平成13年3月26日放送
平成12年度社保の動き
日母産婦人科医会幹事 秋山 敏夫
日母に社会保険部が誕生して30年が経過した。この間に、社会情勢が変化し産婦人科医療も変革を求められている。
本年度の最も重要な事項は、平成12年4月に行われた診療報酬点数改定であった。
今回の改定では改定幅をめぐり、支払側と診療側との主張が隔たり、中医協では結論がでず、政治折衝で実質0.2%の引き上げで決着した。
本年度は当初、抜本的改定になるとされていたが、改定の特徴が検査項目の点数ダウン、手術点数のアップであった。
技術料の評価はなされたが、本来の技術料であるべき初診料・再診料の評価が据え置かれ、検査主義の風潮へ歯止めがかけられた。また継続検討項目が多いのも特徴であった。1.診療報酬点数改定に関する産婦人科の要望
数年前より要望事項の作成時期が早まり、日本医師会より、例年に比して早期の提出が求められたため、社保 部会で前回要望を基に要望案を作成、日産婦学会と協議後、日産婦学会と連名で日本医師会に提出した。
産婦人科関係の主な変更点としては
産科手術点数の改定において産科・婦人科共おおくの手術が増点となった。
婦人科手術点数の新設では子宮鏡下子宮中隔切除術、癒着剥離術を含む子宮内腔癒着切除術、腹腔鏡下子宮筋腫核出術、子宮鏡下有茎粘膜下筋腫切除術、子宮内膜ポリープ切除術、バルトリン腺嚢胞造袋術は本手術とバルトリン腺嚢胞摘出術の名称併記に変更された。2.分娩監視装置の適応拡大
以前から陣痛促進剤使用時に本検査の適応拡大を要望していたが、今回「異常分娩の経過改善の目的で陣痛促進を行なう場合」にも適応追加となった。なお、委員会の協議において分娩誘発時の使用も可とされたが、原発性微弱陣痛等の傷病名の明記が望ましいとされた。
また、算定回数は1分娩1回に限定されず、2回以上の算定も可能となった。詳細は医報平成12年12月号参照。3.長期投与薬剤の適応拡大について
1回90日分を限度として投与する内服薬及び疾患として、「処置後卵巣機能不全(症)」「無月経、過少月経および希発月経」「過多月経、頻発月経および不規則月経」「閉経期およびその他の閉経周辺期障害」が適応追加となった。
1回30日分を限度として投与する外用薬及び疾患として、「処置後卵巣機能不全(症)」と「閉経期およびその他の閉経周辺期障害」が追加された。4.診療報酬動態調査結果
医報3月号にあるように、診療所では外来が0.4%のアップ、入院が4.3%のアップ、病院では外来が0.1%のダウン、入院では6.1%のアップとなった。詳細は医報3月号参照。
5.日産婦と共同で行っている事業
「超音波パルスドップラ法の適応」と「子宮体癌に対するパクリタキセルとカルボプラチンの併用療法」についてであり、日産婦の各委員会に検討して戴いている。
6.社保委員会・社保ブロック協議会における疑義解釈
- (1) 破水診断の目的で2種類の検査を施行した場合
- 同一日に2種類は不可。別の日であれば1〜2回は可
- (2) 筋腫分娩に腟式筋腫核出術の請求の可否について
- 子宮息肉様筋腫摘出術(腟式)で算定
- (3) 開腹手術後の硬膜外持続注入の日数
- 当日を入れて3日間程度
- (4) 妊婦健診中B群溶連菌(GBS)が陽性の場合
- 社保の適応となり、病名は子宮頸管炎(GBS)あるいは、GBS感染症とする
- (5) 新生児のGBS感染予防のための分娩時抗生物質の点滴の適否
- 予防投与の保険請求は不可
- (6) IUGRに対する酸素吸入療法の算定
- 有効な治療法が確立していない現状であるが、不可
- (7) 子宮内膜細胞診実施時、抗生物質の算定
- 予防目的では不可。必要な場合は詳記が必要
- (8) 不妊症、卵巣機能不全でCT・MRI検査の可否
- この病名のみでは不可
- (9) 「卵巣腫瘍」病名による悪性腫瘍マーカーの算定
- 単に「卵巣腫瘍」の病名は良性疾患とされる。腫瘍マーカーは「悪性卵巣腫瘍」または「悪性卵巣腫瘍の疑い」の病名が必要
- (10) タキソテールとデキサメサゾンの併用
- タキソールは用法として、デキサメサゾン、ザンタックの併用が認められているが、副作用が軽減されるタキソテールの場合は算定不可
- (11) 前期破水の診断目的でのヒステロスコピーの使用:
- ヒステロスコピーの適応は「子宮体部の各種疾患の観察診断及び撮影」である。破水診断は適応外であり算定できない。また、羊水鏡検査は保険非収載であり算定できない。
- (12) 外陰部皮膚科軟膏処置の点数
- 皮膚科軟膏処置は昭和45年発刊の点数表までは「患部の範囲」とともに「程度」という項目があり、「感染し分泌物の多いもの又は瘻孔を有するもの」と「分泌物が少量となったもの又は単純なもの」に分けられ、外陰処置は分泌物の多いもので算定されていた。これが昭和47年の改定で「患部の範囲」のみになった時点で、一段階高い点数での算定を根拠に、範囲を一段階上で算定するようになった。
この判断が現在まで続いており、初診月に限り49点で算定できる県が多数ある。しかし、これは審査委員の内規であり、通達とはされていない。
審査支払機関・皮膚科や一般の審査委員は42点が妥当と判断している。
この既得権と妥当性の判断は各地区の審査委員会で行われるれるため、各地区毎の協議会で対応して戴きたい。7.社保小委員会の報告
従来「産科における療養の給付」については会員必携No.21「医療保険必携」中に「診療費算定方針に関する事項」として掲載してきた。しかし、新規開業や大学、公的病院からのレセプトに、現金給付や産科診療に対する認識不足からくる、不適切な保険請求例が散見されるようになった。
例えば、安全出産に導くために予防の目的で行った、会陰切開および縫合や会陰裂創縫合術は分娩料に含まれ、保険診療の対象とはしないとの取決めがなされている。しかし、一部の医療機関からは経腟分娩の半数以上に保険請求する例がある。
産婦人科医療の適正化および現金給付制度を堅持するために、必携の内容をもっと理解しやすいよう図を取り入れ、例を用いて記述することとし、現在作業中。
完成後会員に配付予定です。8.その他
- 合成吸収性癒着防止材
- 平成13年2月1日より組織代用 人工線維布(セプラフィルム、インターシード)は名称を合成吸収性 癒着防止材と変更され、適応が変更された。合成吸収性 癒着防止材の適応は (1)術後の癒着の軽減 (2)女子性器手術後の卵管及び卵管采の通過・開存性の維持を目的として使用した場合、さらに女子性器手術後の卵管及び卵管采の通過・開存性の維持以外を目的とした場合となった。
変更前は妊孕性の維持が適応であり、子宮や卵管の存在が必要であったが、変更により子宮全摘術後であっても使用が可能となった。使用枚数は2枚を限度とする。- 出産費貸付制度
- 厚生省は平成12年12月28日、保険局より各都道府県 民生主管部長宛、以下通達した。
これによれば、本年7月から、出産育児一時金を前倒しで出産前に貸し付ける無利子の融資制度を開始する。出産予定日の1か月前から一時金の8割にあたる24万円を目安として貸し付け、返済は出産後一時金を支給する際に処理されることになった。妊娠4か月以上であれば流産や死産の場合でも支給される。