平成15年11月24日放送
  第12回日本婦人科がん検診学会より−最近の話題
  社団法人日本産婦人科医会常務理事 永井 宏
 

 第12回日本婦人科がん検診学会学術集会が平成15年11月8日、産業医大柏村正道教授によってサンケイプラザ4階ホールで開催された。
 柏村先生は本年度より日本産婦人科医会がん対策委員会の委員長でもあり、現在の婦人科がん検診の抱える問題点を網羅した学会となった。
 この学会の前身は婦人科集団検診シンポジウムであり、婦人科集団検診に関係している医師をはじめ多くの細胞検査士、行政担当者の参加があった学会であるが、老人保健法以来各検診学会が胃がん検診学会など臓器別に持たれるようになり、婦人科がんに関しても、発展的に婦人科がん検診学会として行われるようになった。

 日本産婦人科医会のがん対策連絡会が日曜日に持たれる事もあり、前日に行われる学会には、『多くの医会支部がん対策担当者』の先生方の参加が見られるのが通例だったが、本年はがん対策連絡会が行われなかったために、医会関係者の姿が少なかったのが残念であった。
 しかし、学会は各大学を基盤とする多くの若い先生方の参加を見、例年規模の参加者数で盛会であった。学術集会プログラムは特別講演として東北大学乳腺外科の大内憲明先生による“マンモグラフィによる乳がん検診”、教育講演に我が国で最も系統的に子宮体がんの研究を行っている立場から北里大学産婦人科上坊助教授による“子宮体がん検診”、また、シンポジウムとして子宮がん検診の若年層への拡大の一端としての“妊娠中の子宮頸がん検診”が取り上げられた。

 一般演題の中には精度管理として細胞診の精度とともに重要視されている精検受診率の問題や子宮がん検診における頚膣超音波の意義、加えて卵巣がん検診、内膜細胞診等、現在婦人科検診で問題になっているものが網羅された。

 大内憲明教授によるマンモグラフィによる乳がん検診の特別講演であるが、大内教授は現在の50歳以下のマンモグラフィ併用検診のガイドラインの作成の責任者であり、また、これからの乳がん検診の体制の班研究の委員長であるという事から、現在問題点が指摘され大きな曲がり角にきている乳がん検診に対して、もっともふさわしいテーマの選択であり、演者であった。講演の要旨は、第2次老人保健法において視触診で始まった乳がん検診が、その後の調査により5年生存率に差があるものの10年生存率は「外来発見がんと検診発見がん」の間に有効な差が認められなかった事から乳がん検診方法の手法見直しの研究が始まり、50歳以上の受診者に対するマンモグラフィの導入、すなわち併用検診が行われるに至った経緯が各地での検診成績のEBMと諸外国の成績も加えて詳細に解説された。
さらに、諸外国との比較において、我が国においては乳がんの罹患率、死亡率のピークが40歳代にきているという特徴があり、我が国の乳がん死亡率減少のためには、この年代におけるより精度の高い検診の必要性が示され、今後予想される検診の体制・方法については最新の班研究の結果を踏まえての講演が行われた。

 今後の乳がん検診で、我が国においては、最も成果を挙げるためには50歳以下に対しても画像診断の導入が必要であり、その画像診断としてはマンモグラフィに加えて40歳代の乳腺濃度の濃い症例に対しては超音波検査の導入の可能性も考えられると述べた。しかし、超音波はマンモグラフィを補うものではなく、視触診の精度を高めるものとの解釈をすべきものである。すなわち、マンモグラフィと視触診、またはマンモグラフィと超音波、またはマンモグラフィと超音波プラス視触診、というような組み合わせであり、超音波の導入はあくまでもマンモグラフィに代わるものではない、という点を強調された。現在、超音波の導入に対して最大の問題になっている事はその有効性が明らかに証明されていない事と、記録の保存性、また、マンモグラフィに見られるようなダブルチェックの問題点であるが、このような点がビデオ画像による診断方法の導入等により解決できるとの話とともに、超音波法の検査法の客観性、記録性が確保されれば、超音波が視触診に変わる可能性もあるとのお話があった。超音波診断の導入に関して多くの産婦人科医から要望があるが検診上の位置づけに関して認識の差に留意すべきであろう。
 また、乳がん死亡率の減少に向けては検診精度の向上とともに、受診率の向上を図るよう検診に関係する者一同に対する協力の要請があった。乳がん検診が大きな問題を提起されている昨今、この特別講演がもらたらす意味は非常に大きいものと思われた。

