平成15年9月8日放送
  開業女性医師および患者の意識アンケート調査より
  前日本産婦人科医会医療対策委員会委員 森田 良子

 女性の社会進出に伴って、女性医師も年々増加しております。 医師全体ではおよそ15%が女性ですが、若い年代ほどその割合は高く、20代では30%を占めています。 平成10年以降、医師国家試験の合格者のうち3割が女性であり、医学部学生の男女比も半々に近づいていることから、女性医師数は今後さらに増加し、その役割も大きくなっていく事と思われます。日本産婦人科医会では、施設開設者のおよそ一割が女性で、過去10年間に大きな変化はみられていませんが、勤務医では2割が女性ですので、一般の傾向に従って、今後女性開設者の割合も増加していくでしょう。過去のいくつかのアンケート調査によると、卒業後15年から20年で開業する例が多いことから、今後4〜5年で女性開設者が顕著に増加するものと思われます。

 さて、産婦人科が他の診療科と異なる点は、当然の事ながら、患者さんのほとんど全てが女性であることでしょう。このため、患者さんの受診行動が医師の性別によって影響される可能性が高いと推測されます。また、医師側においても、医師自身が女性であることが、患者さんに対する態度や、日常診療の面で影響してくることがあると考えられます。  今回は開業女性医師を対象に、自分自身と来院した患者さんたちの意識をアンケート調査し、今後の診療に役立てられる点がないかを検討しました。対象は226施設、回答数118件、回収率は52.2%でした。

 女性医師の年齢は40代、50代がそれぞれ3割、40歳未満と60歳以上が2割弱でした。 施設の女性医師は自分一人であるのが85%、またほかに男性医師がいるのが約半数でした。分娩を取り扱っている施設は3分の1、体外受精を行っている施設は4%で、比較的小規模な施設が多いようです。
患者さんの意識調査は、本来は患者本人に訊くべきものですが、今回は医師から見た患者像という形で回答していただきました。25歳未満の若いグループ、40歳未満までの妊娠、出産を考慮する年代、55歳未満の更年期までの世代、閉経後のグループ、とおおまかに分けてあります。

 患者側は、何を期待し、要求しているのでしょうか? まず、きっかけとして、患者さんはどのような情報をもとに受診したのか、

  1. くちこみ
  2. インターネット
  3. 雑誌、本をみて
  4. 施設の広告をみて
  5. 他科医師の紹介

 のうち複数回答して貰いました。どの年代もいわゆる「くちこみ」が最も多く、過半数を占めます。25歳未満の若い年代ではインターネットの情報によるのが20%を超え、医療情報へのアプローチの変化がうかがわれます。多くの医療施設がホームページを作成していますし、健康関連のさまざまなサイトでも、産婦人科施設の紹介が見られますので、携帯電話を含めて、インターネット情報の利用がさらに加速すると思われます。ほかの診療科からの紹介によるものは、年齢層が上がるにつれて増加し、閉経後は25%をこえています。閉経したら子宮ガンの検査は必要ないと思っていたり、下腹部にしこりや違和感があっても、婦人科的な病気を疑わないなど、高齢になるほど、婦人科への受診が後回しになるようです。

 あらかじめ女性医師が診療にあたることを確認してから受診した、あるいは女性医師でなければ受診しなかった患者さんは半数以上にのぼり、特に若い年代ほどその傾向が強くみられます。女性医師でなければ受診しなかった理由のうち最も多いのは、恥かしいから、で、どの年代でも20%から30%に達します。25歳未満では、性交経験がないため、あるいは未婚であるため、も同じように大きな要因です。その他のグループでは、よそでは精神的な苦痛を理解して貰えなかったから、が大きな理由でしたし、身体的な苦痛を理解して貰えなかったから、がそれに続きます。共通して挙げられたのは、前にかかった医師には話を十分聞いて貰えなかったから、という点でした。これは、いわゆるセカンドオピニオンを求めて受診したというよりは、総合病院などでは患者さんの訴えを十分に取り上げてもらえなかったことや、医師側の説明が短い時間で簡単に終ってしまい、患者さんには十分理解できないままであることが、受診の動機の大きな要素になっていることといえます。

 以前に男性医師の診察を受けた経験のある患者さんが、どういう点を不満に感じて男性医師を避けたかという設問では、やはり、恥かしかったから、が20%前後に挙げられているので、初診はできれば女性医師に診てもらいたいというのは、致し方ないといえます。この点は男性医師にはやや不利な部分ですが、診察の時のこころつかい、たとえば落ち着いて身支度をするスペースを設ける、診察台への誘導や声をかけるなどを、介助者に指示したりして、患者さんの抵抗感をやわらげる工夫をしていけば、克服できるものでしょう。これは女性医師であっても同じことがいえます。男性医師に対しては各年代に共通して、性交のトラブルを相談できなかった、が続き、40歳未満では、次いで、診察が乱暴だった、40歳以降では、歳だから仕方ないと言われた、などが挙げられます。総じて、心と体の不調を訴えても理解してもらえない、という印象を持ちやすいようですので、医師の側にいま少し心配りがあれば、患者離れをふせげるといえます。

 女性医師の意識として、日常診療中に自分自身が女性である事がメリットだと感じられる点を聞いたところ、患者さんの訴えを具体的に理解できる、羞恥心がより少なくてすむと思われる、患者さんが安心してリラックスしてくれる、が、それぞれ40%を超え、さらに女性医師というだけで受診する人が多い、自分の体験をもとに話をするので説得力がある、と続き、患者さんに支持されている様子がうかがわれます。 女性であることがデメリットだと感じられる点は、特に無いという回答が3分の1ですが、一方で体力的なハンデを感じる、が18%、同性であるため患者さんから過大な期待を抱かれる、あるいはむしろ厳しく対応してしまう、が10%前後にみられます。
 診療内容に直接関係することではありませんが、家庭生活や、自分自身の妊娠、出産、育児に関する問題は大きいものです。少子化対策として様々な制度が打ち出されてはいるものの、現実には産休をとるのもままならないことも珍しくありません。 働く女性全体に共通することですが、経済状況の厳しい今、代わりの医師の補充が困難で、経費の余裕がないのは、医療現場では一層深刻な事態です。開業女性医師のなかには、家庭生活と仕事の両立には開業が適しているという意見もありますが、逆にキャリア形成の妨げになるという意見や、不本意ながら開業に至った例もあるようです。 妊娠、出産、育児中の労働環境の改善と、支援体制の整備が望まれます。もちろん、女性だけの問題ではなく、パートナーとして、父親としての男性の問題でもある筈です。

 最後に、これから開業を計画している女性医師、そして男性医師に対するアドバイスを自由に書いていただきました。 個人個人の状況によって、苦労しておられる事は様々ですが、共通していえることは、長い眼で見ると、結局一番重要なのは、医師の性別ではないということでした。すなわち、患者さんを思いやる心と人間性、十分な知識と技術に基いた説明と診療、お互いの信頼関係を築くことが、もっとも大切であると述べておられます。 女性の健康をまもる専門家として、いかに心のこもった医療サービスが提供できるか、を追求していくのが、わたくし達の努めであると考えます。