平成14年2月25日放送

 平成14年度日産婦学会専門医試験について 

 日産婦学会中央専門医制度委員会委員長 武谷 雄二


 専門医制度の前進である日本産科婦人科学会認定医制度は、昭和62年4月に発足以来本年をもって15年を経過しました。認定医制度そのものは、学会自らが社会の要請に応えるべく自己研修を通じ会員全員が一定のレベルを超えた知識、技量を習得することを支援してきたもので、それなりの成果が得られたものと思われます。しかしながら、最近の医療内容の高度先進化に対応し、認定医をもう一歩押し進め、細分化された診療領域を責任をもって担当する能力を有する専門医を育成する必要が高まりました。また各学会が足並みを揃え専門医と呼称するということで全体の同意が得られ、本年5月「日本産科婦人科学会認定医制度」の名称も「日本産科婦人科学会専門医制度」に変更しました。本制度は、産婦人科領域における広い知識、錬磨された技能と高い倫理性を備えた産婦人科医師を養成し、生涯にわたる研修を推進することにより、産婦人科医療の水準を高めて国民の福祉に貢献することを目的にしております。一定の水準に達した産婦人科医師を学会が認定するため、本学会では専門医制度規約第3章「専門医の審査と登録」の定めるところにより、平成5年度より専門医認定審査、すなわち研修記録や症例レポートなどの書類による一次審査と面接試験による二次審査を施行してきました。そしてさらに、客観的で透明性の高い専門医認定試験制度を確立し産婦人科医療の向上を目指して、平成12年度から3年間の試行期間をおき、二次審査の一部として筆記試験を導入してきました。なお、何らかの形の筆記試験は他学会でも採用しており、ある程度共通の基準で専門医を認定しようとする考えからも必要な措置といえます。本年度は、その試行期間の最終年度にあたります。試行期間中に研修到達目標の範囲と水準の設定、合格基準の設定、専門医認定試験実施要綱の改訂などを行い、平成15年度からの本格導入に備える予定です。

 二次審査のために、年度ごとに試験実行委員会をおき、試験は「認定二次審査実施要領」により行います。受験者を北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州の9ブロックに分け、北海道、東北、関東、北陸(新潟)に所属する者は東京で、北陸(富山、石川、福井)、東海、近畿、中国、四国、九州に所属する者は大阪で受験します。認定審査は卒後5年間の研修が卒後研修目標に沿って行われたかどうかを試験するものですが、研修到達目標は、専門医制度規約の「別添ム卒後研修カリキュラム」、日産婦誌44巻6号に掲載された「卒後研修目標」および「研修手帳」に記載されています。平成13年度は、筆記試験問題は12年度と同様に腫瘍学、生殖医学、周産期医学および一般産婦人科の4分野から、各30題ずつ、合計120題が出題されました。一般の問題には、医療保険制度に関するものも含まれます。知識を問う問題が82題、思考過程を問う問題としての症例問題が38題という構成です。解答はマークシート方式で、試験時間は180分とし、8月4日、東京・大阪の2会場において同時に施行されました。出題水準は、産婦人科専門医としての知識と技能のminimum requirementsを習得しているか否かを評価することを目的にしています。筆記試験を加えた主旨は、受験者をふるい落とすためではなく、あくまでも専門医のレベルアップを図り、またそのための研修システムを充実させ、産婦人科医療の水準を高めることによって最終的に国民の福祉に貢献することです。なお、この試行期間中に実施する筆記試験の成績は、合否判定には直接的には使用しません。昨年の面接試験は、8月5日、東京・大阪の2会場において同時に施行されました。第1段階の面接試験は主に症例レポート、共通問題の症例に関する設問で、受験者の知識、技能、態度を評価するものであります。また、平成13年度から研修内容を記入した研修手帳の記載法についても評価することになりました。第1段階の結果が、5段階評価ですべて3点以上であれば基本的にはクリアしたことになり、1項目でも2点以下があれば、第2段階の審査を受けることになります。

 以上の如く専門医認定2次審査が施行され、その結果、1次審査合格者328名中、筆記試験は全員が受けました。東京会場で1名が面接試験のみを病気欠席しました。面接試験で第2段階に回った受験者は21名でしたが、そのうち3名が評価保留となり昨年9月に行われた専門医制度中央委員会で不合格の決定がなされました。最終的に、専門医認定審査の合格者は324名となりました。昨年は試行期間中ということで、第1段階面接試験では筆記試験の点数は参考とせず、合否判定は面接試験のみにより行い、第2段階では筆記試験の得点も参考資料として使用しました。筆記試験の成績を分析すると、100点満点に換算して平均70点であり、60点以下が受験者全体の約10%を占めていました。腫瘍、生殖、周産期および一般の各4分野の成績はほぼ同等で、各領域での難易度の差は認められませんでした。また、興味深いことに知識問題の正解率は66%、症例問題の正解率は80%であり、受験者が日々の産婦人科診療に真剣に励んでいることを窺わせました。さらに、筆記試験の得点が低い群から面接試験の第2段階へ進んだ傾向が認められました。

 専門医認定2次審査終了の後、学術企画委員会委員を中心に組織された筆記試験問題評価委員会が開かれ、専門医制度委員会と独立した立場で客観的評価が行われました。全体としては、筆記試験の第2回目の試行として概ね目的が達成されたと考えられましたが、面接試験担当官と評価委員会委員を対象としてアンケート調査を行いましたところ、若干の不適当問題の存在などいくつかの問題点のあることが指摘されました。この結果は、平成14年度以降の筆記試験問題作成の参考資料とする予定です。暫定的ではありますが、専門医制度中央委員会のメンバーの中では平成12年度および13年度の試験成績から目安として、60%以上の正解率をもって筆記試験の合格基準とするのが妥当であるとの意見が大半を占めているようです。

 次に面接試験に関することですが、平成15年度からの筆記試験の本格導入に伴い、現在面接試験で行われている症例に関する共通問題は廃止され、筆記試験の中の三分の一を占める思考過程を問う症例問題がその役割を果たすことになります。今後は、知識、技能は主として筆記試験でチェックされると考えられます。面接試験は、産婦人科医師としての人間性、適性をみるために必須であるという観点から、受験者本人の提出した症例レポートなどについて、面接試験官を患者の夫と想定し、診断・治療方針・予後の説明をし、治療法選択のインフォームド・コンセントを得るというシュミレーションテストを行うのも一法であると考えます。この方式によれば、知識の評価ができるとともに、面接技能の評価も行われ、人間性、態度の評価も可能となります。

 いずれにせよ、筆記試験、面接試験の合否判定基準および両者の評価配分比率は、試行期間の最後の年である本年度の成績をみて最終的に結論を出す予定です。最後に、本年度までは試行期間ですので、専門医認定審査の実施要綱および合否判定基準は従来通りで変更はないことをここで改めて申し上げておきたいと思います。なお本年の二次試験は8月3日4日両日、東京・大阪の会場にて執り行われます。