平成11年12月27日放送
日母組織の重要課題-本年を振り返って
日母産婦人科医会副会長 新家 薫
1900年代最後の日母アワーです。本年度を振り返って、日母組織の重要課題をお話したいと思います。
まず、1999年は日母創立50周年に当たり、10月17日、第26回日母産婦人科大会で記念式典が行われました。厚生大臣丹羽雄哉先生、日本医師会会長坪井栄孝先生、日本産科婦人科学会会長の青野敏博先生にご来賓としてご祝辞を頂き、厚生大臣より10名の大臣表彰を受賞しました。これに引き続き、坂元会長より1136名の永年表彰・一般表彰が行われ、21世紀を迎え母子保健に寄与するために日母のより一層の発展と日母会員の資質の向上を誓いあいました。
本年3月、日本医師会で昭和45年以来初めて「母体保護法指定医師指定の基準」モデルが改定されましたが、本年度は都道府県医師会でその県にあった基準作りが行われ、日母はこれに全面的に協力しました。新しい指定医師基準は来年の4月より施行されます。国家試験合格後満5年以上経過し、その内実質的な産婦人科研修を満3年以上行った方と日本産科婦人科学会認定医の方は所属する都道府県医師会に申請すれば、母体保護法指定医師の資格を取得できます。指定医師の資格を個人で持つことになるため、複数以上の指定医師がいる施設が増加します。そのため毎月の中絶件数の届出は、個人個人で記載し、主任指導医が取りまとめ一括して報告することになります。その月の実施件数が0でも報告しなければなりませんので、注意して頂きたいと思います。母体保護法の第25条で、中絶の届出の義務が課せられています。届出を怠ると法律違反となり、次回の更新が出来なくなります。また、指定医師は医師会または産婦人科専門団体の研修を受講することが義務づけられており、更新の際は2年間の研修実績を証明するものを提出しなければなりません。2年間で日母研修シール6枚以上が必要です。「日母研修記録手帳」にシールを貼付して提出して下さい。このため従来日産婦と日母とで同時に発行していたシールを来年度から分離して別々に発行することになりました。日母シールが大きくなるため分かりやすいと思いますが、お間違いのないようご注意下さい。
11月18日、東京の野口記念館で母体保護法に関する公聴会を開催しました。これは法制検討委員会で4年聞にわたり検討してきた委員会答申を基に理事会で決定された日母の提言案「女性の権利を配慮した母体保護法改正の問題点」に関し、各市民団体と活発な論議を行いました。三菱化学生命科学研究所の米本氏は、わが国には懲罰規定を持つ強制加入の公的身分団体がないため、職能技能集団がガイドラインを作成し、立法化を図るしか方法がない点を指摘、また国立精神・神経センター武蔵野病院長埜中氏は、パソコン通信を通して患者自身の意見を聞くと、着床前診断に関しては、その実施に関し賛成・反対の意見が半分ずつであることを紹介しました。また、日本筋ジストロフィー協会の川端理事長は、今回日母が示した適応としての「胎児条項」を取り下げたことを評価し、「胎児に異常があり、中絶は女性の自己決定権によるので、協会としては認めたい」と発言されたことが印象的でした。それに対しSOSHIREN女(わたし)のからだからの米津氏は、人口政策、優生政策に潜む危険性のために日母案には反対するとし、堕胎罪を廃止し、女性の権利を妊娠12週ではなく、妊娠22週まで拡大すること、多胎減数手術は母体保護法の規定に入れる必要はなく、また、「社会的理由」や「精神的理由」の意味が不明瞭であり、胎児条項の代替えでないかと日母提言に対し全面的に否定しました。慶應大学の吉村教授は厚生省の減数手術に関するデータを含むわが国の生殖医療の現況を報告。更に、都立大学の石井教授は、女性の権利を配慮した法規制に賛成であり、中絶の期限規制にも賛成であるが、果たして妊娠12週でよいのかと述べ、また、多胎減数手術は安全性確保のためにも一定の合法化が必要であると発言されました。日母では、この公聴会の意見を尊重して、今後充分な検討を行い、国民のためのより良い法律作りに協力したいと考えています。
平成12年4月の診療報酬点数改定にむけて、社会保険部では「産婦人科外来診療加算の新設」、「特定疾患療養指導料適応疾患の拡大」など15項目を日本医師会宛に提出しました。平成12年4月の診療報酬点数改定について、日本医師会は医科の引き上げ率3.6%(物価人件費2.6%、技術革新1.0%)を中医協に提出し、更に、薬価制度抜本改革に関わる診療報酬改定要望についても、薬価差益解消分を技術料として診療報酬のなかに適正に評価してもらうために4.5%の補填を要求しました。しかし、支払い側は、賃金・物価の動向からして、診療報酬は0.3%のマイナス改定であり、薬価の引き下げ幅は2%くらいしかなく、医療経済実態調査で2%収入がおちていることが確認できれば、引き下げ分を全て診療報酬にもどすかどうかを考えたいとして、診療側と真っ向から対立し、12月17日になって決裂し、来年度予算編成に向けた政府・与党内の政治折衝に移り、わずか0.2%引上げとなりました。また、薬価差益解消については、2002年をめどに縮小・廃止することで基本的に合意をみています。しかし、薬の公定価格については、すでに診療側と支払い側が中医協薬価専門部会で医療費の効率化を図るためとして、R幅の早期廃止で一致していたため、中医協では結局何も決まらなかったことになりました。
医事紛争関達では、昭和54年と平成3年に作られた研修メモ「看護要員の医療事故防止のために」を改定し、スライドとともに来年の1月に支部へ発送の予定です。ご活用頂きたいと思います。更に「これからの産婦人科医療事故防止のために」の「子宮外妊娠」、「常位胎盤早期剥離」、「骨盤位」についても3月までに完成予定です。
平成12年度の母子保健関係予算概算要求に関する要望書を厚生省児童家庭局長宛に提出しました。総合周産期医療体制等の充実、不妊相談センターの施設整備と産婦人科医による相談業務の充実、生涯を通じた女性の健康支援事業の充実強化、先天性代謝異常検査費の充実や聴覚障害児の早期発見・治療のための支援を要望しました。
来年からカルテの開示がおこなわれますが、日本医師会から「『診療情報の提供に関する指針』の実施に向けて」が示されました。これは4月の日本医師会代議員会で承認された「診療情報の提供に関する指針」を運用するための実務的な資料であります。カルテ等の診療情報の開示を患者または代理人から請求された場合に、医師の守秘義務違反を回避することにポイントを置き、開示に至るまでの手続きの方法や開示後も患者が納得しない場合の苦情処理等に関し解説してあります。カルテ開示は、日常診療での情報提供と患者が転医した場合の情報提供などあくまでも診療のために行うもので、裁判などを前提とした開示請求のためではないことを指摘しています。産婦人科の場合、診療が自費の部分と療養の給付になる部分があり、カルテをはっきり分けておく必要があります。また、レセプトの開示は既に行われているので、レセプトとカルテの整合性や医師の記録と看護要員の記録とが一致していなければなりません。産婦人科としての「診療情報の提供に関する指針」は日母医報1月号に掲載の予定です。要は開示に耐えうるカルテの記載が最も大切と考えます。