平成13年11月26日放送

 第102回日産婦関東連合地方部会学術集会より

 日産婦関東連合地方部会会長 西島 正博

 

 第102回日産婦関東連合地方部会総会ならびに学術集会が、平13年10月20日と21日の2日に亘って、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルと、パシフィコ横浜を会場として行われました。幸い秋の好天に恵まれて約1000人の出席者がありました。

 今回の本会は、神奈川県が担当のため、県の医会で北里大学から会長を出すことに決定し、神奈川県産科婦人科医会と北里大学医学部産婦人科学教室が協力しながら準備をしました。

 近年、本学会の学術集会のあり方も変化して参りました。平成11年6月に開催されました第97回本学会関東連合地方部会総会において行われた「本学術集会の2日開催制度に関するアンケート」の結果報告でも、会員の42%が賛成し、反対は15%のみで、特に積極的に賛成を表明されたのは、個人医院の先生方が59%と最も高いことが特徴的でした。このアンケート結果から、今回は2日の会期で行うことに決定しました。ところが、平成13年6月に行われた第101回の本会の際に行われたアンケ−ト調査によると、開催日数は「1日でよい」とする人が最も多く65%を占め、全く反対の結果でした。まだ何度か調査する必要性があるように思われます。

 今回、関東連合地方部会としてははじめて、UMINによるインターネットを使っての演題募集を行いましたが、一般演題総数180題のうち168題93%がインターネットによる応募でした。今後はこの方式が定着していくものと思われます。また、託児室を、今回も開設しましたが両日とも数人の利用者で、その利用度が高まるには暫くかかるのかもしれません。

 学術講演としては、初日の開会式直後に、京都大学名誉教授の大島 清先生から「胎内から胎外へ・脳の発達」という特別講演を頂きました。脳の発達には、外からの持続的なバランスのとれた刺激が必要であることを力説されました。重要なことは、幼少期のバランスのとれたコトバ磨きによって、10歳前後に脳のソフトウェアが一応の完成を見るといいます。そして、個人の思考、計画性、決断力、創意工夫性、恋愛行動などはこのソフトウェアが演出するのだそうです。

 2日目の午前中は12会場に分かれてすべて一般講演として発表頂きました。応募演題の中から前もって組織委員会で選んだ35演題を7群に分けてポスター口演とし、組織委員会の学術委員と座長の採点によって7題の発表に奨励賞を授与し、今後の更なる研究の発展を期待しました。

 昼休み中に行われた総会は、今年度から日産婦総会に準じて、代議員による総会でしたが、順調に行われました。

 午後にはポストグラデュエートコースを各領域に亘って4会場で、生涯教育の一環として教育講演を頂き、新しい情報の整理に大いに役立ったと思います。それらの講演内容の大意は以下のようなものでした。

 「経腟超音波診断」では、GS像の検出は子宮内妊娠の根拠となり、排卵日が推定できた症例では排卵後17-20日で検出できる。異所性妊娠や帝切瘢痕部妊娠などでは、妊娠早期のGS着床部位の検討が有用であるという。また、前置胎盤の管理では頚管の超音波画像から多量出血の有無の予測ができる。

 「産婦人科手術の安全な麻酔のために」では、帝王切開時の麻酔による妊産婦死亡は、誤嚥と挿管困難であるため、禁忌がない限り脊椎麻酔、硬膜外麻酔等の区域麻酔を選択することが原則である。脊椎麻酔ではT4までの十分な麻酔レベルをめざし、くも膜下フェンタニール10μgを添加する。硬膜外麻酔の場合は、硬膜外カテーテルはいつ迷入してもおかしくないと考え、毎回の注入を試験注入のつもりで行う。

 「早産管理の新しい視点」では、早産の早期診断には、頚管粘液中顆粒球エラスターゼは頚管炎をとらえるため、胎児性フィブロネクチンは子宮収縮により絨毛膜トロフォブラスト細胞で産生されるところから早産の予知に優れている。合わせて、経腟超音波による頚管長の測定が切迫早産の早期診断に有効である。治療に関しては、炎症性サイトカインの抑制作用を持つウリナスタチンが普及してきている。

