平成16年9月27日放送
国際先天異常監視機構年次総会より
日本産婦人科医会常務理事 平原 史樹
第31回国際先天異常監視機構年次総会がさる2004年9月19日から22日まで日本をホスト国に日本産婦人科医会、横浜市立大学医学部国際先天異常モニタリングセンターを主催母体として坂元正一名誉会長、住吉好雄会長のもと、京都リサーチパークならびに京都ガーデンパレスホテルにおいて開催されました。
この国際先天異常監視機構は国際クリアリングハウス先天異常モニタリング機構と通称で呼ばれており、世界保健機関WHOの関連組織のひとつであります。この国際先天異常監視機構は西ドイツにて開発、発売された睡眠薬サリドマイド剤の悲劇をもとに1974年にWHOの組織として発足したもので、以降先天異常発生要因の早期発見に貢献するとともにこれらの外的、環境要因による先天異常の予防につくしてきました。
国際先天異常監視機構の年次総会は加盟先進国のいずれかひとつがホスト国となり、各国で持ち回りにて会議を開催してきました。本年は31回目の開催であり、日本産婦人科医会が1988年に加盟して以降、住吉好雄横浜市立大学客員教授がその日本代表を務めていましたが、その功績が認められ、日本としては初めてホスト国として開催するに至りました。また、国際先天異常監視機構の年次総会としてはアジアでは初めての開催となりました。
本年は米国、フランス、ドイツ、イタリア、ハンガリー、北欧3国、オーストラリア、ニュージーランド、等、中国も含めて全世界から先進17カ国の代表30名が代表者として参加しました。
また、本年はこの数年来隔年で開催している先天異常に関する国際シンポジウムを開催することが求められており、今回はInternational symposium on congenital malformations 2004、略称ISCOM2004として学術集会を合わせ開催することになりました。主催母体はWHOの国際先天異常監視機構でありますが日本の組織母体として日本産婦人科医会、横浜市立大学医学部国際先天異常モニタリングセンターを中心に、厚生労働省、日本先天異常学会、おぎゃ―献金基金の協力を得て9月19日、20日の二日間、京都リサーチパークにおいてメインテーマをmolecular based analysis on congenital malformationとして活発な発表がおこなわれました。今回は特別講演をBaylor大学 Bellmont教授にお願いし、先天異常とりわけ心臓血管系の発生異常に関する最先端の分子生物学的研究について(Approaches todiscovering genes responsible for congenital heart defectsと題しておはなしいただいたほか、 日本先天異常学会理事長で京都大学大学院教授の塩田浩平先生に全前脳症の分子生物学的解析の講演をまた、慶応義塾大学小児科遺伝学研究室の小崎健次郎先生には先天異常解析に用いる分子生物学的新手法の紹介をご講演いただき、いずれも世界の先天異常学の遺伝子解析をリードする研究成果を中心とした講演が行われ、参加者から共同研究の話も出るなど活発な質疑、討論がおこなわれました。またシンポジウムの中で坂元正一日本産婦人科医会会長が名誉会長講演として、日本産婦人科医会の活動、日本産婦人科医会先天異常モニタリングの紹介等を行うなどシンポジウムの中に本邦の先天異常の臨床に携わってきた我々産婦人科医の地道でかつきわめて大切な役割を紹介するアドレスレクチャーも設けられました。
一般演題も海外から17題、国内から12題の合計29題が集まり、国外からの40名、国内から40名の約80名の専門的研究者の参加するなか、口演、ポスターにわかれて活発なデスカッションがもたれました。
今回のサブテーマが先天異常の分子生物学的解析ということもあり、最先端の情報交換が活発に行われ、ヒトの先天異常学の解析の世界でも遺伝子解析をはじめとしたさまざまなが最先端の研究が行われていることが示され、きわめて意義ある国際シンポジウムとなりました。坂元正一日本産婦人科医会会長は名誉会長として、夕刻開かれた懇親会でも挨拶され、各国の代表者とも親しく話し、交流をされていました。
