平成12年5月22日放送

 レジオネラ感染症

 日母産婦人科医会幹事 大村 浩

 

 レジオネラ感染症が最近話題になる事が多いようです。特に大病院での発生報告が目に付くようになってきました。

 1999年に発令された感染症新法でも、第4類感染症に指定されました。全数把握の対象疾患であり、発見した医師は7日以内に所轄保健所に届け出る、法的義務がありま

す。しかしレジオネラ症の診断は難しく、検出方法も一般的ではありません。いったいどの様に診断し,報告するのかと、いささか面食らっておりましたところ、24時間水中風呂を使用した自宅出産の新生児がレジオネラ感染症で死亡するというショッキングな話題が飛び込んでまいりました。院内感染の原因菌としても無視できないレジオネラに対し、現在最良の対策は、まずレジオネラに関する知識を得ること。次にレジオネラを発症させないための防御策を講じることと、呼吸器感染の症状を訴える患者で、原因菌が同定できず、セフェム・ペニシリン系抗生剤の効果なく肺炎症状が進行する場合はレジオネラ感染症を考慮することが重要です。

 レジオネラ症はレジオネラ属に属する細菌により発症する感染症の総称です。もっとも有名なのはlegionella  pneumophila ですが、現在全てのレジオネラ属菌は、ヒトの肺炎を起こしうるとみなされています。

 レジオネラ属菌は自然界の土や水の中に少数生息しておりますが、それが特殊な環境下で増殖します。感染経路は初発が呼吸器感染トなる事が多いのですが、必ずしも飛沫感染ではなく、むしろ汚染された水を飲用した場合などに多いようです。また一旦感染を起こすと血行性に播種し重症化すると考えられています。ただ、水を介しての集団感染の報告は多いのですが、ヒトからヒトへの感染は立証されておりません。

 レジオネラ症の病態は、肺炎型と非肺炎型に分類されます肺炎型は有名な在郷軍人病で、2から10日の潜伏期のあと発症し、肺炎から呼吸困難に陥り、48時間以内に重症となります。合併症として成人呼吸窮迫症候群や、心内膜炎、肺膿瘍を呈することもあります。新生児では粟粒結核のような胸部X線像が見られる事もあります。

 非肺炎型はポンテイアック熱と呼ばれ、インフルエンザ様の症状を呈し、予後は比較的良好ですが罹患率は高いのが特徴です

 レジオネラ症の診断は大変難しく、手間がかかります。通常の細菌培養では検出されず、専用の培地が必要となります。現在免疫蛍光抗体間接法が国内では最もポピュラーで各検査会社などが扱っておりますが、検出までに4日以上かかるため、迅速診断法が求められていますが国内では認可されておりません。

 いずれにしても診断するうえで優先されるのは、肺炎症状の患者を診たときに医師がレジオネラの可能性を疑う事で、生命予後にかかわる事態に直結します。また、レジオネラ症防止指針でも、「培養検査が各医療機関で実施できるように」との指導がなされているため、診療所の受け手となる基幹病院ではレジオネラの培養液を常備しておく必要性があります。

 レジオネラ症の治療上の問題点は、セフェム系やアミノ配糖体が無効でテトラサイクリン、キノロン、マクロライド、リファンピシンなどの化学療法剤が有効とされておりますが、重症化するスピードが早いため、呼吸管理などを含めて高次医療機関への依頼をためらわないほうが良いと思われます。

 レジオネラ症を発生させないようにするにはどのようにするべきかという考察ですが、まずレジオネラが増殖しやすい環境を知る事が重要となります。

 レジオネラは水冷式冷却塔や循環式浴槽、24時間風呂、非加熱式加湿器、貯水槽などの人工的な水環境を好んで増殖します。

 また温度が重要なファクターであり、摂氏20度以上から増殖スピードが増します。人工培養では摂氏36度というヒトの体温とほぼ等温で最大の増殖を示します。但し逆に死滅させるためには70度以上の高温が必要です。50度程度では20から30分生存しているためにいったん管の外に出ればまた増殖を開始します。以上から給湯温度は最低でも70度以上に設定すべきでできれば80度が理想ととされています。

 以上から24時間風呂や、循環式の温泉の浴槽が危険な事が分かります。またシャワーノズルや、蛇口の先端に生存している事が多いので、特に新生児室では温水を使用する前に70度以上の湯を10秒以上流してから適温に調整するよう努めると良いでしょう。