平成12年3月27日放送
平成11年度社保の動き
日母産婦人科医会幹事 秋山 敏夫
本日は、平成11年度社保の動きと題しまして、本年度の重要な社保事項についてお話致します。
本年度、最も重要な事柄は平成12年4月に行われます、診療報酬点数改定に向けての要望事項作成であります。本来は第1回社会保険委員会で委員に要望を募り、その後の全国支部社保担当者連絡会やブロック社保協議会で検討し、日産婦学会との協議の上、日本医師会に提出する手順であります。しかし、今回は医療改革の抜本改正が予想され、日本医師会より、例年に比して早期の提出が求められたため、社保部会で前回要望を基に要望案を作成、日産婦学会と協議後、社会保険委員会に提示、4月28日、日産婦学会と連名で日本医師会に提出、全国支部社保担当者連絡会で報告となった次第であります。
最初に診療報酬点数改定に関する産婦人科の要望について
1.産婦人科外来診療加算の新設
産婦人科を専門とする医師が内診や腟鏡診を行なった場合に、診察料加算が認められるよう要望しました。
これは、平成8年から継続して要望しています。産婦人科のみの加算は不合理との意見もありますが、各方面からの要望が多く、再度要望の一番としました。
2.特定疾患療養指導料の適応疾患の拡大(卵巣機能不全、卵巣機能欠落症、閉経期および女性更年期状態)
今回、更年期障害の病名をICD-10にのっとり、閉経期および女性更年期状態と改め、再度提出しました。
3.産科手術点数の改定(帝王切開術、骨盤位娩出術、吸引・鉗子娩出術、子宮頚管縫縮術、流産手術)
毎回、要望している項目でありますが、手術の難易度に比して点数の設定が低いと考え、改定を求めています。
4.婦人科手術点数の改定と新設(改定:子宮内膜掻爬術、子宮付属器腫瘍摘出術、開腹・腹腔鏡下によるもの、子宮全摘術)(新設:外陰・腟血腫除去術、腹腔鏡下子宮筋腫核出術、骨盤腹膜利用造腟術)
改定の要望は産科手術同様、手術の難易度に比して点数が低いと考えられます。新設要望の外陰・腟血腫除去術は以前から問題が多く、準用点数が地区で一致していません。腹腔鏡下子宮筋腫核出術は腹腔鏡の発展に伴い件数が増加していますが、点数設定がなく、現場では混乱しているため要望しました。骨盤腹膜利用造腟術は前回要望しましたが、不採用であったので再度の要望としました。
5.分娩監視装置の適応拡大
微弱陣痛に対する陣痛促進を行なった場合の追加を要望しました。
6.赤血球不規則抗体検査を算定できる対象手術の拡大
産婦人科関係では、帝王切開時にしか認められていないので、他の婦人科手術にも適応拡大を要望しました。
7.特定薬剤治療指導管理料の適応注射品目の拡大
多胎妊娠やOHSS予防のためのhMG製剤、hCG製剤及びGnRHa製剤の適応拡大を要望しました
8.生体検査判断料の適応拡大
医師の技術料としての生体検査判断料を分娩監視装置、超音波検査において認められることを要望しました。
9.静脈麻酔時の経皮的動脈血酸素飽和度測定の算定
閉鎖循環式全身麻酔、脊椎麻酔や硬膜外麻酔には認められていますが、静脈麻酔でも副作用防止のために本測定法の通則改定を要望しました。
10.「その他の心理検査」に「更年期指数」の追加
更年期診療に際して「更年期指数」を用いた場合に「その他の心理検査」の項目で算定できるよう要望しました。これは、日本更年期医学会との共同提案であります。
11.細胞診検査の点数改定並びに迅速細胞診・特殊染色細胞診検査の適応拡大
術中の迅速細胞診や摘出物の捺印細胞診は術式や治療法決定に重要であるため、保険適応の新設を要望しました。
その他
12.子宮卵管造影時の腟内注入手技料の点数改定
13.ヒューナー検査の点数改定
14.NSTの外来使用
15.新生児介補料の削除
以上の、15項目を要望致しました。
日産婦学会と合同で行なっている事業について
(1)研修医に対する保険指導について
医師法や保険医療養担当規則の内容等の理解を深め、適正な保険診療が行なえるよう、平成10年4月より日産婦学会誌の研修コーナーに専門委員会報告の形で、社保の事項を解説しました。現在、書籍として発刊するよう内客の検討を行なっています。項目の入れ換え、文章の追加、同じ記述の削除、点数の変更等、認定医試験に間に合わせるよう作業中であります。
(2)産婦人科薬剤の適応外処方について
婦人科がんに対する化学療法における保険医療上の矛盾、それによりこうむる患者の不利益を是正する目的で、抗悪性腫瘍剤の保険適応拡大について、産婦人科関連6学会で検討、厚生省に要望書を提出しました。本会もこれに全面的に協力することとしました。
(3)マグネゾールの適応拡大申請協力依頼
東亜薬品工業より、マグネゾールの適応拡大の早期認可目的で日産婦及び本会に協力依頼がありました。日母・日産婦両会長の連名で厚生省に要望書を提出。現在、副作用に関する追加調査が行われています。
新たに保険収載になった項目
1.超音波診断用造影剤 レボビスト
不妊症、卵管通過障害の超音波検査時が適応となります。
2.デオキシピリジノリン及びI型コラーゲン架橋N-テロペプチド
骨粗鬆症の薬剤治療方針の選択時、薬剤効果判定時に算定できることになりました。
3.ループス抗凝固因子
習慣流産が適応症となります。
(この3つにつきましては医報12年1月号参照してください)
4.経皮吸収エストラジオール製剤
2月にキッセイ薬品のエストラダームM、久光製薬のエストラーナが発売されました。適応症は更年期障害及び卵巣欠落症状に伴う血管運動神経症状としてのhot flush及び発汗。さらに泌尿生殖器の萎縮症状であります。用法及び用量では1回1枚、2日毎に貼り替えとなっています。適宜増減の文言がなく、同日2枚の貼付はできないので、1回の処方は4枚が限度となります。
マイリスの取扱い
腟坐剤使用上の注意について内容が一部変更となりました。
1.アナフィラキシーとショックの発現が報告されましたので、投与後の観察を十分にする必要があります。
2.妊娠末期の頸管熟化と目的としており、陣痛誘発・促進剤との同時投与はさけなくてはなりません。
3.この薬剤は弱いながら子宮筋のオキシトシン感受性を亢進する報告があるので、本剤投与後は妊婦および胎児の状態をモニターするなど十分に観察し、異常が認められた場合は適切な処置をすることとなりました。
4.腟炎を併発している妊婦には使用を避けること等であります。
静注剤でも、先程の1.2.3.の事項が追加となりました。
これらをまとめると、まず腟坐剤、静注剤とも投与後のモニターについて、必ず行うことを義務付けています。できればNST、少なくともドップラーによる心音確認が必要であり、腟坐剤の外来処方ができなくなりました。
また静注剤は陣痛促進剤との併用が禁止されました。腟炎についての記載では、以前は腟炎の場合は医師の判断により静脈内投与製剤使用となっていましたが、今回から、坐剤の使用は避ける に変更されました。
血液製剤使用上の注意
ベリプラスト、タココンブ、フィブリン製剤、ATIII製剤の使用に関し、パルボウイルス混入の報告があります。現時点ではこの排除は不可能であり、使用にあたっては血液製剤使用の文書とともに発症の可能性を伝える必要があります。