平成12年8月28日放送電子メディアと日母広報活動
日母産婦人科医会幹事 宮崎 亮一郎
本日お話しさせて戴くのは、『電子メディアと日母広報活動』です。
電子メディアの話しをさせて戴く前に、日本母性保護産婦人科医会(通称;日母)の広報活動について述べさせて戴きます。
本会の広報活動の歴史は、昭和24年7月に『母体保護医報』のタイトルで発刊された4ページからなる機関誌が最初でした。昭和49年1月からは16ページに増大され、名称も『日母医報』と改題、さらに平成7年には日母の名称変更にともない20ページから成る『JAOG news/日母産婦人科医報』となりました。これは、会員間で『医報』と通称されています。
名称は時代と共に変更され、ページ数も増加されましたが、この機関誌の目的とするところは、一貫して日母会員へ向けて、日母の見解や提言、一般社会情勢の周知、学術的な知識の普及等、本会会員への利益と質の向上を目指すものです。また、この『医報』は会員だけでなく、厚生省や日本医師会へも発送されており、医療関係団体への広報活動も行っています。
このように、日母の広報活動は、機関誌として会員を中心に、医療関係団体へ向けての広報活動が中心に行われてきました。無論、我々日母の見解や、誤解を招くような一般報道に関しましては、マスコミを通じて誤解のないように、一般の方へ向けて広報活動を行ってきましたし、今後も誤解のないように広報活動を行わなければならないと考えています。また、今回のようにラジオ短波放送を通じて、一般の方へ向けての広報活動も行って来ています。
一方、現在パーソナル・コンピュターを初めとする電子機器の普及には眼を見張るものがあり、その電子機器をサポートする通信媒体なども急速に発達してきているのが現状です。このようなシステムは、当初、高額なのものでしたが、最近では比較的低価格で購入でき、通信媒体にかかる価格も低価格で行うことができるようになり、一般の方へも浸透しているのも事実として、客観的に捉える必要があるのものと受け止めています。このような状況を踏まえ、日母でも平成9年10月より『日母ホームページ(www.jaog.or.jp)』を開設し、さらに会員向けの『日母メーリングリスト』も平成10年5月に開設しました。
したがって、現在本会には会員向けとして、『日母医報』と『日母メーリングリスト』があり、一般の方向け並びに会員向けとして『ラジオ短波放送』と『日母ホームページ』という4種類の広報活動手段を有しています。
『日母医報』は、前述のごとく、本会で最も歴史のある広報手段ですが、その主な掲載内容は、本会の常務理事会、理事会、代議委員会、各全国規模の委員会等の会議録、厚生省・日本医師会等の関連団体が発信する情報を集約した記事、学術欄、医療と医業等、現在の産婦人科医療の現状に関して、会員への伝達および会員の質の向上を目指して行っているものです。
『日母メーリングリスト』とは、電子メールを利用して、予め登録してもらった会員間で、自分の意見や質問などを他の会員からこのような考え方、回答があるなどの意見を交換するような場所として利用できるシステムです。予め会員であることを登録して戴くので、会員以外の方が覗き見ることは難しい為に、比較的自由に発言しあえることが可能です。電話や会議と異なり、時間を同期させる必要性がないというのもその特徴でしょう。
開設してからおよそ600名程度の登録会員ですが、様々な意見の交換が行われています。開設当初は、機種の選定や通信システムをどのようにして行ったら良いのかといった質問が主でしたが、最近ではその時々の産婦人科医療の話題が取り上げられ、中には過激な発言も飛び交うこともありますが、色々な意見が出て徐々に論点が集約されて行き、良い方向へと結論が導き出せることが多いのも事実です。また、夫の都合などで分娩先を変更せざるおえない妊婦さん、里帰り出産の時に、分娩先の居住地にどのような先生がおられるのか良く分からないなどの妊婦さんの不安に対して、このシステムを利用して他の地区の先生を紹介するなどといった、医師サイドの一寸した情報の交換場所として利用されています。
『日母ホームページ』は、『日母医報』を中心にこれまで会員向けの広報活動を行ってきましたが、全く新しい試みとして、一般の方向けと会員向けの情報伝達の方法として、日母組織の中でも主に中央情報室が中心となって取り組んでいます。
インターネット上に『日母ホームページ』を正式公開して以来、現在のアクセス件数は1日およそ200件、延べ件数は10万件を越えるような状態です。このホームページには、日母の組織についての解説、活動状況を示すための年間事業計画を搭載し、各委員会が行っている各会の案内も搭載しています。
また、日母の各事業部からも積極的に参加してもらい、女性保健から「母性健康管理指導事項連絡カード」、「低用量経口避妊薬」、「遺伝相談施設」、「母性健康管理」、「不妊相談センター」、「不妊治療」などを搭載、広報部からは「日母医報目次」、学術欄・特集のindex、勤務医から「研修指定病院案内」、医事紛争対策・医療対策から「日母様式「カルテモデル」並びに指導票」、学術研修部から「研修ノート一覧」、「研修ニュース一覧」、「会員研修テーマ」などを搭載しています。さらに、総務部(法制)より昨年は「女性の権利を配慮した母体保護法改正の問題点―多胎減数手術を含む」日本母性保護産婦人科医会提言(案)について、会員ばかりでなく、ホームページを利用して一般の方を対象としたアンケート調査を行うなど、画期的な活用法も行いました。