 「乳がん検診へのマンモグラフィ導入にあたって」では、乳がんは早期での救命率が高く、検診が有効ながんでもある。乳がん検診は、1987年から視触診で行われてきたが、2000年3月、準備が整ったところから、マンモグラフィを導入することになった。現在、乳房に異常を疑う女性の半数が産婦人科を受診しており、マンモグラフィを積極的に導入することによって、乳がん死亡の減少が期待される。

 「ゲノムと遺伝子診断」については、永年待たれていたヒトゲノム・ヌクレオチド配列の概要が、本年相次いで発表され、2001年はまさに新世紀の幕開けとなった。これらの発表から当初10万程度あると予想された遺伝子が、3万から4万しかないということと、各種の繰り返し配列が全体の約48%を占めており、ヒトを特徴付けるAluは全体の約10%存在することが明確になった。

 「医療事故の防止と対策」では、医療事故については専門性の壁、密室性の壁、封建性の壁の「三つの壁」があり、被害者は原状回復、真相究明、反省謝罪、再発防止、損害賠償の「五つの願い」を持っていることが強調された。これまで「医療事故の防止」と「被害者の救済」は、別個のこととして考えられてきたが、この二つは「車の両輪」のごとく連動すべきものであることが指摘された。

 「環境ホルモンと人類の未来」では、缶や瓶からナノレベルで溶出するビスフェノールAを例にとって、河川等の環境から検出されるのみならず、血液、臍帯血、卵胞液、羊水などからも1-10nM程度検出されることが示された。さらに、ビスフェノールAのマウス胚培養液添加では、1-3nMでは胚発育に対する促進効果、逆に100μMでは抑制効果が明らかになった。体外排出除去法として活性炭(薬用炭)を基盤にした物質による最新の取り組みが紹介された。

 「ヒト胞胚は何を語るか.―胚培養法の進歩と胞胚期移植―」では、マウス早期胚を子宮内に自家移植すると、着床率は非常に低く大部分は変性してしまうが、ヒトの場合、早期胚を子宮腔に移植して15-20%位の着床率がある。したがって、少なくとも形態的にグレードの高い、viableな胞胚を選択すれば、着床率はさらに向上することが言及された。

 「HRTと脂質代謝」では、閉経前後のエストロゲンの減少に伴い、女性の血中総コレステロールおよびトリギリセリドは上昇し、その結果、動脈硬化が促進され、虚血性心疾患をはじめとする動脈硬化性疾患の発症が急増する。エストロゲンは、血中LDLを減少させ、HDLを増加させると共に、抗酸化作用、血管拡張作用も有し、動脈硬化性疾患に予防的に作用していることを概説した。

 「産婦人科領域における静脈血栓症・肺塞栓症について」では、血栓症の発生要因として、1)血管壁の損傷、2)血流の停滞、3)血液凝固能の亢進が強調された。骨盤内手術、分娩、帝王切開等は子宮内の動静脈の損傷、を必ずともない、分娩中や術中、術後の脱水や嘔吐、激しい下痢等で血液濃縮をきたすので、上述の3要素を考慮して管理することが重要であるとした。

 「卵巣癌の治療のための基準」では、手術の適応は生殖年令であれば7cm以上、閉経後であれば5cm以上の腫瘤が基準である。手術療法では、基本的には両側付属器摘出術、子宮摘出術、大網切除を施行する。保存的手術は、上皮性悪性腫瘍の場合は、Ia期で高分化型の場合、および胚細胞腫瘍とされる。卵巣癌において、化学療法が不要とされるのは、Ia期、Ib期で高分化型の場合のみとされる。近年では、paclitaxelとcaboplatinの併用が標準的とされる。

 「家族性腫瘍と癌予防」では、家族性腫瘍が、その臨床的特徴は1)家族性、2)若年性、3)多重性、4)症候群であることが示された。子宮体癌は遺伝性非ポリポ−シス大腸癌、卵巣癌は遺伝性乳がんや遺伝性非ポリポーシス大腸がんの症状でもあり、家族性腫瘍は、一個体で多臓器に腫瘍が発生するので、各科専門医の協力が欠かせない。(しかし、この講演は時間の都合で中止とされた。)