平成15年10月6日放送
ブロックだより−関東−
日本産婦人科医会関東ブロック会会長 小林 重高
日本産婦人科医会関東ブロック会会長の小林でございます。
関東ブロック会は、東京、栃木、茨城、群馬、埼玉、千葉、神奈川、山梨、長野、静岡の一都九県の支部で構成されており、総会員数は4,010名と全国で一番多いブロックです。
私どもは、支部長会、役員会、幹事会を持ち、ほかに広報委員会、社保委員会、周産期救急医療実態調査委員会を設置し、必要に応じ委員会を開き協議を行っています。また、各支部の持ち回りで、毎年9月に関東ブロック協議会、11月に関東ブロック社保協議会を開催、さらに年1回の関東ブロック会報を発行し支部相互の情報交換とともに緊密な連携を計っています。本日は最近の関東ブロック会の動きについてお話します。
まず、周産期救急医療問題ですが、母児の健康は我々産婦人科医の願いです。母児の救命・健康保持のため周産期医療を扱う医療機関を機能役割に応じて、一次二次三次医療機関に分け、これらの医療機関の協力と連携の強化により地域の特性に応じた周産期医療システムを構築することが重要であることは言うまでもありません。
三次医療機関に相当する「総合周産期母子センター」は現在(平成14年度)全国31ヶ所に設置されています。救急医療は行政圏を越えた広域的対応が要求されているにも関わらず、地域、特に県境においては母体搬送が円滑に行われていないところもあります。
そこで関東ブロック会では、行政の垣根を越えた母体搬送の実態を把握し、より良いシステムのあり方について検討を行っています。平成13年度神奈川県担当関東ブロック協議会の「病診連携」の中でも取り上げていますが、最近の調査委員会報告からの関東医療圏における救急時母体搬送の実態について説明します。東京都を除いた平成10-11年の2年間に救急車で搬送された妊婦の総数は11,376件で、そのうち自宅から医療機関への「自宅搬送」は5,086件、また医療機関から医療機関への「転院搬送」は6,290件でした。これらを分析し、まとめてみると、県外への搬送率の高い県は千葉県(12.5%)、埼玉県(12.2%)、茨城県(6.9%)であり、県外への搬送率の低い県は長野県(0.3%)次いで静岡県(0.8%)、栃木県(1.5%)でした。母体搬送理由では、切迫早産(30%)、PROM(16%)で全体の約半数を占めており、次いで妊娠中毒症(8%)、切迫早産(6%)、子宮外妊娠(6%)、胎児仮死(4%)、前置胎盤(4%)となっています。
前に述べました行政の垣根を越えた母体搬送のメリットについては以下の点が考えられます。
・ 緊急に対応でき、短時間の搬送が可能になり、母児ともに予後がよい
・ 家族の付添・見舞いなど便利であり住民へのサービスが図れる
・ 医師も搬送時間が短縮されれば、自院を離れ医療を中断する時間が短縮される
・ 行政が周産期救急病院を整備する経済的負担が緩和される
次に委託事業の小規模事業所母性健康管理電話相談事業についてです。平成13年度は関東ブロック会全体で相談件数104件でした。全国224件中の46%です。また、平成14年度は相談件数118件で全国の約半数を受けています。中でも東京都支部は平成13年度74件、平成14年度61件と非常に相談の多いところですが、これは大都市で人口が多いためと、本事業開始時に新聞紙上に大きく取り上げられたというPR効果と考えます。
相談される方はご本人がもっとも多く、ご家族の方、雇用主、学校養護教諭、保健所、マスコミ関係の方々でした。
相談内容は、妊娠に関連の喫煙、産前産後を含む就労、血液型不適合、妊娠と花粉症、風疹の予防注射、がん検診、医療機関の紹介、赤ちゃんの誤飲、乳児の外来、障害者の高齢出産、不妊について、避妊、職場の環境改善、母性健康連絡カードについて、セクハラ、家庭内暴力、医療機関への苦情等、「医療なんでも相談」のようですが、お助け窓口になればと考え対応を計っております。
東京都では相談件数が多いこと、内容によっては数十分の時間がかかること等を考慮して「コーディネーター」2名と大学勤務医1名を含む5名の相談医を常設し、この事業を通じ都民への「サービス」を計っています。
なお、他県からの相談については、なるべく居住地の相談支部の相談電話をお知らせするようにしております。
最近の話題に触れてみますと、近年、医療にまつわる不祥事が毎日のように取り上げられ、国民の医療に対する不信感が増しており、我々医療の現場にいる者はどのように対応するか模索しているところです。平成14年12月厚生労働省の諮問機関である医道審議会で「医師及び歯科医師に対する行政処分」について基本的考え方が示されました。その中には現在までの処分対象以外に交通事故犯、診療報酬の不正請求等も重い処分をすると記載されており、特に明らかな過失による医療過誤・繰り返し行われた過失いわゆる「リピーター」についても言及されています。これをもとに平成15年7月、医師29名、歯科医師9名がより重い業務停止処分を含む答申が出されました。これらの問題について、9月の埼玉県担当の関東ブロック協議会で「産婦人科医事紛争への各都県の取り組み」をメインテーマとして予防対策、紛争処理、調停、訴訟への対応について検討が行われました。時間の関係で、医療事故の予防対策についてまとめてみますと、講習会の開催、事故統計の分析を行い予防策の検討、ヒヤリ・ハット事例の報告、委員会の設置等、調査・報告・指導・啓発が各支部で実施されています。医療事故が起きたときは勿論のこと、ヒヤリ・ハットがあった場合にも事例の的確な判断と適正な処置並びに医療と看護の面よりの謙虚な反省が必要です。我々医師は、常に完全な医療を目指しておりますが、それでも避けられない事故が起こることは否定できません。医療事故は決してあってはならないことですが、患者様の立場に充分配慮するとともに事故の真相について医学的にも環境や地域的な状況を考慮し、総合的公正な審判が行われるような鑑定制度の確立が医療事故の防止と関係者の救済につながるものと考えています。
以前、私が日本産婦人科医会支部長会で提唱しました公的「胎児医療保険」について、最近、支部役員と選出国会議員の間で話題になったと聞いています。新しく誕生した小泉内閣は、平成19年に郵政事業民営化を実施するという構造改革を打ち出しています。医療の構造改革は経済に基づくものだけでなく、将来の日本、特に人口問題をも見据えて考える必要があると思います。したがって、従来の医療保険とともに「在胎児における児の医療」を手厚くし、新しい視点に立った公的「胎児医療保険」の新設をすることでより安心して、分娩に備え、少子少産の「歯止め」の一助になるよう望んで止みません。
最後になりますが、日本産婦人科医会学術集会は本年度10月12日四国ブロック会の徳島県支部担当で開催されます。来年度は関東ブロック会千葉県支部担当で10月9日と10日に千葉幕張プリンスホテルで開催する準備を進めています。『黒潮おどる房総に集いて計る』がテーマです。ご家族には、東京ディズニーランドでの楽しい一日をご用意し、北原千葉県支部長を始め関係役員一同でお待ちしております とのメッセージで終わらせていただきます。