平成13年3月5日放送厚生労働省「小規模事業所向け電話相談事業」について
日母産婦人科医会常務理事 清川 尚
皆様、こんばんは、日本母性保護産婦人科医会の母子保健担当常務理事の清川です。本日は厚生労働省の委託事業でもあります「小規模事業所向け電話相談事業」について、お話申し上げます。
男女雇用機会均等法の改正により、職場における妊娠中および、出産後の健康管理については、職場の規模を問わず全ての事業主に対して義務化されました。これは3年前の平成10年4月より施行されています。しかし、この電話相談事業の積極的活用はなされておりません。事業主が、職場において母性健康管理の措置を通切に講じるためには、産業医などの産業保健スタッフの役割が極めて重要となっています。このため、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の事業所、すなわち小規模事業所における母性健康管理の相談体制を整備することが重要かつ必要とされています。そのため平成10隼4月より旧労働省女性局長通達として、各都道府県女性少年室あてに、この事業の実施推進を図る目的で、各郡市医師会に委託して、小規模事業所の事業主および女性労働者を対象に「母性健康管理相談事業実施要綱」に基づく、相談事業の実施をすることになっています。
相談事業の実施内容ですが、まず、相談窓口の設置があります。日母会員などが事業主および女性労働者、すなわち職場で働く女性からの母性健康管理相談に応じる窓口を設置してここで、月1回程度母性健康管理、すなわち妊娠、出産、育児を含めたあらゆるケースに対応する仕組みです。また、小規模事業所の事業主に対して、母性健康管理に関する説明会,相談会を開催することとしています。すなわち、小規模事業主を相談対象者として、産婦人科医などが説明し相談に応じる仕組みです。
説明、相談内容ですが、義務化された母性管理の措置に関して、健康診査等の重要性、妊娠中および出産後の症状等について説明するとともに母性健康管理の措置に関して、個別に具体的に相談に対応することです。説明会の開催場所は相談者が利用しやすい場所で開催するのが望ましく、また、中小企業団体中央会、商工会議所、経営者団体等に協力を求めて、小規模事業主を招いて行う会合等を活用するなど、相談者が出席しやすい場所を確保する工夫が必要です。
このように行政としては、積極的にさまざまな補助を付帯して呼びかけていますが、効果が今一つあがりませんでした。そこで厚生労働省は再度、各都道府県にあります女性少年室に、小規模事業所の母性健康管理に関する電話相談事業の推進をするように指導しました。即ち今まで郡市医師会に委託していました「電話相談事業」について、日母の各支部の中にコーディネーターを置いて、事業主からの電話による相談を受けることとしました。仕組みはまず、事業主からの電話による相談が日母各支部のコーディネーター(日母支部事務局で担当事務局員をコーディネーターとすることは可能であります)が、相談内容を聞き取った後、働く女性に講ずべき措置にかかるもの、即ち医学的内容なものについては、各支部であらかじめ指定した当番のDr.に電話を回して、当番のDr.より事業主に対して、電話で連絡回答するものとしました。
また、相談内容ですが、例えば、妊娠中に起こりやすい病気についてとか、出産後の職場復帰について、環境整備をどのようにしたら良いかとか、あるいは、体調不良が心配、前の妊娠が死産となったことから、このまま働き続けるべきか不安であるとか、いろいろな相談内容に対応することになります。
この電話相談事業に関して、厚生労働省は母性健康管理相談医謝礼金や、コーディネーター謝礼金として予算計上し、日母本部を通して各都道府県日母支部に分配する予定にしています。
ところで、「21世紀は母性の時代」と言われています。厚生労働省の調査によりますと、わが国の働く女性の実態は子育ての後に再び自分の能力を生かして就業したいとする女性が増加しているにもかかわらず、能力を活かせるような再就職の機会が乏しい問題も多いことから、働く意欲を持つ女性達がその能力を発揮して、生き生きと働くことができる様々な働き方とその問題点を探ってみました。
