平成16年3月8日放送
 日本産婦人科医会全国ブロック医療対策連絡会
 日本産婦人科医会幹事 栗林 靖


 平成16年2月15日(日曜日)に開催されました平成15年度全国ブロック医療対策連絡会について解説いたします。
 例年は、全国支部医療対策担当者連絡会を行っておりましたが、今年度より全国ブロック医療対策連絡会となり、各ブロックから1〜3名の先生方にご出席いただきました。
 今回は全国9ブロックから18名の担当者と8名の医療対策委員、本部役員を加え出席者総数は44名でありました。

  1. 開会の辞 清川副会長
     
  2. 会長挨拶 新家副会長
    新家副会長は、現在、直面している以下の4つの問題について説明がありました。
     ・ 母子健康サービスについて
     ・ 医道審議会について
     ・ 良い産院の10カ条について
     ・ 有床・無床診療所の将来について
     追加発言(清川副会長):今年1月に新聞報道された“良い産院の10カ条について”本部見解として周産期医療の歴史的経緯と医会のスタンスが清川副会長から説明がありました。特に、報道に至った経緯を厚労省の動向と日本産婦人科医会の対応について詳細に報告がありました。
     
  3. 医療対策委員長挨拶・委員紹介 可世木委員長
     
  4. 担当常務理事挨拶 佐藤常務理事
     
  5. 報告事項 
    本部報告 佐藤常務理事
     ・ 48時間規制について
     ・ 定点モニターについて
     ・ 産婦人科診療費調査について
     
  6. 連絡・協議 (座長:榎本、大石理事)
    医療対策委員会が行ったアンケート調査を中心に8項目を各担当の先生により説明がありました。
    (1) 平成15年度産婦人科自費診療費調査結果(栗林幹事)
    (2) “助産所調査から契約医の問題”と“産婦人科医を取り巻く諸問題に関するアンケート”(可世木委員長)
    (3) 分娩取り扱い中止に伴う諸問題について(小関副委員長)
    (4) 妊産婦への家庭内暴力(DV)の実態についてのアンケート調査(片瀬委員)
    (5) 会員への情報提供の重要性〜DV防止法を中心に(中澤委員)
    (6) 10代の人工妊娠中絶についてのアンケート調査結果と問題点について(幡委員)
    (7) 周産期救急搬送に関する調査結果(角田委員)
    (8) 病院・診療所における情報技術(IT)と医療情報データーベースの活用状況に関するアンケート調査(小笠原委員)

     以上、8項目のうち注目された2項目について解説します。

     1つ目は、小関副委員長がまとめられた“分娩取り扱い中止に伴う諸問題についてアンケート調査結果”です。この調査結果によると分娩取り扱い中止時の年齢は65歳から69歳が最多でありその中止の理由としては、精神的ゆとりを持ちたいが一番多く、次いで体力の限界、採算が取れないが続いていました。中止後は、多くの産婦人科医は、婦人科に力を入れているが収入の減少など問題点が多いようであります。
     一方、中止後不妊治療と他科の健診に力を入れた産婦人科医は収入の減少は比較的小幅にとどまっております。このアンケートで特記すべきことは、若い産婦人科医の分娩中止の理由として精神的理由を挙げている点であります。2つの命を扱う産科医の精神的重圧がとても強いことに加え、昨今の医療訴訟の多さも影響していると思われました。

     2つ目に、幡委員がまとめられた“10代の人工妊娠中絶についてのアンケート調査結果”を取り上げたいと思います。全年齢のおける人工妊娠中絶の年次推移を見てみますと、昭和30年の117万件であったものが昭和60年にはその半数の55万件にそして平成13年には、34万件と年々減少傾向を示していますが、一方、10代の人工妊娠中絶の割合は、昭和30年の1.2%であったものが昭和60年には5.1%にそして平成13年には13.6%と増加しております。
     平成13年の調査結果によると、年齢層は19歳が最多で37.1%であり、77%が学生でありました。“妊娠がわかったときどう思いましたか”の設問に対し、”嬉しかったが“32.6%、”困った“が68.1%であり、19歳では34.5%の人が嬉しかったと答えております。”産みたいと思いましたか“の設問に対しては、”産みたかった“が39.3%、”産みたくないと思った“が18.1%であり産みたかったと答えた人の割合も、年齢とともに増加し19歳女性では、実に41.8%の人が産みたかったと答えておりました。
    以上の調査結果より、少子化対策の上でもこの約4割の産みたかった女性に対し出産・育児支援の方策を医会としても提示していくべきであると感じました。また、同時に性教育を充実させ望まない妊娠を減らす努力も必要であると思われました。
     
