歳となり、年齢が低いほど良い評価を得る傾向が伺われますが、すべての産婦人科医が乳がん検診に参加できるよう、どの年齢層の先生でも研修会に参加すれば読影力をつけることができる、というようにするためには、ある年齢で研修プログラムを変えるといった工夫が必要になると思われます。
また、良い評価を最終的に獲得された方も、そのまま日常診療で読影を行わなければ、比較的短時間で元の初心者レベルまで読影力が低下するといわれております。
従って、B−2以上の評価を得られた方も、そのままの水準を保つためには、絶えず研鑽を積む必要があります。これも今後の課題の一つです。
また、現在行われている乳がん検診学会による読影研修会は外科、放射線科などいろいろな科の医師や技師が参加し、参加可能人数も限られているため、なかなか産婦人科医が参加しにくいのが現状です。
従って、各支部で、乳がん検診学会の研修基準に則った、日母が主催する研修会を開いていただいて、参加していただくのが一番ですが、そのためには各地区の中核となる産婦人科読影医を養成することが急務であると思います。
日母がん対策委員会ではこういった課題に対して、再度の講習会を開催することを企画するなど、情報の収集とともに、具体的な画像診断の実状にあわせて行動することを予定しております。
日母会員の先生方も、今日まで築きあげた乳がん検診の実績を、更に精度を高めた形で伸ばしてゆくために、精力的にマンモグラフィーの導入に向けた体制づくりに取り組んでいただくことをお願いいたします。