平成14年11月18日放送
第104回 日本産科婦人科学会関東連合地方部会学術集会より
第104回日本産科婦人科学会関東連合地方部会総会ならびに学術集会会長
山梨大学医学部産婦人科 星 和彦
第104回日本産科婦人科学会関東連合地方部会総会ならびに学術集会を山梨地方部会の担当で、去る10月19日の土曜日と20日の日曜日2日間にわたり甲府の APIO 甲府で開催させていただきました。700人を越える会員のご出席をいただき滞りなく終了させていただきましたことは、日本産婦人科医会ならびに日本産科婦人科学会関東連合地方部会の先生方の絶大なるご協力のおかげと、この場をおかりいたしまして心より御礼申し上げます。
最近では、学会のあり方もどんどん改革され、どの医学会でも一般演題はポスターによる形式が主流になって参りました。ポスター発表にはポスターの大きなメリットがあることは十分承知しておりますが、関東連合地方部会が若い先生方の学会発表の登竜門の一つ、すなわちデビューの学術講演会であるということを考え、私自身が初めて発表したときの緊張感を思いだし、オーラルで発表していただくのが大きな経験になるのではないかと考え、あえて時流に逆らい一般演題を全てオーラルの講演にさせていただきました。一般演題は193題という沢山のご応募をいただき、全ての会場を拝見させていただきましたが、いずれの会場も熱気あふれる活発なディスカッションが展開されており、ほっとすると同時に感動させていただきました。座長の先生方はいずれも多忙を極める方々でしたが、鋭い質問と暖かいアドバイス、ご配慮を賜り本当に感謝しております。
招請講演、特別講演、教育講演には各界の権威3名をお招きして講演をお願いいたしました。お3人とも世界を駆けめぐる大変有名な、大変お忙しい先生方ですが、本学会の趣旨をご理解いただきご快諾を賜りましたことは望外の喜びでございました。
21世紀も2年目を迎え、産婦人科医療は益々進歩発展を続けております。しかし、飛躍的な医学・医療技術の進展の陰に取り残されてきた多くの問題点が前世紀から解決されないまま存続しており、さらにこれらの技術をこれからの医療に如何に活かしていくべきかについては明確な解答が出されているとは言い難いことも事実と存じます。そこで本学術講演会のテーマとして「21世紀の産婦人科医療の展望」を掲げ、3人の先生方にそれに沿うご講演をお願いいたしました。
招請講演は、ハワイ大学医学部解剖学・生殖生物学教室 柳町隆造教授の 「Reproductive Technology in the 21st Century」で、19日の夕方に順天堂大学木下教授の司会で始まりました。私事になりますが、約20年前、私は1年半ハワイ大学の柳町研究室に留学させていただき、生殖医学の基礎を教わりました。柳町先生は私の恩師になります。当時から生殖、特に精子の側からみた受精に関しては世界の第一人者でしたが、その後も ICSI の開発、世界で初めてのマウスでのクローンの成功など多くの世界的業績を挙げられております。約半世紀、先生が携わってこられた生殖生物学の進歩を先生の業績をふまえて振り返り、そして21世紀にはどのような技術が期待され、社会へ貢献できるのかについて熱くお話になられました。100年前を考えると現在の医学や生殖医学の進歩は当時の夢物語であったわけで、今われわれが到底無理と考えているような技術もおそらく日常的なものになっていくものと考えられます。また、進歩したと言われる生殖医療にしてもその成績はまだまだ満足できるものではないこと、不妊治療をしても子供さんに恵まれない患者さんが多数いることも忘れてはならないと話されました。そして最後に若い先生方への研究に対するアドバイスとして、(1) 人まねではなく創造性のある研究をすること、(2) 20年30年という将来を見据えた仕事をすること、(3) 他の人が手を付けていない研究をすること、(4) 医学関係だけでなく他の研究領域の方々と共同してあるいはアドバイスを受けて仕事をすること、という4つのコメントを示されました。これからの産婦人科医療を担っていく若い先生方には是非とも想像力を豊かにして未知の領域にチャレンジしていただきたいと思います。この領域に携わっている先生方は勿論、専門外の先生方も熱心に耳を傾けられ静かな興奮が会場全体を覆っていたのが印象的でした。
