平成15年7月28日放送
 第26回日本産婦人科医会性教育指導セミナーより 
 日本産婦人科医会常務理事 田邊 清男

 日本産婦人科医会会員の皆様、今晩は。
 私は産婦人科医会女性保健部を担当致しております田邊でございます。本日は、去る7月6日日曜日に開催されました、第26回日本産婦人科医会性教育指導セミナーに付きましてご報告申し上げます。

 第26回性教育指導セミナーは一般会員117名と私ども役員25名、及び分科会の模擬聴講生とその父母62名、計204名が参加して、全共連ビルにおきまして開催されました。
性教育指導セミナーは、従来は支部にご担当頂き、担当支部がそれぞれ工夫を凝らして、特徴あるセミナーを開催して下さいました。しかしながら、今年はどこの支部も立候補されませんでしたので、本部主催で行うことに致しました。

 今回のセミナーの内容ですが、最近いろいろな学会が性教育に関する講習会を開催し、それに参加するとあたかも性教育を行う資格が与えられるかのようなうたい文句で参加者を募っています。また、会員より性教育の実際を教えて欲しいという要望も医会本部へ届いております。そこで、まだ性教育を一度も行ったことがない初心者の先生も今回のセミナーを受講すれば何とか性教育を行えるようになり、さらに性教育を今まで何回も実施しているが、自分の行っている性教育が果たしてそれでいいのか心配だというベテランの先生もスキルアップが出来るよう、幅広い先生を対象とすることに致しました。ただ、性教育は行う先生によって千差万別であり、「これが性教育」というものはないと聞いております。しかしながら、今回のセミナーにより医会としてある程度の方向性を出せればと考えました。

 以上のような理由から、今回はメインテーマを「指導者のスキルアップをめざして」とし、小学校低学年、小学校高学年、中学生、高校生、それに父母の5つの分科会を設定し、聴講生に会場へ実際に来て頂いて、聴講生の前で会員の代表にそれぞれの年齢に合った性教育を実際に行って頂くことに致しました。そして、座長の司会進行にしたがって討論して頂き、参加者もまた性教育を実際に行って頂いた演者にも、性教育のスキルアップを図って頂ければと考えました。
 なお、午前中は特別講演と致しまして、フリージャーナリストの宮 淑子さんから、「メディアと性」というタイトルでご講演頂くことにしました。昨今マスコミが我々産婦人科医の診療の現場から見た若者の性に対する考えとかけ離れた意見を一方的に載せるような印象を受けています。性交の低年齢化、それに伴う若者の人工妊娠中絶と性感染症の増加には目を覆いたくなりますが、このような現状を打破するには、冷静にそして現実を踏まえた、きちんとした性教育を行う以外にはないと私は考えております。そこで、マスコミは性をどう捕らえ、性教育をどの方向に持っていきたいと考えているのか等について、お聞きすることに致しました。

 当日のセミナーは朝10時から始まりました。まず佐々木繁医会副会長から開会のご挨拶があり、次いで同じく佐々木副会長より、会長挨拶の代読がございました。その一部をご紹介致しますと、「性教育の基本は、命を大切にすることから始まります。生命を育む自然の摂理を理解し、自尊心を養い、真に自分を大切にできれば、他人の命を大切にし、弱いものに思いやりを与えることができます。それでこそ、カップルの間は無論、小さい子どもたち、障害者、お年寄りにやさしい社会がつくられていくと信じます。」と述べておられます。
 次に実行委員長として本セミナーを準備させて頂きました私より、先程述べましたような本セミナー開催の趣旨や経緯と、女性保健部の仕事等に付きまして、縷々説明させて頂きました。
 次いで、佐々木繁副会長の座長の下で、フリージャーナリストの宮 淑子さんより、「メディアと性」と題した特別講演がありました。宮さんからは、「新聞にしろ雑誌にしろ、すべて『オジサン本位体制』で作られている。これらの記者はすべて男性で、家には妻という専業主婦がいる。彼らは日常の生活にはうとく、生活を巡るリアリティーがほとんどない上、ジェンダーバイアスがかかっている。男性誌はまだ「飲む、打つ、買う」が主であり、女性誌は「硬派ネタにはうとくてよい」という程度である。また最近はジェンダー・フリーバッシングと性教育バッシングが起き始めており、女性がセックスの『性』と生命の『生』への自己決定権を持つことへの反発があるのではないか」、といった内容のお話がございました。