 教育講演において、北里大学上坊助教授によって行われた子宮体がんの講演は、日本における体がん症例の増加に対しての検診の問題点が指摘された。
 体がん検診は他の検診と異なり、対象が限定されている検診であるという特殊性もあり、検診の有用性に関し必ずしも高い評価を得られていない。新しい検診手法の有効性評価でも死亡率減少効果を示す十分な根拠があるといわれている「細胞診による子宮頚がん検診」に対し、体がん検診は明確な効果が示されていないとして評価は低い。しかし、上坊助教授により、限定検診が行われるに至った根拠と、この限定の対象に対する検診の効果が示され、現在の対象限定においての体がん検診の継続性の必要性が示唆された。また、近年、頚膣超音波などが細胞診に代わる検診手段として検討もされ、また、要望も高いが、今現在のところではどちらの方法も細胞診を凌駕する評価を得ておらず、やむをえない場合を除いて、まだ細胞診が検診の主たる手段となるであろうとの事であった。

 シンポジウムにおいては、妊娠中の子宮頸がん検診について組まれ、東北大学産婦人科岡村智香子先生、近畿大学婦人科小畑孝四郎先生、大阪大学産婦人科山口裕之先生、日赤長崎原爆病院産婦人科林田満能先生、産業医科大学産婦人科川越俊典先生、自治医科大学大宮医療センター婦人科今野良先生によって行われた。
 特に東北大岡村先生、自治医科大学今野先生よりは、妊娠中の子宮頸がん検診で発見される細胞診陽性率は0.6%〜1.6%と現行の30歳以上の検診と同等、またはそれ以上である事、また、妊婦を検診する事が、その後の集団検診が女性の生涯の子宮がん検診をカバーする事になるとも論ぜられた。妊婦に細胞診が行われた場合の特徴は、要精検率は妊婦の場合高く精査される例が多いが、発見されたがんは正確な検診で経過観察で消退例があり、すべてが妊娠中絶に至るものではない。そして妊娠を構成する年齢層から考慮して、妊婦検診が若年者に対する検診拡大の必要性を示唆する重要な情報を与えてくれるものという報告もあった。
近畿大学の小畑講師は、妊婦の細胞診の診断上の特徴をあげ、細胞診断がややアンダーダイアグノーシスに移りやすい傾向を指摘し、その診断の慎重性を擁する発言があった。その他の演者からは妊娠中に異常が発見されたときの処置につき、有益な示唆があった。

 一般演題の中で、注目されたのは、横浜市の子宮がん検診管理委員会の中山裕樹先生より大都市圏での施設検診における精検受診率が必ずしも高くないという事もあり、今後の検診方法、医師、受診者双方に対する検診の意識づけの重要性が示唆された。また、検診学会の理事会の席上でも問題になったが、現在の基となっている老人保健法が健康増進保険法の一環として組み込まれる日がそう遠くない可能性に対しての対策が論じられた。健康増進法に組み込まれるとがん検診は1/9のテーマとなり、がん検診における市町村の役割の強化とともに検診のオプション性が増す事も考えられ、今後地域ごとの検診のプランニングの重要性の発言もあった。

 朝9時より夕方の5時半まで、若干の昼休みをはさみ絶え間ない熱心な討論が続いた有益な学会であった。