女性労働者のライフコースと再就職に関しては、30〜34才の年齢層において、働く意欲はあるものの職に就くことを控えている女性が特に多い傾向で、再就職の実態は女性は30歳代後半からパートタイム労働者として再就職するケースが多いことがあります。また、高学歴や専門職に就いていた経験を持つ女性ほど再就職について専門的、基幹的職務志向が強く表れています。企業としても、このように専門的基幹的職務の女性労働者を中途採用する傾向がぼちぼち表れてきています。子育てのために就業を中断し、その後再就職を希望する女性にとって、現状はその意向に十分応えられる状況にはなっておらず、このことは、女性個々の生活満足度を下げており、社会的にも損失が生じていることになります。また、少子化の要因にもなっています。女性の再就職を促進するためには、人事労務管理制度における年功序列主義を見直す傾向があります。効率的な人材の確保の手段としては、中途採用者の拡大、即ち年齢や性別にこだわることなく、高い専門的能力を有した者を中途採用する形も拡がっていくと予測されます。中途採用が拡がっていくという変化の中で、企業に再就職型女性の積極的な活用がわが国の経済活性化、少子化対策のうえでも強く求められていることの認識に立ち、能力開発、能力評価制度などの整備が求められます。また、再就職しようとする女性に対しては、復帰に向けての知識、技術のキャッチアップあるいは労働市場において企業が求めているものは何かなど、需要の動向を把握するための努力が求められます。子育て期間だけ就業を中断して、その後再び働くというライフコースは、現状として、家事負担の重いわが国の女性にとって、選択されやすい一つのライフスタイルであります。継続就職型のライフコースを外れると、能力を発揮できる職場が少なくなってしまうという状況は改められなければなりません。子育ての後の再就職の機会を確保しやすくできるような職場環境を整備することが重要です。
事業所における母性保護などの実施状況ですが、産前産後休業制度の活用、職場での育児保育時間の請求、生理休暇、通院休暇制度の利用、通勤緩和措置の請求、妊娠障害休暇の請求は50人以上の事業所でも低い利用率です。ましてや人員整理が進んでいる小規模事業所で利用するにはまだまだの感がいたします。女性の職場進出が進み、妊娠中または出産後も働き続ける女性が増えています。働く女性が安心して子供を産むことができるように「母性健康管理指導事項連絡カード」の利用を勧めていますので、この連絡カードの積極的活用と今年4月からはじまります「小規模事業所向け電話相談事業」に日母の会員の先生方の積極的介入をお願い申し上げます。
「小規模事業所向け電話相談事業」は今までは各郡市医師会に委託していましたが、利用率はほんのわずかでした。「母性」に関することなので、医師会でも産婦人科医に相談しなければ回答が出来ないような状態が続き、事業主サイドからもヘジテイトするようになり、ますます産業医のいない小規模事業所では、利用が行われなくなったことと容易に想像できます。
今回、男女雇用機会均等法の改正もあり、働く女性の母性健康管理事業の一端のこの「電話相談」を日母の各都道府県支部に委託することになり、事業主が産婦人科医の助言を受けやすいように改善しました。どうぞ、この機会に日母会員は「母性健康管理指導事項連絡カード」と「小規模事業所向け電話相談」をご理解し、積極的活用で、女性一生の健康支援の一翼を担っていただきたいと思います。
***** 小規模事業所向け電話相談事業(案)
事業の目的
産業医等のいない小規模事業所等にあっては、母性健康管理の環境整備や具体的な措置を講じるにあたって、医師等専門家の意見を得ることが困難なため、そうした必要が生じた場合に産婦人科医の助言を得られる仕組みを設けることとする。事業の概要
事業主からの電話による相談を受けることとし、コーディネーターにおいて相談内容を聞き取った後、女性労働者に講ずべき措置にかかるものについて当番医に電話で回付し、当番医より当該事業主に対し、電話で連絡回答するものとする。[相談内容の例]
・ 妊娠中に起こりやすい病気について
・ 出産後の職場復帰について職場環境、体調不良が不安
・ 前の妊娠で死産となったことから、このまま働き続けるべきか不安***** 現行の事業との変更点
1. 委託先
各郡市区医師会→日母2. 方法