  7. ブロックよりの検討事項(座長:佐藤常務理事)
    (1) 新生児聴覚検査の実施状況とその問題点について
    (2) 分娩費未払い問題に関して
    (3) 助産師・助産所問題(嘱託医師委嘱契約書)について

    (1) “新生児聴覚検査の実施状況とその問題点について”
     関東ブロックから細田先生が、北陸ブロックから鈴木先生が、中国ブロックから山崎先生が、そして四国ブロックから北村先生がそれぞれ各ブロックの新生児聴覚検査の実施の現況が報告されました。各都道府県により実施状況は異なり、特に行政の事業として各地方自治体が予算化しているところでは、ほとんどの病院で検査可能でありました。検査機器に関しては、都道府県により大きく異なるもののAABRとOAEはほぼ同数であるようでした。今後の新生児聴覚検査の実施に対しては、耳鼻科と小児科との連携がさらに必要であると思われました。
     追加発言として清川副会長から各ブロックにおいて新生児聴覚検査事業に関し周知徹底してほしいと発言がありました。また、樋口理事からは新生児聴覚検査と医事紛争の事例について報告がなされました。

    (2) “分娩費未払い問題に関して”
     北海道ブロックから郷久先生が、東北ブロックから今井先生と高橋先生が東海ブロックから伏屋先生が、各ブロックの現状を報告されました。
     分娩費未払い例は増加しており、この対策として出産育児一時金受領委任払いの利用が各ブロックとも課題となっているようでありました。
     追加発言として力武常務理事から財団法人おぎゃー献金として、分娩費の支払いにOMCカードの利用を考えているとの説明がなされた。この分娩費のカード支払いは、未払い防止対策の1つとなると考えられています。

    (3) “助産師・助産所問題(嘱託医師委嘱契約書)について”
     近畿ブロックから光田先生が、九州ブロックから濱田先生が、各ブロックの問題点を報告されました。また、中国ブロックから八木先生が追加報告されました。助産師・助産所問題は、いろいろな問題を抱えていることが浮き彫りとなりました。1つの問題として嘱託医師が不明瞭であることが指摘され、この対応として委嘱契約書の必要性が認識された。
     可世木委員長から今回提示した嘱託医師委嘱契約書(案)について説明がなされました。この契約書は、1つの提案であり、今後各ブロックからの意見をお聞きし改良していく必要があることが説明された。

    (4) その他
     その他ブロックよりの検討事項として“消費税の対象基準について”が北陸ブロックから鈴木先生と東北ブロックから高橋先生が質問されました。
     平成16年4月以降改正される消費税について産科自費の取り扱いに対し佐藤常務理事から説明がなされました。この説明内容は、消費税法基本通達6-8-1〜3と地方諸費税法を参照していただきたいとのことでした。
     
  8. 閉会の辞 佐々木副会長
     午前11時から午後4時まで約5時間の会が佐々木副会長からの閉会の辞により閉会されました。

最後に本連絡会の印象:
 今回、各ブロックの先生方との連絡会をはじめて開催いたしました。新生児聴覚検査の実施状況と問題点、分娩費未払い問題、助産師、助産所問題等に関し各ブロックから活発な議論がなされ大変に有意義な連絡会でありました。
 しかしながらその一方、時代の変化とともに持ち上がる諸問題点に対し適時適切に医療対策部として対応していかなければならないと痛感させられた。