また、各支部の行っている支部活動(例えば研修会・学会等)も搭載することが可能に成っています。
官庁からの各種書類に対して、各支部への情報伝達をスムースに行うよう、厚生省を中心に関連各官庁発行の記事へも注意を払い、それらのサイトへも繋げるようにしてあり、会員や一般の方へ向けての情報発信源として利用されるように努力しています。
この様に、当初は『日母医報』を中心とした会員向けの広報活動でしたが、一般の方へ向けて医療の現状に関しても積極的に広報活動を行い、日母の活動・ひいては日本における産婦人科医療体制などについて理解が得られるように努力しています。
しかしながら、広報活動に関しては、中央情報室のみで行うことができないのも事実です。その解決方法の一つとして、各部や各委員会と、さらに協力して日母の活動内容を一般の方へよりよく理解してもうだけでなく、現状の産婦人科医療に関しても理解してもらえるように情報を開示・公開し提供してゆきたいと考えています。
先日、その一つの試みとして、広報委員会と中央情報室の委員の先生方に話し合いを持って戴き、これからの日母の広報活動について討論してもらいました。話し合いの詳細に関しましては、『日母医報』8月号、9月号へ掲載する事になっておりますが、ここではその内容について若干紹介したいと思います。
現在は情報が莫大な規模で発信されており、医療に関しても情報過多の時代と言ってよいと思われます。このような状況の中、情報をどのように正確に理解し、情報の選択を行ってゆけばよいのか?ということが最も重要なことになるということです。それらは、我々医療側だけでなく、同時に、医療を受ける側にとっても必要なことであるというものでした。特に、電子メディアを中心とする分野の法的規制がわが国では遅れており、様々な団体が自己の責任という抽象的な判断に委ねられ情報を発信しており、その情報が必ずしも現状にそぐわないものであっても、日本人独特の感性で情報を判断してしまう。より客観的に情報を得るように努力しない風潮は、否定できない事実として捉えなければならないと思われます。何が真実で、何が現状にそぐわないのかということを、幼い頃から教育で培わないと、これからの情報過多の時代に判断を誤る原因になるという意見も出ました。
また、先日行われた沖縄サミットの主要テーマの一つでもあった、情報の格差(デジタルデバイス)をどのようになくしていくのか。これも重要なテーマとして話し合われました。日本にける現状医療においては、医療側も医療を受ける側も多忙なために、このような通信システムを受け入れられるような状況になっていないのもまた事実です。お気付きのように、『日母メイリングリスト』などは、会員数およそ1万3千人の会で僅かに600名程度の入会者数ですので、1%にも満たないのが現状です。急速に発達した電子機器に対して、それを受け入れるキャパシティーの問題、情報が存在するのにそれを認識するのに時間が掛かる等の理由で、両者がお互いに不幸な状況になることもあるわけです。これらの事実を会員へ知ってもらう必要性があるものとして、現在日母が持つ通信システムを活用するための努力を積極的に行わなければならないという意見もありました。
広報委員会が中心に行っている『医報』、すなわち会員向けの広報活動が中心となりすが、現在の通信システムをどのように活用してゆけば、お互いに『車の両輪』として、機能させてゆけるかについても話し合いの中心になりました。
現在の『医報』は、第3種郵便で、ページ数は最大で20ページまでと制約されています。日母の機関誌として、日母の活動状況に関しては最低限掲載する必要がありますが、その制約がある以上、内容をコンパクトにせざるおえません。また、サマライズした内容にせざるおえないのも事実です。会員からは話し合いの内容がもっと多く掲載されることを望む声も聞かれます。一方で、情報が多いと何を言いたいのか良くわからなくなるという声も聞かれます。
ホームページは、事実上無制限に情報を発信することができるという利点もあります。すなわち、会議録を全て搭載することが可能になるわけです。『日母ホームページ』は、他のホームページと異なり、会員だけが見れるといったシステムとしておりません。
しかしながら、ここで問題となるのが、発言の趣旨が活字になると、皆さんもマスコミ等で経験していることと思いますが、自身が考えて発言した内容とその主旨が異なる受け止め方をされる場合があり、様々な誤解を生じることになるということです。会議での対人相手の会話と活字のみでの対話とでは、活字のみでの対話にまだ人が慣れていないのも事実です。会員間だけであれば、後に話し合いを行えば誤解もなくなりますが、一般の方へ向けての情報発信には十分注意を払わなければなりません。このような問題点をいかに誤解なく伝えられるかが、今後の大きな課題になると思います。
何を情報として提供してゆけば、一般の方にも会員にも納得して戴けるか、他の委員会などとも、今後十分な話し合いを持って検討しなければならないものと思っています。今後の展望としましては、産婦人科関係の医療に関して、一般の方が見て、誤解を生じないような産婦人科医療の現状、現在行われている比較的ポピュラーな検査方法や治療方法を搭載し、会員向けには専門用語も用いたそれらの解説を搭載してゆきたいと考えています。
世間ではとかく閉鎖的性格の強い医療の世界、中でも産婦人科診療は個人のプライベートな部分を多く取り扱わなければならない領域ですので、そのような部分にも配慮しつつ、誰もが納得できる広報活動を行えるように積極的に取り組んでゆきたいと考えています。