21日からは各国代表者による年次総会の事務的な議事が始まり、ニュージーランドのボールマン代表の議長の下、多岐に渡る議事の検討がおこなわれました。今回は現在の時代の要求にあわせて国際先天異常監視機構の名称を国際先天異常監視・研究機構と改名することとして、その規約改正に関する議事に多くの時間がさかれ、一字一句の語句を延々と検討するタフな会議となりました。しかしながら、国際シンポジウムでの夕刻の懇親会ではシンポジウムにボランティアとして計時、アナウンスをかってでてくれた高校生があでやかな和服姿で参加して各国の代表達と親しく話すなど盛り上がり、また、会議期間中には和風の畳部屋でのお好み焼きのカジュアルデイナーパーテイーももたれ、大変好評でいつもどおりの陽気なメンバーによるおおはしゃぎがはじまり、各国がそれぞれに自国の歌を披露しあうなどして大いに盛り上がりました。
京都という開催場所は世界各国の代表参加者にとっても大変好評で京都ガーデンパレスホテルはまさに京都御所のはまぐりご門の真正面前にあり、各国の代表者たちは早朝、昼休みに散歩に出かけるなどしていたほか、市内の寺社仏閣を地図片手に歩き回って日本の京都を満喫していました。
会議では正式に規約が改正され来年はマルタで開催されることが決定され、新規に米国テキサスのプログラム、スロバキアのプログラムが加盟を承認され新規メンバーに名を連ねることとなりました。
また、ローマの国際先天異常監視機構本部のマストロイアコーボMastroiacovo教授から各プログラム代表にこの国際先天異常監視機構の業務はただの調査業務でなくその科学的解析が重要であることを各プログラムごとにこまかく指摘、指導するなど、内外の状勢の厳しさ、評価があることを力説されました。
1972年にスタートした日母外表奇形等調査による本邦の先天異常出産状況の調査は、発足当初は現在の調査項目に比し、やや小規模なものでありましたが、現在は対象を妊娠満22週以後、生後7日以内にみられた奇形を、全国の大学病院、基幹病院、個人病院等約330分娩施設の協力のもとにおこなわれており、本邦の全出生児の約10%(毎年約10万出産児)を常時モニターしていることになります。これらのモニタリングの報告は横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター病院に設けられた、国際クリアリングハウスモニタリングセンター日本支部において集計され、日本産婦人科医会の協力のもとに同センターにおいて詳細な分析、検討を行なっています。さらに、ここで得られた分析結果はローマの本部に集められ、世界先進25ヵ国に設置された同様のモニタリングシステム機関からの情報とあわせ、世界規模レベルで分析・検討され、奇形発生状況の把握、またその予知・予防に役だっています。
おぎゃー献金基金はその趣旨に合致したものとして継続的に特別研究としてこの調査を援助をしてきたほか、厚生労働省も先天異常モニタリングシステムに関する研究班として住吉好雄班長の下永年にわたりこの重責を果たしてきました。2004年からは先天異常に関するモニタリングシステムならびにサーベイランスに関する研究班として平原史樹横浜市立大学教授を主任研究者として研究班が組織され、日本産婦人科医会の全面的支援と会員の多大な努力のもと、過去のサリドマイドの悲劇を繰り返すまいとの決意のもとに地道な努力が続けられています。
またこの国際先天異常監視機構には妊婦の薬剤影響に関する専門調査機構が併設され、世界でも最大規模の妊娠時における薬剤使用時の先天異常の発生状況のデータベースをもち、世界中に情報発信しています。現代は安全と危険が隣り合わせの同居状態であり、充分な監視体制により、安心して住める環境作りに励まなくてはならず、先天異常モニタリングは地味な仕事ではあるものの、我々は先天異常モニタリングの持つ意味、意義についてより正しく認識し、妊婦はもとより、行政、一般市民へも広く理解を求めて努力する必要があります。