平成15年5月5日放送
 平成15年度日本産婦人科医会事業計画
 社団法人日本産婦人科医会副会長 清川 尚


 平成15年度日本産婦人科医会の事業計画を申し上げます。去る3月の通常総会でご承認頂きました本年度事業計画につき、お話申し上げます。

 私どもの医会は【女性一生の健康支援】を目的として、母子保健事業を中心に事業推進を行っています。本日5月5日は「こどもの日」で、端午の節句と申して、お子様の健やかな成長を祈って、武者人形や『甍の波や雲の波』と童謡に歌われた鯉のぼりが空を泳いでいたものです。しかし、昨今近所では子どもの声が聞こえなくなってきています。少子化、核家族化、高齢社会の実態が肌で感じられます。今年の通常総会でも少子化対策をもっとしっかりやってほしいとの声がありました。当然ですが国の少子化対策もなかなか良いアイデアが出てきていません。私ども医会としても国の少子化対策委員会に役員を送り出し、或いは厚生科学研究の研究班として、るる議論をしているところです。

 小泉内閣の構造改革は構造不況が先走りしている感じです。世界に冠たる医療保険制度、すなわち日本国民はいつでも、どこでも同じ費用で同じ医療が受けられる国民医療制度がこのたびの第四次医療法改正で、急速な少子化、低迷する経済状況、医療技術の進歩、国民の意識の変化が医療を取り巻く環境の変化に連動し、医療制度を構成するすべてのシステムの大きな転換が必要となりました。

 すなわち改革が必要とされています。

まず、保険医療システムの改革、診療報酬体系の改革、医療保険制度の改革が、少子高齢社会に対応した医療制度の実現という基本方向が見えてきました。わが国の医療提供体制の現状は先ず、医療提供体制の効率化・重点化の不足が挙げられます。
 すなわち、
  ・病床数が多い
  ・医療従事者が少ない
  ・平均在院日数が長い
  ・機能分化が進んでいない

 2番目として競争が働きにくい医療提供体制が指摘されます。それは比較可能な客観的な情報の不足です。

 3番目として安心できる医療の確保です。
  ・医療安全
  ・さらには小児救急などの救急医療の確保

 4番目として情報基盤等の近代化の遅れです。すなわち
  ・IT化の遅れ
  ・標準化の遅れ
  ・医業経営の近代化
が叫ばれます。医療提供体制を欧米諸国と比較してみましても、病床数、医師の数、看護職員数、平均在院日数はかなりの開きがあります。

 しかし、国民皆保険、公的私的をミックスした医療提供体制が今日の「健康日本21」の礎になったことに間違いはありません。しかし医療・医学は日進月歩で法律、すなわち医療法も平成12年(2000年)には第四次医療法改正が行われ今日に至っております。即ち第四次改正では、病床区分の見直し、医療情報提供の推進、臨床研修の必修化に向けての医師法、歯科医師法の改正が行われました。

 私清川が副会長としてではなく、一産婦人科医として以前より危惧して申し上げていますことは、産婦人科を目指す若手医師の減少です。毎年医師国家試験に約8,000名が合格し、医師免許を取得しますが、学会の専門医試験を受験する産婦人科医師の数は300名〜350名です。つい数年前には277名の受験者しか居なく、大変びっくりしました。産婦人科専門医でも300名前後の若手産婦人科医の皆様は全部が周産期・あるいは産科学を専門とはせず、oncology, endocrinology、その他、の臨床医を目指します。そうしますと同年代の約100名の産科、周産期の専門医がいる計算です。100名が一番脂の乗った医師として活躍できるのは約10〜15年ですと、わが国は少子化とはいえ、昨年の出生数は約110万人です。流産死産も含めますと180〜190万にもなり、1,500〜2,000名の専門医だけでは対応が出来ない時代に突入しています。人口100万に一カ所の総合周産期母子医療センター構想が出来上がり、10数年の歳月が過ぎましたが、まだまだ不足です。また小児の救急に関しては、たらい回し等で不幸な結果の事例も発生しています。小児科医、産科・周産期医の増加にはまだまだ相当の年月とアイデアを要するように思います。日本産婦人科医会でもこの問題に関して、全力で取り組んでおります。