 次に昼食の後、ランチョンセミナーとして、医会女性保健委員会委員の秋元義弘先生から、女性保健部が昨年作成致しました「性教育講演用スライド」の説明と活用法の一端を示して頂きました。なお、このスライドはCD-ROMと共に各都道府県支部へ配布されております。会員の先生方はご自分の図表等を追加したりして性教育講演に自由に使用可能ですので、所属する支部へお問い合わせ下さい。

 休憩の後、参加された先生方には5つの分科会に分かれて頂き、性教育の実際を見学して頂きました。
 小学校低学年編は青森労災病院の片桐清一先生の司会の下、ペリネイト母と子のサテライトクリニックの上村茂仁先生が子ども達を前にして、男女の身体の違い、赤ちゃんはどこから生まれてくるか、命の大切さなどについて、身振り手振りの講演で、子ども達も飽きずに聞いていました。
 小学校高学年編は愛媛県立医療技術短大北川博之先生の司会の下で、西口クリニック野口まゆみ先生が、「ときめき探検隊」と称して、子どもはどこから生まれてくるか、精子と卵子の話、受精、着床、分娩といった一連の出来事を話され、子ども達は選ばれて生まれてきた大切な子ども、なども話されました。
中学生編は尾澤彰宣先生の司会の下で、弘前レディースクリニックはすお蓮尾 豊先生の講演で、性教育の意義、月経や妊娠のしくみと分娩の実際、思春期の子ども達の性感染症や人工妊娠中絶の現状、避妊、さらには子宮頸部細胞診の異常が発見される子どもも多い、などのお話しがありました。
高校生編では、東邦大学医療短期大学の木村好秀先生の司会の下、国立米子病院の藤井亜希子先生の講演で、妊娠・分娩のメカニズム、若者の性の実態、人工妊娠中絶と性感染症、避妊の方法、特にOCについてお話がありました。
父母編では東クリニック東 哲徳先生の司会の下、安藤ゆきこレディースクリニックの安藤由紀子先生の講演で、望まない妊娠とSTD,さらに親子関係などについてもお話がありました。

 それぞれの先生からご講演を頂いたあと、まず聴講生から質問や意見を聞き、次いで参加された先生から実際に行われた性教育に関して、ご意見を頂戴致しました。
その後は大会議室へ再度移動して頂き、全員で討論致しました。座長には女性保健委員会の委員長古賀詔子先生と、同じく委員で、今回のセミナーの実行副委員長の北村邦夫先生にお願い致しました。まず小学校低学年編ではどのような講演があり、どのような議論があったかを、女性保健部担当幹事の安達知子先生から報告して頂き、次いで座長の司会進行の下、出席した子どもや講演された演者、さらに分科会の司会の先生から感想や意見を頂き、その後参加された会場の先生からご意見を頂戴致しました。小学校高学年編は同じく幹事の清水康史先生から、中学生編は女性保健委員会委員の野崎雅裕先生から、高校生編は同じく委員の相良洋子先生から、父母編は幹事の赤松達也先生から、それぞれまとめを報告して頂き、その後同様に聴講生や演者・座長、参加された先生方からご意見を頂きました。最後に座長から本日の分科会の総まとめをして頂き、午後4時に分科会は終了致しました。

 その後、秋田県支部の村田純治支部長より、次年度の本性教育指導セミナーについてお話頂き、最後に産婦人科医会理事の成田 収先生から閉会のご挨拶を頂きまして、6時間に渡ったセミナーも無事終了致しました。

 ところで、医会本部では、学校等における産婦人科医による性教育の実施を働きかけて参りました。その甲斐があったせいか、昨年より日本医師会に学校保健委員会が設置され、そこでは、今年から文部科学省と日本医師会の補助により、全国8つのブロックからモデル地区を選び、学校における性教育を産婦人科医が行うことに決まっております。もし選ばれた際は、先生方には地区の医会をまとめて頂き、率先して学校における性教育を実施して頂きたいと存じます。もしそのモデル地区で失敗致しますと、今後我々産婦人科医は学校等における性教育に参加できなくなる可能性が高いので、宜しくお願い申し上げます。

 最後に、日本全国から朝早くより参加され、熱心にご討議頂きました先生方に感謝致します。また、本セミナーが無事に開催できましたのも、女性保健委員会の北村邦夫先生を始めとする諸先生方、並びに川端伸和氏を始めとする産婦人科医会事務局の皆様のご尽力によるものです。この場をお借りして、深甚なる謝意を表します。