特別講演は、埼玉医科大学ゲノム医学研究センター 村松正實所長にお願いし、演題名は 「ゲノム全解明時代の医療」でした。司会は東京大学医学部産婦人科の武谷雄二教授にお願いいたしました。村松先生は、先ず現在進んでいるヒトゲノム計画の概要に触れられ、来年4月までにヒトのゲノムは全て解読される見通しであることを述べられました。これにより、今まで伺い知ることの出来なかった多くの知見が明らかになりますが、その機能が本当に明らかになるのにはさらに10年以上かかるだろうとのことでした。疾病あるいは疾患の成り立ちは想像以上に複雑であり、ゲノムが解明されたからといってわれわれの人生が全て判明するのではないということ、しかし、ゲノムの解読は病気の原因をさらに解明していく手段として重要性を帯びていき、ゲノムの研究は「疾患」の概念を変えることになるかも知れないとお話になりました。さらに先生は、ゲノム的観点から行った研究によって明らかになった、エストロゲン受容体の標的遺伝子の一つ EFP の作用機序と乳癌との関係について触れられ、最新のデータをお示しになりました。婦人科腫瘍との関連性も示唆され極めて興味深いお話でした。
教育講演は、国立成育医療センター特殊診療部 千葉敏雄部長にお願いし、 「これからの周産期医療における胎児外科治療の役割」という演題を、国際医療福祉病院の佐藤郁夫院長の司会でお話しいただきました。きれいなスライドとビデオにより、鮮明な画像を通した講演で会場の誰もが目と見張っておりました。私自身、出生前の胎児外科治療はまだまだ実験的要素の強いものとの認識でしたが、欧米では既に相当数の治療がなされており、実績も着実に積み重ねられているとのことでした。千葉先生と千葉先生に続く若い周産期医の活躍により不幸な児の出生前治療が可能になり、福音が与えられるようになるであろうことが実感されるすばらしいお話でした。
総会は学術講演が全て終了した20日の午後に開催されました。次次次期会長と開催場所が採決され、会長には慈恵会医科大学産婦人科の田中忠夫教授が選ばれ開催場所は東京と決定いたしました。これにより第105回の本会は東京女子医科大学産婦人科の太田教授の会長のもと東京で、第106回は浜松医科大学産婦人科の金山教授の会長のもと静岡で、第107回は慈恵会医科大学産婦人科の田中教授で東京ということになります。また会員から、平成16年からスタートするスーパーローテートにより研修医は全て産婦人科を研修することになりますが、その場合産婦人科医を目指さない研修医すなわち会員にならない医師でも関東連合地方部会の学術集会に参加できるような措置が必要ではないかとのご意見があり、日本産科婦人科学会にもこの問題を提起し共同して前向きに検討していくこととなりました。
初日の夕方には懇親会を設営させていただきました。時節柄本当にシンプルな懇親会でしたが、山梨のワインメーカーの社長 塚原俊彦氏 にお越しいただき「日本のワイン」と題する楽しいお話をいただきました。塚原氏は世界ワインコンクールの終身審査員、国際ワイン酒質鑑定師であり、1998年にはボルドーワインアカデミーの客員会員に推挙され、翌年にはフランス共和国から国家功労勲章シュバリエ農事功労勲章を授与され、リュブリアナワインコンクール審査員特別賞を受賞するというわが国を代表する国際的なワイン専門家でございます。会場には沢山のワイン通の先生方がおられ、様々な質問が飛び交い楽しい笑い声とともに学術講演会に劣らない集会になりました。塚本氏のご厚意で沢山のワインを用意いたしましたが、自称ワイン通が急に増えたためか殆どのボトルが空になり関係者一同嬉しい悲鳴を上げておりました。皆様方のご協力に心より御礼申し上げます。
関東連合地方部会の会員数は日本産科婦人科学会全会員の1/4を占めるという大きな組織ではあります。しかし、山梨地方部会は総勢120名足らずの全国的にみても飛び抜けて小さな組織です。手作りの学会でしたので皆様にご満足いただけた会合になったかどうか大変心配しております。運営面でも反省すべきが点が多々ありました。ご不便をおかけいたしましたことをこの場をお借りいたしましてお詫び申し上げます。しかし、何とかこのように無事 総会・学術講演会を終えることが出来ましたのも会員の皆様方の暖かいご支援のたまものと感謝しております。心より御礼を申し上げまして、第104回日本産科婦人学会関東連合地方部会総会ならびに学術講演会の報告にさせていただきます。