相談窓口および説明会の設定(各月1回)→電話、ファクスによる随時相談3.相談対象となる事業所の範囲
郡市区医師会(委託先)のエリア→各都道府県のエリア3. 現行の委託先の郡市区医師会との関係
郡市区医師会への委託は取りやめることとするが、当番医の選定を日母の各支部で行う際、従前の事業を行っていた郡市区医師会のエリア分の当番医の選定については、当該郡市区医師会に協議する。
***** 母性健康管理を進める体制
1 小規模事業所に対する母性健康管理相談事業産業医や機会均等推進責任者を選任していない小規模事業所を対象とした事業です。
この事業は、労働省が全国各地の郡市区医師会(地域産業保健センター)に委託し実施しています。
【事業の概要】
定期的に母性健康管理相談窓口を開設するなど、説明・相談会を開催し、産婦人科医等が小規模事業所の事業主及び女性労働者からの母性健康管理に関する相談に応じます。
〔平成12年度委託先一覧〕
都道府県名 委託先医師会名 TEL 都道府県名 委託先医師会名 TEL 北海道 札幌市医師会 011-611-4181滋賀 大津市医師会 077-525-4101青森 青森市医師会 0177-77-1501京都 舞鶴医師会 0773-64-0901岩手 盛岡市医師会 019-625-5311〃 綴喜医師会 0774-64-2616秋田 本荘市由利郡医師会 0184-22-4085大阪 堺市医師会 0722-21-2330山形 山形市医師会 023-645-0440〃 布施医師会 06-6723-3450福島 福島市医師会 024-534-2290兵庫 尼崎市医師会 06-6426-6333茨城 水戸市医師会 029-233-0205奈良 奈良市医師会 0742-33-7876栃木 宇都宮市医師会 028-622-5255和歌山 和歌山市医師会 0734-31-1119群馬 沼田利根医師会 0278-23-2058鳥取 鳥取県西部医師会 0859-22-3570埼玉 大宮市医師会 048-651-5050島根 益田市美濃郡医師会 0856-22-3611千葉 柏地区医師会 0471-63-7391岡山 岡山市医師会 086-272-3236東京 日本橋医師会 03-3666-0131広島 福山市医師会 0849-26-9601〃 葛飾区医師会 03-3691-8536山口 下松医師会 0833-43-7533神奈川 厚木市医師会 0462-22-1259徳島 徳島市医師会 088-642-3640〃 横浜市医師会 045-782-3321香川 高松市医師会 087-831-2208新潟 新潟市医師会 025-231-4131愛媛 松山市医師会 089-947-7762富山 宮山市医師会 0764-25-6114高知 高知市医師会 0888-33-1248石川 石川松任郡市医師会 076-275-0795福岡 福岡市医師会 092-852-1521福井 福井市医師会 0776-23-0587佐賀 佐賀市医師会 0952-31-1414山梨 中巨摩郡医師会 055-276-2323長崎 諌早市医師会 0957-25-2111長野 南安曇郡医師会 0263-72-2347熊本 熊本市医師会 096-356-3020岐阜 大垣市医師会 0584-89-5800大分 日田郡市医師会 0973-23-8500静岡 沼津医師会 0559-62-1229宮崎 宮崎市郡医師会 0985-50-8208愛知 名古屋市医師会 052-937-7801鹿児島 鹿児島市医師会 099-226-3737三重 津地区医師会・久居一志地区医師会 059-227-5252沖縄 那覇市医師会 098-866-88042 産業医等産業保健スタッフのための母性健康管理研修会
事業所内の母性健康管理に携わる者の資質を高め、事業主や女性労働者からの相談に対し、必要な措置の実施に当たって適切な助言を行うことができるようにするため、労働省が(財)女性労働協会に委託し、産業医等産業保健スタッフ(産業医、医師、保健婦・士、看護婦・士、機会均等推進責任者)に対する研修会を実施します。なお、この研修を受講すると産業医の方々は日本医師会「認定産業医」基礎研修または生涯研修の3単位が取得できます。申し込みは、(財)女性労働協会(電話03-3456-4410)まで。