- 平成14年5月6日放送
産科における患者サービスの実態調査結果
日本産婦人科医会医療対策委員会委員長 可世木 成明
私たち産科医は、少子化に伴う分娩数の減少・高度医療化・大病院への集約など数多 くの問題に直面しております。いっぽう患者さんのニーズの多様化・高級指向化、そ して施設間の競争激化のために、良い医療を目指すのは当然ながら、それに加えてサ ービスの向上を行い患者さんの満足を得ることが重要になって参りました。以前行った調査でも、患者さんからは、診療設備・新しい検査、各種指導の充実、託児施設の 希望などいろいろ寄せられています。
ここでいう患者サービスには医療のサービスとアメニティーの両側面があります。こ の点も踏まえて日母医療対策部では実態を調査し、産科医の意見を求めるために「産 科における患者サービスの実態調査」を行いました。
なお調査を行った時点では日本産婦人科医会の名称は日本母性保護産婦人科医会でしたから、この報告では日母と略しております。今回の調査は日母定点モニター1,017施設を対象として平成12年2月に行われました。
回答は800施設から寄せられ、回収率は78.8%でありました。
結果につきましては、日母産婦人科医報、平成13年1月の「医療と医業・特集号」で 報告し、平成13年3月には「産科の健診およびサービスに関する調査結果報告書」と して、詳細なデータと分析を本にまとめております。報告書は日母各支部に配布され ましたが数にも限りがあり、必ずしも全会員の目に触れていないと思われます。その 後、更に日母産婦人科医報の平成13年7月号・8月号の2回に分けて調査結果にいく つかの分析を加えて掲載されました。本日はその中から興味深い点を選び、述べさせ ていただきたいと思います。分析は回答の寄せられた800施設の内、主として分娩を取り扱っている659施設を対象 としました。施設群として、国公立病院、一般病院、有床診療所の3群に分けて分析 しました。
【産科施設の状況について】
最近数年間の分娩数の増減
増加は21.3%、減少は51.5%でありました。施設群別では国公立病院・一般病院・ 診療所の順に分娩数増加・減少が逆転しており、分娩の大病院への集約化が進んでい ることが如実にあらわれています。
分娩数増減
・増加している136施設におけるその理由
・医師・助産婦・看護婦の魅力
・ 積極的な患者指導・各種サービス
・施設の増改築
・ 地域の社会へのとけ込み
・最新の器械やシステムの導入・減少している329施設の理由
・近くに強力な競争相手が出来た
・ 施設の老朽化とスタッフの高齢化分娩費用(入院分娩に関する総費用:個室割増料金を除く)
30万円から40万円が過半数を超えましたが、中には20万円以下が6施設(うち国公立4病院)あり、いっぽう50万円超が1病院ありました。
小児科医との連携(院内において)
国公立の91.6%、一般病院の80.3%に小児科医がいる(常勤+非常勤)。それに対 して診療所では24%であり、中でも非常時に呼ぶ小児科医のないと答えた施設が 49.5%を占めました。
産科外来における患者サービス
マタニティービクス:
指導は24.8%、特に産婦人科単科の病院では約半数を占めました。
妊婦水泳:
指導しているのは9.3%。
患者さん用の託児施設:
患者さんからの要望は多いが、有りは3.5%にすぎません。
母親教室:
国公立・一般病院においては最も多いのは妊娠中4回であったのに比して、診療所 では2回と、診療所が有意に少なく、特に病床数が少ないグループで回数が少ないとの結果でした。母親教室の夫参加は約80%が認めていた。
エコーの写真・ビデオテープの提供:
エコーの写真を提供するは94.8%
ビデオを提供する:39.2%
ビデオの提供は病院・診療所に比して総合病院・特に国公立では低かった。ビデオの提供は医事紛争との関連を危惧する意見も多いのですが、カルテ開示の時 代に当然である・情報提供は出来るだけすべきである、とする意見も少なくありませんでした。
胎児の性別告知:
全例に告知する:4.7%、聞かれればする:84.4%、しない:10.9%。告知しないのは国公立がやや多い傾向でした。
分娩の家族立ち会い:
認める:83.0%、認めない:13.7%であった。国公立をはじめ総合病院ではやや低か った。認めると答えた施設のうち54.7%が母親教室などでの教育を行っています。入院・分娩に関するサービス
