平成13年1月8日放送

 家族計画・母体保護法指導者講習会より

 日母産婦人科医会幹事 亀井 清

 

 今晩は。本日は、昨年の12月16日に日本医師会館で開催されました平成12年度の家族計画・母体保護法指導者講習会より、その内容をシンポジウムの題目ともなっております出生前小児保健事業、即ちプレネイタル・ビジットを中心としてお話ししたいと思います。

 本会は、日本医師会及び厚生省主催、日母後援による母体保護法の適正なる運用を目的とするもので、今回が29回目にあたります。出席者は、例年の如く日母関係者をはじめ都道府県医師会関係者などでしたが、今回は小児科関係者が多くみられたことが特徴的であり、出席者数も例年より50名ほど多い250余名を数えました。

 今回のシンポジウムの題名は「産婦人科と小児科の連携一出生前小児保健事業を中心として」でありますが、まずはプログラムに沿って、雪下國雄日本医師会常任理事の司会で進められた当日の概要を御紹介していきたいと思います。

 最初に主催者挨拶として、日本医師会より坪井栄孝同会長が、出生前小児保健事業は国の事業であるにも拘わらず全国で未だ数カ所しか実施されていないが、各地域の実情を踏まえて産婦人科・小児科協力の下に推し進めてもらいたいとのお話しをされました。次に厚生省からは坂口 力厚生大臣挨拶として藤崎清道厚生省児童家庭局母子保健課長が代読されましたが、その内容は重複しますので後述するシンポジウムのところで触れたいと思います。

 次に来賓挨拶として、坂元正一日母会長より、出生前小児保健事業は前回平成4年時は各地区末端にその趣旨が十分行き届かなかったきらいがあったが、今回は参加数も多そうなので期待したい。何れにせよ全科的な協力が必要であり、最近指摘されている虐待、ドメスティック・バイオレンス、妊婦への暴力といった視点も念頭において考えて欲しい、との挨拶がありました。

 今回の特別講演としては、出生前小児保健事業とは直接関係ありませんが、「日本医師会の医療改革論」と題して、坪井日本医師会長より次のような趣旨のお話がありました。日本医師会は基本理念として3年前に医療構造改革構想を出している。国民皆保険制度の堅持も基本理念の一つである。政府の医療改革は医療費削減から来ているが、日本医師会は国民の利益を根底に考え国民の合意を得ていくべきであるとする。21世紀医療のキーワードは医療の質、医療の情報、裁量権であり、国民側からみればそれぞれ安全、選択、信頼となる。これらは政策立法の視座となるが、政策決定においては特に決定過程の改革と自立意識の高揚が大切であるなどと述べられ、抜本改革の具体的な方策としては、先ず高齢者医療制度改革を始めることが重要であるとしました。

 この他、2015年医療のグランド・デザインやヒト・ゲノム計画にも触れ、ヘルシンキ宣言における修正のポイント、選任された世界医師会長としての所信、即ち先端医療技術の繁栄と制御の問題についても言及しました。

 さて、次にシンポジウム「産婦人科と小児科の連携一出生前小児保健事業を中心として」ですが、最初に「産婦人科の立場から」と題して、清川 尚 日母常務理事の次のようなお話がありました。出生前小児保健事業は日母としても推進したいとし、プレネイタル・ビジットを包含し21世紀の母子保健ビジョンを示す平成13年1月よりスタートの「健やか親子21」について、平成4年の前回実施時と対比しつつ主に産婦人科関係より解説しました。特に女性一生の支援の一環としてのプレネイタル・ビジットと産婦人科医の役割について述べ、安全で快適な妊娠・出産の確保と不妊への貢献、及び育児不安の解消と子供の心の安らかな成長が根幹理念であり、その実現のために関係者の理解・協力が必要であると述べました。

 次に、多田 裕 東邦大学医学部新生児学教授から、自らの経験に照らして「小児科医の立場から」と題しプレネイタル・ビジットにおける連携のあり方についてのお話がありました。先ず周産期医療の変遷を各指標データより解説し、新生児に関しては病診連携及び産科・小児科連携などは良くなってきましたが、家庭における養育への援助がより大切となったことを指摘しました。また、プレネイタル・ビジットの対象者は、退院直後の育児不安を抱える褥婦、育児上のハイリスク妊婦、希望者などですが、その支援のための産科医と小児科医の協力・連携のあり方を具体的に呈示しました。

 次の2演題は出生前小児保健事業に関する実際の現場からの現況報告であり、最初に筑後 進 兵庫県産婦人科学会社保委員会委員より加古川市についてのお話がありました。まず加古川市の特徴紹介の後、同市においては出生前小児保健事業の対象産婦600人前後に受診表を交付していますが、このうち産科、同市では開業医がこの任に当たっていますが、この産科を訪れる者は約2割であり、小児科を訪れる者は更に約1割に減ずるとのことでした。この数を増やすためには、アンケート調査の結果などから、受診表を分かり易く簡単で産後のケアを考えたものにする必要があるとのことでした。

 次は藤野 俊夫 山口県医師会常任理事より下関市についての報告です。まず下関市の特徴紹介の後、同市では患者は母子手帳発行時に受診表をもらい、次に産科医より自分の希望する小児科医宛の紹介状をもらう、この料金は2200円であって、更に小児科医は指導表の形で産科医に受診結果を報告する、この料金は4000円ということです。受診率は50%弱ですが、同市ではこれまで産科開業医からの紹介はありませんでしたが、最近は1産婦人科医院の多数効果がみられているそうです。本事業に関する産科医・小児科医連絡会議において、統一性の欠如、妊婦の無関心、産科医の理解不足などの意見が出され、妊婦及び産科医の意識改革のためには、アンケート調査結果も踏まえて、対象範囲の拡大、すなわち出産後も含めること、小児科直接受診、制度上の位置付けなどの必要があるとのことでした。

 最後に「行政の立場から」と題して、藤崎清道 厚生省児童家庭局母子保健課長からのお話がありました。プレネイタル・ビジットを包含する「健やか親子21」について概説し、その位置付けは、21世紀初頭、すなわち2001年1月開始から2010年までの母子保健ビジョン・国民運動計画であり、それは国民健康づくり運動である「健康日本21」の一翼を担うものであるということです。その他、「健やか親子21」の基本的視点、課題設定、推進方策について述べ、特に、この中で、親と子の心の問題や妊娠・出産・育児における不安の解消に関し、プレネイタル・ビジットの意義を指摘して、産科・小児科各専門家団体の協力を得たいとしました。

 この後、フロアとの討議に入り、間断なく種々の質問が寄せられ、活況でした。最後に雪下司会より本事業を各地区における小児科医のかかりつけ医機能とみる日本医師会見解が示され、閉会となりました。

 以上、平成12年度家族計画・母体保護法指導者講習会(一出生前小児保健事業プレネイタル・ビジットを中心として一)からの御報告でした。