平成11年12月13日放送
母体保護法改定公聴会より
日母産婦人科医会副幹事長 亀井 清
こんばんわ。
本日は、先月11月18日木曜日、午後1時半から3時間にわたり、東京新宿区大京町にある、信濃町と千駄ヶ谷にほど近い野口英世記念会館の講堂で開かれました日母主催による「母体保護法に関する公聴会」について、御報告方々お話したいと思います。 当日は、お話をして下さる講師の方々に加え、日母・日本医師会・日本産科婦人科学会の会員、一般市民、報道関係者の方々など約100名が参加されました。一般の部には、車椅子で来られた身体障害者の方数名を含む各種団体の会員の皆さんが多数出席されました。
本公聴会の副題、即ちテーマは「女性の権利を配慮した母体保護法改正の問題点」であり、括弧付きで「多胎減数手術を含む」となっております。尚、日母では減胎手術とか減数手術ではなく、多胎減数手術の語句を使用するということになっております。このテーマは、本年8月号の日母医報付録でお示ししました日母提言案の題目であり、同じく8月の中旬にはインターネットでより広く一般の方々に公開されました。その内容の一部はアンケート形式になっており、各項目毎に皆さんの御意見をお尋ねするようになっています。今までに多数の色々な御意見が寄せられており、検討しているところですが、日母会員の回答については、一部まとめたものを本公聴会で坂元会長が紹介しておりますので、後述致します。
この提言案の全貌については、時間がありませんので詳しく述べることはできませんが、日母医報の8月号付録もしくは日母ホームページを参照されたいと思います。お話の進展上、要点のみを述べておきますと、第1に、妊娠12週までは女性の権利に基づく任意の人工妊娠中絶を認める、つまり女性の同意だけでよいとし、12週以上では次に述べる適応条項によるとし、配偶者の同意も必要とするが、最終的には女性本人の意志を優先することが望ましいとしたものです。適応条項ですが、妊娠の継続又は分娩が、1、身体的(又は精神的)理由、2、社会的理由により母体の健康を著しく害する恐れのあるものとして、従来の経済的理由を身体的理由から切り離し、社会的理由としました。更に、人工妊娠中絶の定義に、「又は母体内において胎児を消滅させる場合をいう」の字句を加え、母体保護法下での多胎減数手術を可能にし、多胎減数手術の適応は人工妊娠中絶の適応で実施するとしたものです。
さて、会は、医事評論家の行天良雄氏、坂元正一日母会長の司会の下で、先ず行点氏より本提言案の一般の方々への分りやすい紹介と意見聴取に主眼を置いた本会の意味付けのお話の後、坂元会長の挨拶から始まりました。その内容は本会に至るまでの経緯、本会の公聴会としての目的と法制化の前段階としての位置付けなどであります。
次に、日母の法制・倫理部門として主に担当して来た新家薫日母副会長が、約4年にわたり検討して来た国内外の変遷を含むこれまでの経過を説明、主な問題点は、1.女性の権利の尊重、2.胎児条項、3.多胎減数手術に関連しての堕胎罪の扱いであることを指摘しました。また、今回の日母提言案について、生殖に関する女性の自己決定権から始めて、時に私見を混じえつつも、逐一詳細に説明・解説しました。
この後、「パネリストからの提言」に移り、初めに三菱化学;生命科学研究所の米本昌平氏が、医療専門職集団の自己管理体制について国際比較をし、懲罰規定をもつ公的身分団体、強制加盟の場合ですが、これがなぜか日本には無く、そのために我が国では職能集団がガイドラインを作成して、立法化を図るしか方法がない点を指摘しました。また、生殖技術への規制システムを含む各国の対応を比較し、我が国は厚生省や外国にもたれ過ぎの感があるとし、日本においてルールをつくり、守るということの問題点を指摘しました。
