平成15年12月29日放送
  日本産婦人科医会組織の重要課題(本年を振り返って)
  社団法人日本産婦人科医会副会長 清川 尚

 日本産婦人科医会の皆様方、また日産婦医会アワーをお聞きになっていらっしゃいます皆様方、今晩は。日本産婦人科医会の副会長の清川です。今年最後の日産婦医会アワーです。

 今年の流行語大賞の一つにマニフェストという言葉が選ばれました。わが国では「選挙公約」と訳されています。医療界を取り巻く状況は年を追うごとに厳しくなり、産婦人科医療も同様に厳しい状況になっています。
 新聞のあるコラムにこう書かれていました。医療過誤に対する世間の目が厳しくなったために最近の医者は軽々しく「治ります」と言わずに、逆に悲観的な可能性を患者にはっきりと伝えておくのだそうです。でもなんかおかしい。医者の「大丈夫。良くなります。」という言葉に患者は励まされ、闘病するものだ。はなから「治らないかも知れない」などと言われると逆に治る病気も治らなくなる。医者と患者の信頼関係を損なうのだけは避けたいものだ・・・。という記事がありました。
 世の中、何かおかしい、「なんでだろう」 この何でだろうも今年の流行語大賞の一つでした。少産・少子・高齢化が進む現代社会はスローフード・スローライフへと移行しています。医療・医学も高度先進から質の向上と安全確保が不可欠となり、且つ国民の要望でもあり、医療機関に課せられた当然の責務でありましょう。

 医会と学会は、Working Group や学会あり方検討委員会などでわが国の産婦人科医療の現状につきディスカッションを行い、産婦人科医のみならず、医療界、マスコミ、経済界、行政機関などに積極的なアプローチを行っています。

 今年度医師国家試験合格者は約8000名でありましたが、女性はそのうちの約33.8%と過去最高を更新、4年連続で30%を上回り、数字の上では女性医師の躍進がめざましい結果となりました。しかし、今年度の日本産科婦人科学会専門医試験合格者は296名でした。また、5年に1度の専門医更新者は994名と年々減少しています。産婦人科医離れが進む中、少産とはいえ、毎年120万人前後の出生数は保たれています。毎年約300名前後の専門医が誕生しますが、産科医療・周産期医療に携わる医師はその3分の1くらいと予測されます。産科医療・周産期医療の最前線で活躍できる専門医の人数は、およそ1500から2000人くらいと予測され、この人数でわが国の産科周産期医療に対峙するには、医師・患者双方にとっても非常なリスクとなるでしょう。産婦人科医会の会員で勤務医の占める割合は、54%となり、一方、入院・分娩を取り扱わない医療機関の増加が著しいのが最近の傾向です。患者の大病院志向は、スーパーマーケットと専門店との戦いと同様に診療所の独自性、特性を前面に押し出さなければ、個人・開業医の将来はますます居場所が隅の方に追いやられてしまうでしょう。産科・周産期医療に携わる医師の減少は、安全で快適さの確保が「健やか親子21」の国民計画運動となっている中で非常事態とも言えます。妊産婦は多様な分娩形態を求めていますが、分娩する場所や分娩に立ち会う医師や看護師・助産師という職業もいずれ様変わりするものと思われます。

 情報開示が進む中、臨床医のためのわが日本産婦人科医会では、日本産婦人科医会会員の皆様と産婦人科に来院する一般の方々、両者の視点に立った活動を行っています。現場の第一線で活躍する医会会員に医療の生涯研修を通して、様々な情報の提供・共有を行っています。

  1. 母体保護法を中心とする検討
  2. 実地医療をサポートする研修システムの構築と実行
  3. 万が一に的確に対処できるノウハウの蓄積
  4. 医療と看護この2つの視点からの検討
  5. 産婦人科医の労働環境のケア
  6. 会員間での情報の共有
  7. 女性に起こりうるすべての疾患をトータルでケアできる方策
  8. 医療と保険のバランスを取るように関係省庁との折衝
  9. IT技術を駆使した会員へのアプローチ
  10. 日母おぎゃー献金のサポートシステム

 などにつきまして医会に常設された部門で効率的で且つ効果的事業の推進を行っています。マスコミ等に対する対外広報、専門医としての学術研修、市民公開講座、若手産婦人科医の増加対策、いかに若手医師・医学生に産婦人科を目指してもらえるのか、さらには産科看護、助産師問題、乳がん・子宮がん検診の見直し、医療安全対策として医療事故、医療過誤リピーター問題とその対策、さらに有床診療所の48時間規制問題など、従来からの産婦人科医療からの脱却、スキルアップを目指さなければならない方向に進んでいます。また産婦人科医は女性の生涯医療を担うという立場で、女性のライフステージに合わせて情報収集、研修を常に行う専門医であり、また専門団体の役割を自覚していなければなりません。国民運動計画の一つである「健やか親子21」に積極的に参加し、母子保健医療の連携をより密にして、各専門分野の方々の知恵を拝借して「患者さん第一」「患者さん中心」「患者さん安全」を目指さねばなりません。今年徳島で行われました日本産婦人科医会学術集会でのシンポジウム「医療と患者の安全を目指して」が、私ども産婦人科医が今後の医療連携を求める上での方向性を示してくれました。

  • 医療は医学の社会的適応であり
  • 「産婦人科医」は人間の尊厳と家族の幸せをつなぐ職業であること

 を是非ご認識していただきたいと思います。12月の日本産婦人科医会会報の「羅針盤」にお目を通していただけたと思いますが、ここに「健全な経理基盤を目指して」と題して掲載してありますが、医会の収支(収入と支出です)のシミュレーションでは平成20年即ちあと5年もすると、次期繰り越し収支差額がマイナスとなる厳しい予測が立ちました。日本産科婦人科学会も同様に厳しい経理が続き、Working Group でも論議されています。しかし、経費削減を重視するあまり萎縮的な日本産婦人科医会の事業は断じて許されるものではなく、会員のさらなる福祉向上に寄与すべく知恵を出し合っていきたいと願っています。

 フセイン元大統領が拿捕されたというニュースが12月14日に全世界に報道されました。来年の世界の動向、わが国の経済活性化はどうなっていくのでしょうか。わが国の保健・福祉・医療の基盤整備、時代にマッチした事業の推進、少産少子社会の中で私ども日本産婦人科医会のマニフェスト的な考えですが、我々、日本産婦人科医会としましても、オピニオンとマニフェストでよりスキルアップする団体であり、診断・治療するだけの「産婦人科医療」から市民生活のまん中にいる「産婦人科医」としての役割を明確にする「show the flag」が必要です。付け加えれば早急に結論を求めず未来に向かって種をまく専門団体でもありたいと思います。

 それでは会員の皆様には本年のご支援、ご協力、ご理解に厚く感謝申し上げますとともに、来る年の皆様方のさらなるご発展をご祈念申し上げまして、今年最後の放送を終わります。