平成14年8月12日放送
日本産婦人科医会新入医局員の動向に関するアンケート調査結果より
日本産婦人科医会幹事 神谷 直樹
日本産婦人科医会幹事の神谷です。本日は日本産婦人科医会勤務医部で作成したしました「産婦人科新入医局員の動向に関するアンケート調査結果」を紹介させていただきます。
近年、我々産婦人科医を取り巻く環境が大きく変化しております。出生数の減少と高齢女性の急速な増加から医療・医業の内容変化を示しております。すなわち分娩を主体とした開業、産科異常と婦人科手術を主体とした病院という枠組から、開業では不妊専門施設や更年期女性を対照とするビル診療所等専門性を標榜するようになり、病院では周産期・不妊・腫瘍等の専門分野を主体とするものと一般産婦人科診療に加え専門分野を一つ二つ持つというものに分化しています。大学附属病院は学生・研修医の教育の場として全分野を網羅した研究・診療がなされていることが理想ですが、医局員数定数化等の煽りを受け、ままならないのが現状です。これらの変化は社会のニーズに合わせるように変化してきましたが、もう一つの大きな変化は社会経済の停滞から来るデフレ傾向、結果的に一般社会における価格破壊のみならず医療費削減です。医療経営を考えれば医療・医業の内容変化は当然の成り行きです。
勤務医におきましても専門化がより顕著に進行しております。専門化が進めばより多くの医師数を必要とすることになります。時代の趨勢を把握すれば、産婦人科は他科に比してより充実を求められている科であることは理解できますが、残念ながら学生・研修医に伝わらず新入局者の増加に繋がっていません。日本産婦人科医会では日母の時代から新入医局員の増加に繋がる方策を調査し提言してまいりました。今回、研修の「スーパーローテート」方式導入が間近かとなり入局希望者の動向に影響を及ぼす可能性があることより、受け入れ側の現状と意識を調査し対策方法を提言する目的でアンケート調査を実施いたしました。
調査対象は全国80大学の医局長と全国産婦人科研修指定病院の部長又は科長の先生といたしました。アンケート回収率は大学68.8%、研修指定病院46.1%でした。
アンケート結果
各大学医局長宛アンケート結果
医局の現状についてですが、所属全医師数は41人から60人で大学勤務者は11人から30人が平均的です。この少ない人数の中で、ほぼ100%の大学が留学者を出しておりアクティブに活動されていることが想像されます。入局者の推移では、平成4年まで入局者の減少が見られましたが、平成5年には歯止めがかかり、その後僅かに上昇しております。歯止めの原動力は女性医師入局です。平成8年には100名を越し、平成11年には男性・女性の入局者数が逆転しています。又退局者数の動向ですが、年ごとの変動は少なくほぼ一割程度です。退局動向で問題と思われる点は、入局一年目での退局が約二割を占め、開業を除けば約8割が「結婚や婦人科が合わない」ことを理由としているところです。このような状況ですから、医局運営を考える医局長の95%が医局員数の不足を認識しています。そして数を解決するためには年3〜5人の新入局者が必要と考えて「入局に向けての説明会」等を積極的に開催しているものの“3K”や“少産少子”等を理由に入局者の増加には悲観的意見を持っています。
大学における日本産婦人科医会への入会に関する調査では、「入会させる」と積極的なのは国公立で34.5%、私立は14.5%でした。他は自由意志にまかせるとしています。しかし9大学の医局長が「入会の必要なし」と明言しています。ブロック別では、北海道・東北・関東・近畿で正会員率が高く、東海は同率、北陸・中国・四国・九州で準会員が多いという状況です。
日本産婦人科医会と日本産科婦人科学会との関係を車の両輪と考えていない大学が少なからず存在することは注目に値します。特にこの傾向が強いのは西日本でした。
女性医師への対応ができていると回答した大学は46.3%で25大学でしたが、これからの日本産婦人科医会の活動に多大な期待が寄せられています。
以上が大学から戴いた概要です。
研修指定病院より戴いた結果
平成11年より産婦人科医会ホームページに「全国産婦人科研修指定病院案内」を掲載していますが、この周知度が26.5%と低く、利用されていないことが判明いたしました。従って随時、内容更新・修正がなされず、ますます利用価値が低下しています。現代の学生はIT世代でパソコンなしでは過ごせなく、情報収集は先ずネットからといえますので早急に検討しなければいけない項目の一つと認識いたします。しかしこの「全国産婦人科研修指定病院案内」は利用されていないとはいえ、49.6%の施設で、産婦人科の将来や魅力を症例検討会や食事会の折に語り、積極的に入局の勧誘をしていただいています。産婦人科医師減少を「知らない」と答えられた47.4%の先生方が認識を新たにし、行動していただければ大きな力となると信じます。産婦人科専攻の医師を増加させるための具体的方策としての意見は、勤務時間、報酬等の改善を筆頭に女性医師待遇の確立、医療事故の減少に繋がる高齢化・少子化を見据えた産婦人科医療の充実、研修内容の充実などがありました。本部勤務医部としては情報発信の不足を認識し、いただいた貴重な意見を今後の活動に生かしたいと思います。
平成16年から導入予定の「スーパーローテート」研修の認知度は80.8%であり、制度としては肯定的な意見が多い反面、スタッフ不足・設備不備・時間的余裕不足等の訴えが多く、現場での十分な研修に対応できるかどうか疑問としています。以前から研修指定病院は大学医局との繋がりが強く独自で研修医採用をされることは少なかったのですが、最近の傾向として医局とは別個に採用を検討する施設も増えております。ますます的確で新鮮な情報が必要になってまいります。
日本産婦人科医会に関する質問では、日産婦医会は開業医中心の組織で勤務医にはメリットがないとか会費の高い組織というイメージが強く、その為若手医師に入会を勧めないという現状が把握できました。そして勤務医部の活動について56.5%の方が理解を示していただきましたが、約40%の方が「知らない」と回答されました。その他少数ながら日本医師会や日本産科婦人科学会との係り方まで意見されている方もありました。
まとめ
日母、現日本産婦人科医会勤務医部では「産婦人科を目指す医師が少なくなっている」という危惧を平成6年頃より持ち調査を行ってきました。その結果現在では入局者総数の減少に歯止めがかかり微増に転じていることが分かり、その大きな要素は女性医師の入局増加であり、平成11年には男性医師入局者数を上回っていることが分かりました。男性医師入局者数もわずかに増加しておりますが、医局長、研修指定病院へのアンケート結果から分かるように数的充足には程遠い状態です。結婚や産婦人科が合わないことを理由に退局される方が多いことに加え、さらにスーパーローテートという研修制度の変更を間近かに控えた現在では、一人でも多くの産婦人科医に現状を認識していただき、個人として・組織として行動しなければならないと考えます。産婦人科学の学問としての魅力そして産婦人科医療・医業としての使命という基本的な問題にまで立ち返り、若手医師・学生に訴える必要があると判断いたします。改革途中の医療制度・IT社会における、日本産婦人科医会の使命の一つは「産婦人科学・産婦人科医療に関する“正しい情報の速やかな提供”を如何にするか」であり、個々の産婦人科医においては学生・研修医に“魅力ある産婦人科医療の未来”を「やさしく・明るく・希望を持って」語りかけることが重要と思われます。
最後に貴重な意見や提言をいただいた先生方に感謝申し上げます。