各種の指導:
特に力を入れているとの回答は、育児指導21.2%、母乳指導42.2%、産 後の生活指導17.9%でした。施設群間の比較は診療所でやや低く、特に母乳指導に関 しては国公立・病院の約50%が力を入れているのに対して診療所では31.3%となっています。
食事:
食事の選択は国公立29.2%、病院38.1%、診療所17.8%で実施している。いわゆるお祝い膳は国公立:29.9%、病院:50.5%、診療所:33.2%が行っている(家族と共には6.2%)。
記念品・おみやげ(業者が提供するもの以外):
427施設(64.8%)が有り(国公立:29.2%、病院:68.6%、診療所:79.3%)でした。評判の良いものはベビーの写真、アルバムなどでした。
アメニティー(食事・お祝い膳・おみやげなど):
特に産婦人科単科の病院群はお祝い膳・おみやげ・マタニティビクス・ビデオテープ の提供などアメニティーの実施率が有意に他の群に比して高かった。アメニティーについての考え方をまとめると、
積極的賛成:19.3%
消極的賛成: 7.5%
反 対:61.6%
アメニティには反対するとの回答は国公立の32.5%、病院の36.6%に対して、診療所の53.0%でした。年齢群別にみると、30-40代が積極的であり、年齢増加とともに反対が増える傾向が見られました。分娩数が増加している群では積極的46.0%:反対48.3%とほぼ同数でしたが、減少している群では16.2%:70.6%と反対が多いという結果でした。産科におけるサービスのあり方
産科におけるサービスには「医療サービス」と「アメニティ」の2面があり、患者さんやマスコミにはともすれば「アメニティ」に話題が集まりやすいのですが、当然こういった風潮には批判的な意見も多くみられます。一般に有床診療所がアメニティーに積極的と思われがちでありますが、実際は有床診療所の53%が批判的でありました。また分娩数が減少した施設あるいは分娩を取り扱わない施設では反対意見が多くみられました。全体的に見るとアメニティーに関しては批判的であり、本質的な医療のサービスを充実すべきとの意見が強いという結果でありました。
国公立病院など機構上アメニティには力を注げない施設では「アメニティにも努力したいが残念ながらできない。医療サービスを充実したい」という意見が多く見られました。病院の規模を持っている施設、特に単科の病院ではアメニティにも熱心で、「一生に数回の出産を楽しく快適な環境で思い出深いものに」などの意見がみられました。年齢的には若い開業したての医師に積極的な姿勢がみられ、高齢になるに従ってアメニティーに走る事への批判が強いようであります。「最近のお祝い膳だ、おみやげだという風潮は間違っている」、「本当の患者サービスとは食事やカーテンでなく、心のこもった医療と妊娠中から産褥にかけての母乳・育児を含めた指導を充実することだ」との意見も多くみられました。
高度の医療を行う施設は別として、小規模病院・有床診療所としては「超音波など診断技術のレベルアップで妊婦の危険性を早く察知して対処すること、あらゆる指導を充実すること、見せかけの物品ではなく心のこもったケアをすること」が本当のサービスと考えて努力することが大切ではないでしょうか?
産科サービスには「安全」(医療サービス)、「アメニティ」に加えて、「心のこもったケア-母と子の繋がり-」があるという考えがあります。多くの妊婦さんが、「安全」や「アメニティ」と同様に「母と子の繋がり」を求めているといわれます。「医療サービス」や「アメニティ」より「心のこもったケア」を求めて助産院での分娩を希望する方もあります。患者サービスに関する限り、病院内・診療所内の助産院に徹するべきという考え方もあるようです。今後、周産期医療のネットワークとして、基幹病院・病院産科・有床診療所それぞれの特質を生かした診療体系が組まれるようになるでしょうが、いずれの施設においても産科のサービスとして「医療サービス・アメニティー・心のこもったケア」の3要素を充実することが重要と思われます。特に今回の調査で医療サービスやアメニティについて力不足と感じられた小規模施設において「心のこもったケア」の充実が今後の課題ではないかと思われます。