平成15年12月15日放送
  社保一部改定にともなう産婦人科診療報酬動態
  社団法人日本産婦人科医会幹事 渡辺 明彦

 本日は社保一部改定にともなう産婦人科診療報酬動態についてお話させていただきます。平成15年度の改定の主なものは被用者保険本人の3割負担への引き上げ、再診料の月内逓減制の撤廃などの変更の他、特定機能病院で医療機関別のDPCが導入されたことなどが挙げられます。

 これらの改定の影響を述べる前に、平成14年度の改定が及ぼした影響について検証したいと思います。平成14年4月の診療報酬改定は皆保険制度開始以来はじめての2.7%マイナス改定で、医療機関の経営に大きな影響が与えられました。産婦人科においても収入減となり医療の質の向上を迫られる一方で、経営に一層の努力が必要となりました。平成14年度の改定で産婦人科に影響があったと考えられる事項として再診料の月内逓減制、主病名の記載、長期投薬制限の原則撤廃、投薬における205円ルールの廃止、手術における施設基準、長期入院の見直し等の改定が挙げられます。これらの改定をうけ日本産婦人科医会が平成14年4月に4病院5診療所に行った緊急診療報酬動態調査では、昨年10月14日に放送した通り、診療所においては外来8.9%マイナス、入院1%プラス、病院においては外来3.8%マイナス、入院16.2%プラスの結果でした。病院入院のプラスに関しては手術料の点数アップが主な要因と考えられました。

 平成14年度の改定の最終的な影響に関し、本年8月、厚生労働省保険局調査課から概算医療費の発表がありました。それによると14年度の概算医療費は30.2兆円で前年比0.7%減少となりました。医療費の減少は介護保険が施行され、高齢者の医療費の一部が介護保険に移行した平成12年を除くと初めてでした。その原因としては制度改革により受診抑制がおこり患者数が減少したことが考えられます。平成14年度の受診延べ日数は前年比1.6%減となっております。これに対し1日当たり医療費は前年比1.0%増となりましたが、伸び率は鈍化し、改定率マイナス2.7%の影響を受ける形となりました。

 医療機関別に概算医療費をみてみると、大学病院がほぼ横ばいであったのに対し、個人病院では11.7%の減少を示し、診療所でも3.5%の減少となり、中小医療機関での減少が目立っております。病院の機能別にみると療養病床を有する施設では一般病院、診療所ともに大きく減少する一方で、療養病床のない病院では2.4%の増加、さらに地域医療支援病院では13.3%の増加がみられました。診療科別では産婦人科は0.2%減にとどまり、内科3.3%減、小児科2.6%減と比較しても改定の影響を受けにくかったことが伺われます。これに対し外科では7.3%減、整形外科で7.2%減と顕著な減少のみられた科もあり、再診料の月内逓減制と手術に係わる施設基準の設定が大きく影響したと考えられます。

 つづいて本年10月には厚生労働省統計情報部より平成14年度の診療行為別の概況が公表されました。それによりますと、医科の入院1件あたりの点数は総数で33,554.6(点と前年比860.2点2.5%減となり、1日あたりでは2097.2点と前年比33.2点、1.6%の増加となりました。診療行為別にみると増加した主なものは指導管理料が1件当たり6.7%、1日あたり11.2%、投薬が1件あたり5.7%、1日あたり10.2%、放射線治療が1件当たり29.1%、1日あたり34.5%などです。減少したものはリハビリテーションが1件あたり23.1%、1日あたり19.8%、手術は1件当たり8.3%、1日あたり4.4%減でした。これは施設基準の対象となる手術が増えたことが要因と考えられます。

 入院外では1件当たり点数が1266.2点で前年比4.5%減、1日あたりでは629.5点で0.7%の減少となりました。診療行為別に点数をみると、前年比で増えたものは指導管理料1件当たり1.7%、1日あたり5.8%、在宅医療1件当たり9.2%、 1日あたり13.6%、処置1件あたり6.7%、1日あたり11.0%、画像診断1件あたり4.3%、1日あたり8.5%などで、減少したものは初診・再診1件あたり6.6%、1日あたり2.9%、リハビリテーション1件あたり26.5%、1日あたり23.6%、手術1件あたり26.2%、1日あたり23.2%などでした。初診・再診料の減少は月内逓減制の影響が関連していると考えられます。

 薬剤関連では205円ルールの廃止で、投薬のある入院レセプトのなかで投与薬剤名のないものは平成13年の52.4%に比較し平成14年では3.6%に減り、改定の影響を強く反映するものとなっております。医科において薬剤料の占める割合もここ数年の減少傾向は続いており、平成14年6月の審査分では21.6%と前年同月比0.9ポイントの減少で過去最低を更新しました。 以上が平成14年度の改定がもたらした1年間の医療費の動向でありあります。

 さて次に平成15年度の診療報酬一部改定に伴う変化について述べます。
平成15年4月より被用者保険本人が3割負担になりました。日本医師会では本年4月から5月分のレセプトについて緊急調査を行いました。主要3要素について前年同期と比較しますと、総点数で診療所の入院が1.8%、入院外4.57%とそれぞれ減少しました。一方病院では入院が2.25%増、
入院外が2.31%減となり病院、診療所ともに入院外で前年を下回ることになりました。他に総件数、総日数では病院の総件数で0.24%とわずかに増加した以外はすべてマイナスとなり、全体でも総件数2.47%、総日数4.30%とそれぞれマイナスとなっております。全体主要3要素から求めた主要3指標では、1件あたり点数は診療所で入院2.06%増、入院外3.36%減、病院で入院2%増、入院外で1.8%増でした。1件あたり日数では診療所で入院0.57%増、入院外では2.66%減、病院では入院、入院外それぞれ1.64%減、3.12%減となっております。1日あたり点数では、診療所の入院、入院外がそれぞれ1.48%増、0.72%減で、病院では入院、入院外それぞれ3.70%増、5.08%増でした。社保に限って主要3要素を見ても、総点数、総件数、総日数においてすべて減少が認められております。これらの結果は全科においてのものですが、診療科別に多少の差はみられるものの産婦人科においても同様の減少が見られると考えられます。前年との比較において減少が見られたことは3割負担に変わり、受診を手控えるようになったことも大きな要因と考えられ、特に診療所の外来において大きな影響が現れております。

 再診料、外来管理加算の月内逓減制も平成14年度医療費に大きな影響を及ぼしましたがこれは中医協での審議を経て本年6月に撤廃されております。実際には産婦人科は月内逓減制の影響を強く受けたとは考えにくく、撤廃による好転は比較的小幅なものであるか。あるいはマイナスとも考えられております。

 さらに平成15年度改定の特徴としては特定機能病院におけるDPCが4月より順次導入されたことが挙げられます。本制度の導入により、診断群分類を基にした病院間の診療内容の比較が行われ、診療内容の差が明らかにされてゆくと考えられます。DPCの見直しに関しては1年を経過した時点で行われることとなっております。

 DPCは特定機能病院以外の診療機関にも拡大してゆくと考えられていますが、特定機能病院での結果を踏まえ、今後どのような見直しが行われるか、産婦人科医会でも注目しております。

 以上本年度の社保一部改定にともなう産婦人科への影響について報告させていただきました。