平成15年12月22日放送
  平成15年度日本医師会家族計画母体保護法指導者講習会より
  社団法人日本産婦人科医会副幹事長 大村 浩
 

 

 恒例の平成15年度 家族計画・母体保護法 指導者講習会が平成15年12月6日、日本医師会館で開催されました。今年度は「若年者の性」にシンポジウムのメイン・テーマを置き、「働く女性の母性の保護」が講演として行われました。

 日本医師会常任理事・柳田貴美子氏の司会で開会が告げられた後、日本医師会長、厚生労働大臣の挨拶が行われました。そこでも現代日本のおかれている状況として「少子化」「性行動若年化」「働く女性増加」などが挙げられています。少子化対策は残念ながら順調に成果を上げているとは言い難く、法規としては[次世代支援対策法]や[児童福祉法]が整備されてきましたが今後も【健やか親子21】など官民一体となった対策を継続する必要性が再確認されました。

 引き続き、坂元正一日本産婦人科医会会長からの来賓挨拶では、若年者の妊娠問題を真摯に考えるべきだという提案がありました。特に10代の人工妊娠中絶数が平成13年度まで増加の一途をたどっていたのが、14年度はやや減少傾向にあり、若干の光明が見えてきた、それだけに次世代を担う若年者への取り組みがもとめられているという話が印象的でした。

 講演は長江聡里松下電工株式会社・本社健康管理室長から「働く女性の母性の保護」という題で行われました。今後女性は、「産む性」としてだけでなく「労働力」としても社会から求められるという側面に注目された内容でした。平成11年4月の労働基準法・男女雇用機会均等法の改正に先立ち、平成10年に母性健康管理が義務化されたことをうけ、「母性健康管理指導事項連絡カード」の有効利用が期待されています。このことをよく周知して、事業主や、産婦人科医を含めた主治医、また働く女性自身もお互いに理解した上で、母性健康管理にあたる必要があると説かれました。

 シンポジウムは「若年者の性の問題を考える」がメイン・テーマです。

第1題:「10代の人工妊娠中絶について」
福島県・幡 研一明治病院院長・日本産婦人科医会医療対策委員が講演されました。
 【健やか親子21】のなかでは10代の人工妊娠中絶減少と性感染症減少を具体的目標に掲げられています。その根拠として平成13年度までは、わが国の人工妊娠中絶件数が減少しているのに対し、10代の 人工妊娠中絶はその件数も、全中絶件数内で占める割合も増加しつづけている、ということが挙げられました。日本産婦人科医会医療対策委員会が行ったアンケートでは、女性やパートナー男性の持つ社会的背景、経済状態、家庭環境などについて多彩な調査がされています。結果からの考察では、意外なことに中絶した10代女性の中でも39.3%が「産みたかった」と、「産みたくなかった」の18.1%に比べ約2倍以上の高率でした。
 今後の少子化対策としても、10代女性や未婚女性への出産・育児支援や学業との両立
支援などが重要となるのでは、という提案がなされました。

第2題: 「性教育のありかたについて」
古賀詔子婦人科クリニック古賀院長・日本産婦人科医会 女性保健委員会委員長からの講演でした。
 10代の性の乱れが、将来的に大いに懸念されています。例えば東京都における調査では、高校3年までに性交を体験したものは、男子で37%・女子で45%と、高い割合を示しており、子供たちの性行為が、人工妊娠中絶増加や性感染症の蔓延など、憂慮すべき状況につながっている可能性が高いと言えます。これは、必要な性教育が、十分に浸透していないことが、大きな原因として考えられます。
 また今後の性教育は、13歳という境界線を意識する必要性があります。日本の法律では、13歳未満の子供に対する性行為は、理由のいかんを問わずに強姦罪が成立し、13歳以上のものに対しては、本人の同意が無く、暴行や脅迫を用いて性行為を行えば同様に強姦罪が成立するとされており、13歳を以って性的同意への自己決定権が生じるとされているからです。
  実際の性教育の三つのステップ

  1. 第一のステップ:思春期の前期に当たる小学校4年・5年・6年では、男と女の身体
    や性の違いと役割など、性教育の基礎をしっかりと教え込んでおくこと親の役割が重要となります。
  2. 第二のステップ:中学生では、関心は親から離れ、友人や異性へと向かいます。交際相手の見極めなど、自己決定力をこの時期にしっかりと育てることが必要です。学校の役割が重要となってきます。
  3. 第三のステップ:高校では、自分で決めたことは自分で責任を負うという、
    最終段階となる。二人が納得して行う性行為の代償として生じる妊娠や性感染症も、
    二人で処理すべき重大な問題となってくる。

 そして、性のトラブルに見舞われたこどもにとって必要なのは、スウェーデンに見られるような青少年クリニックの存在かと思われます。わが国の性問題の現状を考えると、こどもたちをサポートするクリニックの速やかな設置が望まれると解説されました。

第3題:「最近の性感染症の動向について」
松田静冶・性の健康財団副会頭が講演されました。
 最近、女子ではクラミジア感染症が男子では淋菌感染症が増加しています。またこれらの性感染症が増加していることはHIVの潜在的感染者が増加している事を意味しており、HIV陽性妊婦も増加しています。最近の傾向として性の多様化が挙げられており、オーラルセックス常識化から好発感 染部位が口腔や咽頭になりつつあります。またCSW(コマーシャル・セックス・ ワーカー)などの玄人から一般家庭内へと感染者が拡大してきています。やはり防御手段をしっかり講じる事が重要であり、避妊と共に感染防御としてのコンドーム着用などの教育が重視されるとの見解でした。

第4題:「行政の立場から」(指定発言)
谷口 隆・厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長から講演がありました。
 基本的には前3者の講演で全て言い尽くされている所だが、特に今後重点的に推進したいのは、「性モラル」をどの様に植えつけるのか?という点ではないでしょうか。
 いままでは10代のセックスをある程度自然な欲求の結果として容認してきたが、これだけの性情報の氾濫などをみるとむしろ性のモラル復権を目指す事が必要ではないだろうかと言う考え方によります。またそのような観点からも行政の取り組みの一環として、性教育教材などの開発には文科省とのタイアップが不可欠とされる所です。との【健やか親子21】に盛りこまれる内容についても言及されました。

 討論はこの4者への質問と討議という形態で活発な討議がなされました。今後はこの命題を継続して審議し、次世代のリプロダクティブライツを確立させて行くことが今を生きる産婦人科に求められている義務だと感じさせられた講習会でした。