2番目に、国立精神・神経センター武蔵病院長の埜中江哉氏が、筋ジストロフィーとは如何なる病気かを解説し、色々な患者像や臨床現場を含むその現況を紹介しました。また、パソコン通信全国福祉ネット「虹の扉」を通して、患者自身の意見を聞いていること、その中で、着床前診断に関しては意見が真っ二つに割れていることを紹介しました。
3番目には、社団法人日本筋ジストロフィー協会理事長の河端静子氏が、全国組織としての協会認可に至るまでの、専門病院や養護学校の設立にまでこぎ着けたこれまでの活動内容を説明しました。また、胎児条項がなければ、中絶は自己決定権によるので、協会としては認めたいとし、更に、一般市民の筋ジストロフィーへの理解に対して懸念を表明し、協会への相談をアピールしました。この他、子育てに対する親の意欲の重要性と、筋ジストロフィーでも人生は捨てたものではないということと、医学の進歩に対しては賛成半ばの立場であることなどを主張しました。
4番目に、「SOSHIREN女(わたし)のからだから」の米津知子氏が、女性の健康運動から発したリプロダクティブ・ヘルス、ライツの立場から、人口政策、優生政策に対しては、潜在する危険性の故にその双方に反対するとして、女性と障害者の共通性を指摘し、堕胎罪は廃止すべきであり、胎児条項には反対であると述べました。また、中絶同意者に関する妊娠12週の線引きに対しては、22週までとすべきであること、未成年老及び減数手術については中絶の規定に入れる必要は無いこと、加えて中絶の「社会的理由」及び「精神的理由」の意味が不明瞭であり、胎児条項の代替ではないかとした上で、胎児条項削除の理由が不明であると述べました。更に、本日一番言いたいのは、子供をもつかもたないかを選ぶのであって、子供の質を選ぶのではないということであり、やはり子育てへの意欲の重要性を指摘するとともに、産婦人科医療のこれまでの検証を求めたいと述べました。
この後、慶応大学産婦人科教授の吉村泰典氏が、産婦人科専門医の立場から、厚生省の減数手術に関するデータを含む我が国の生殖医療の現況を、将来の展望も見据え解説方々講演しました。
次に、東京都立大学教授の石井美智子氏が、女性の法律家としての立場から講演し、女性の権利を配慮した法規制には賛成であると述べました。その上で、カイロの元々の行動計画では「カップル」とあるので中絶は女性だけで考えるものではなく、また「配偶者」とは夫なのか胎児の父なのかという問題もあるものの、最終的には女性の権利として配偶者の同意は不必要であろうと述べました。また、減数手術に関しては、安全性確保のためにも一定の合法化が必要であろうとし、中絶の期限規制にも賛成であるが、果たして12週でよいのかと述べ、何れにせよ、社会の役割としては、中絶の合法化ではなく、関連情報が提供される体制をつくることが最も重要であると指摘しました。
この後、坂元会長より日母会員への諸項目に関するアンケート結果が紹介され、概ね賛同意見が多いものの、未成年者に関する項目や、減数手術の適応多胎教などに意見のばらつきがみられるとのことでした。
その後、フロアとの意見交換に入り、堕胎罪の賛否両論を含む、以上述べられた諸点の他に、胎児は人なのか否かに始まり、日母アンケート形式に対する疑問に至るまで活発な討論が展開されました。特に、各市民団体会員の方々から多数の発言があったことが印象的でした。
最後に、高橋克幸日母副会長より、本日の意見を真摯に受け止め、十分に検討し、今後の糧としたく、引き続いての協力要請の挨拶があり、本公聴会を終了しました。
さて、今後のことですが、日母としては日産婦学会を含めた内外の意見を更に集約し、極力早期に本法改正の要望を国に提出する予定でありますが、以上述べました女性本人のみの同意に関する12週線引きの根拠、精神的理由・社会的理由の定義、多胎減数手術関連事項などが、主な検討課題になると思われます。
なお、本会の記事は日母医報12月号にも掲載され、新家副会長も論壇で述べていますので、ご覧になって頂きたいと思います。
以上、母体保護法改正に関する公聴会よりの御報告でした。