日本産婦人科医会の本年度の重点項目を含めた事業計画では、対外広報・渉外担当を設置し、従来にも増して対外広報・渉外を行います。さらに医療安全・紛争対策部では学会との連携で医事紛争にあたっては、鑑定人推薦委員会を設置し、すでに業務に入っています。また、刊行物に関しては共同発送を行い、経費削減を図っています。倫理に関する委員会としては、学会には倫理委員会と倫理審議会があり、産婦人科医会には法制・倫理委員会があります。倫理問題に関する学会・医会の役割分担について検討した結果、生命倫理なとの医学的倫理問題を扱う倫理委員会は、学会に一本化することとし、医会においては、会員倫理の向上に関する指導などを重視することとして、会員倫理委員会を設置することとしました。また従来の産科看護部はコ・メディカル対策部として、産婦人科コ・メディカルの現状調査、コ・メディカルのあり方の検討、勤務医部では女性医師の有する諸問題、日本産婦人科医会の会員の既に半数以上が勤務医であり、勤務医の待遇等を含めた今後の対応策、若手産婦人科医の増加対策も行います。社会保険部は先生方の医療の現場に直接影響を及ぼす診療報酬点数に鑑み、リーズナブルでしかもベネフィット、ローリスクハイリターンの点数要望を行います。平成16年度に診療報酬点数改定がありますので、産婦人科の要望を日本医師会を通じて提出しました。先ず、外来補助管理料の新設です。産婦人科の診察に際しては、必ず看護師などの立会いを必要としますので、チーム医療のためにも看護師などの診療補助行為を評価する外来補助管理料の新設を要望しました。また特定疾患療養指導料の適応疾患の拡大として卵巣機能不全、いわゆる更年期障害を要望します。処置料の改定要望、産科手術点数の改定、外陰・血腫除去術の点数新設、赤血球不規則抗体検査の算定できる婦人科疾患、例えば、婦人科悪性腫瘍手術、子宮筋腫手術にも適応を拡大してほしいという要望です。N S Tの外来での使用、卵管造影時の腔内注入手技料の点数アップ、静脈麻酔時の経皮的動脈血酸素飽和度測定の算定等を要望しております。女性保健部では、第26回性教育指導セミナーを本部主催で7月6日の日曜日に東京で開催します。従来のセミナーとは少し視点を変えて、参加した皆様が満足できるセミナーにする予定です。また、女性専門外来がマスコミも含めて取りざたされていますが、その実態はどうなのかを含めて、調査致します。「健やか親子21」では事業推進に指導的立場で国への意見もきちんと述べます。さらには助産所および自宅分娩に関する問題の検討も行います。がん対策部ではマンモグラム読影に関する研修会も引き続き開催致します。献金担当連絡室では、日母おぎゃー献金基金財団との連携を密にし、おぎゃー献金40周年の記念事業に協力する計画です。

 3月23日の第55回日本産婦人科医会通常総会で坂元会長が再任され、会長挨拶として、Show the Flag をモットーに、大いなるイメージチェンジをもって活力化に取り組んで行きたい。特に学会との共同作業は1つの大きな変革のチャンスである。われわれの科の魅力を若い人たちに与えようではないか。また、若手の台頭を促すことが事業計画に盛られている。ここを読み取って頂きたい。できることをじっくり考え、そして決心したならば、やり遂げる覚悟こそ大事である。真理は一つ。われわれは全会員を支えなければならない。会員のための公僕であれ と述べられました。まさしくその通りです。役員一同は常に会員の先生方と同じ目線でこの究極の時代を乗り切る覚悟ですので、先生方のなお一層のこ理解、ご尽力をお願い申し上げます。