平成14年1月14日放送

 産婦人科オープンシステム-日母アンケート調査より

 日本産婦人科医会幹事 鈴木 俊治

 近年、適正な医療システムの配置のために、また、診療報酬の面からも、病診連携が強く奨められています。さらに、ますます厳しく要求される母児の安全のためにも‘妊婦健診は診療所で、出産は設備と人員の整った総合病院で行なう事が望ましい’として、オープンシステムまたはセミオープンシステムを導入する施設や地域がみられてきました。オープンシステムとは、妊婦健診は個人診療所で実施して、分娩は病院でおこなう形態を云い、原則として診療所の医師が分娩に立ち会い、治療方針の決定権も持つシステムを指します。これと比べて、妊婦健診は個人診療所で実施して、分娩は病院でおこなう形態はオープンシステムと同じですが、原則として分娩の立ち会いや治療方針の決定権は病院側が持つシステムをセミオープンシステムといいます。しかし、妊婦を送る側と受け入れる側の連携が、真の意味でオープン化またはセミオープン化しているところは少なく、実際、わが国の産科医療体制におけるスムーズな病診連携は未だ確立されていないのが現状ともいえます。

 日本産婦人科医会でも、‘健やか親子21’のスローガンのもとに、快適で安全な出産の確立を目指して、このような事業の推進に関する検討を行ってまいりました。今後わが国の産科診療において、はたして‘オープンシステムまたはセミオープンシステムによる診療体制を目指すべきかどうか’、また、‘その導入・構築にあたっての問題点は何か’などの問題提起を目的として、全国の大学病院、医師会立病院および周産期母子医療センターの先生方、ならびに約1,000名の全国日母定点モニターの先生方の協力を得て、「産科医療におけるオープンシステム・セミオープンシステムは可能か」というアンケート調査を実施し、そして、74%の回答を頂きました。昨年11月、当番組においてその結果の一部を報告させていただきましたが、今回は追加データも含めまして第2報とさせていただきたいと思います。

調査結果に関しては、オープンシステム・セミオープンシステムの受け入れ側に位置する病院勤務医の先生方に対する実態および意識調査結果と、オープンシステム・セミオープンシステムでの分娩を活用する診療所の先生方に対する調査結果の二部構成で報告いたします。

先ず、病院勤務医の先生方へのアンケートですが、688件の依頼に対して御回答頂いたのが447件で、回答率は65%でした。約3分の2が、40歳代から50歳代の、その施設で部長等の責任ある先生方からのもので、病院形態の内訳は、総合病院が約57%、大学病院が18%、産婦人科専門病院が16%でした。病院の規模としては、産婦人科常勤医師数は3〜4人の施設が全体の約3分の1で最も多く、分娩数では年間200〜400件が30%を占めました。施設数は分娩数の増加とともに漸減しますが、年間1000件以上の分娩を取り扱う施設は全体の6.4%ありました。

新生児入院病棟は全体の62%、277の施設で保有しており、呼吸管理が出来るいわゆる狭義のNICUは48%、216の施設にありました。今回、小児科医の勤務体制についてもアンケートを行いましたが、回答率にばらつきがあり次回の報告とさせていただきます。

各施設の分娩の受け入れ状況としては、制限を設けないで他院より分娩を受け入れているところが284件、約48%ありましたが、オープンシステムを実施している施設はわずか15件、3.4%であり、セミオープンシステムを実施している施設は44件、9.8%でした。また、一方、今後のオープンシステムまたはセミオープンシステム導入の可能性については、約40%の施設で検討中または可能性ありの回答を頂きました。しかし、実施する予定がないとした施設も53%をしめ、今後は、どのような施設が回答しているかなどの解析の必要性が推定されました。

オープンシステムまたはセミオープンシステムを実施している施設での診療報酬は、病院に帰属しているところが70%で、配分ありが30%の施設にあり、これはセミオープンシステム・オープンシステムの実施施設数の比率と合致しておりました。

まだ本システムを実施していない施設で、今後このシステムを実施する際の問題点として列挙されたことは、トラブルが発生した時の責任の所在が不明確であるという点の指摘が最も多く、その他、診療方針の一貫性が保てなくなる、医師の負担が増加する、コ・メディカルの負担が増加するなどが続き、一方、診療上は特に問題ないが妊婦の負担が増加すると云った意見などもありました。また、このシステムの実施においては、産科当直医師数の増加をはじめとした人的・設備的・機構的問題や診療報酬の取り扱いについての意見も多数寄せられましたが、最終意見として、本システムはわが国に部分的には定着するだろうとした意見が38.3%と最も多く、次いで定着させるために努力する必要があるとしたものが32.6%を占めました。しかし、オープンシステムまたはセミオープンシステムが、現在のわが国の産科医療に定着すると回答したものは全体のわずか3.4%でした。

これらに対して、診療所に対しては日母定点モニターに544件の依頼を行い、464件、85.3%の先生方から回答を頂きました。50歳代から60歳代の先生方からの回答が最も多く、78.5%の施設で常勤医師は1名であり、約65%の施設が分娩を取り扱っており、約3分の2の施設が年間分娩数300件未満でした。現在、分娩を取り扱っている施設のなかで、59.2%の施設で容易に母体・新生児搬送の受け入れ先を探すことが出来ると回答しており、殆どの施設において困難ではあるが何とか搬送先を見つけているとのことでした。

産科医療におけるオープンシステム・セミオープンシステムの構築については約75%の施設で関心を示しておられましたが、具体的な内容についてはまだ十分に認知されていないのが実状のようでした。  

また、その参加に際しては、病院勤務医師のアンケート結果と同様にトラブル発生時の責任の所在や、収入減、妊婦や医師の負担を危惧する意見が寄せられました。

しかし、約80%の施設で近くにこのシステムがあれば状況等によって利用したいと回答しており、また、将来の診療所経営として分娩の取り扱いを中止した際のオープンシステム・セミオープンシステムの参加に関連した問題点や意見なども寄せられました。

そして、最終的にオープンシステムまたはセミオープンシステムが、現在のわが国の産科医療に定着すると回答したものは、全体のわずか3.2%でした。その他、本システムがわが国に部分的には定着するだろうとした意見が39.0%、また、定着させるために努力する必要があるとしたものが33.8%を占め、オープンシステム・セミオープンシステムの定着についての考えには病診両間の差は認められませんでした。

 以上、「産科医療におけるオープンシステム・セミオープンシステムは可能か」というアンケート調査に対して、病院および診療所側からの回答結果をまとめてみました。今回、両者から寄せられた意見は、以前より産科医療の問題点として挙げられてきた項目と特に変わらないものと思われます。以前より、特に産科診療におけるオープンシステム・セミオープンシステムの導入に関しては、その収益の分配や責任の所在を明確にして、各医師やスタッフが各々の診療範囲を自覚した妊婦管理をおこなうことが重要であるとされてきました。今回の調査は、これらの問題点に関する意識・実態を具体化したものと評価され、今後の産科における病診連携のあり方の道標の一つになるものとも考えられますが、何よりも病院・診療所間の小児科サイドも含めた日頃からのコミュニケーションの重要性が再認識されるものでありました。今後、日本産婦人科医会においては、この結果に対する全国の先生方の反響を解析し、今後の母子保健事業に組み込んでいく予定です。

最後に、この調査に御協力頂きました先生方と集計・解析して下さいました日本産婦人科医会女性保健部・母子保健委員の方々にに心から感謝申し上げます。