平成16年10月4日放送
 今後のがん検診について −日本産婦人科医会の考え方−
 日本産婦人科医会常務理事 大村 峯夫


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 本日は婦人科領域のがん検診のあり方について最近大きな変化がありましたので、このことについてお話しするとともに、これに対する日産婦医会の方針についてお伝えいたします。

 昨年、平成15年12月に厚生労働省の要請で、急遽各種がん検診の実施方式等について見直しを図る「がん検診に関する検討会」が召集されました。これは先の「がん検診の有効性評価に関する研究班報告」などに触発され、また乳がん検診時の見落とし事例などの報道を通じての、マスコミ等によるがん検診の見直しを求める動きに対応したものと考えられます。

 初年度の検討対象は「乳がん検診」と「子宮がん検診」の二つでした。この検討会は数回の会合を持った後、平成16年3月末に中間報告を行いました。この報告を受けて厚生労働省は平成16年4月27日に「子宮がん検診」「乳がん検診」に関する「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」の一部改正を通達しました。

 この通達は平成16年度まで実施予定ののを通達したうたつしたているんごらだの元氣プラザ 婦人科 大村峯夫5210-6674第4次計画の途中での変更となります。この改正は今後の婦人科がん検診に大きな影響がありますので、この改正の要点を述べるとともに、日産婦医会の基本方針を解説いたします。

 第一は子宮がん検診ですが、ここでは子宮がん検診の実施方法の変更とがん予防重点健康教育について述べられています。

 子宮がん検診の対象者はこれまでの30歳以上よりも引き下げられ、20歳以上となっております。実施回数は2年に1回隔年検診を推奨しています。この2点が主な変更点ですが、検診項目は従来どおり問診、視診、子宮頸部細胞診及び内診で、必要に応じてコルポスコープ検査を行うことになっています。問診において子宮体がんの有症状者及びハイリスク者に対しては、第一選択として十分な安全管理の下で多様な検査を実施することができる医療機関への受診を勧奨するとありますが、但し子宮頚がん検診に引き続き子宮体部の細胞診を実施することに本人が同意する場合には実施してもよいとあります。

 次にがん予防重点健康教育ですが、子宮がんに関する正しい知識の普及とともに、子宮頚がんの原因と考えられるHPV感染と性活動との関連についても理解を深めるとあります。

 これらの改定点は平成16年度中に全ての市町村で実施できるように配慮するようにとの要望がつけられております。

 これらの指針の変更について日産婦医会は次のように考えております。

 わが国においては1995年以降30台の子宮頚がん死亡率が増加しており、さらに若い世代の25歳から30歳では、最近15年間に上皮内がんの発生が10倍以上に増加しているとの報告があります。今回の指針では検診間隔を2年としていますが、その根拠となるデータはほとんどが外国のもので、それらの国では検診受診率が80%から90%であり、検診をきちんと受け続けている人たちを対象とした研究からのものであり、日本のように行政検診と職域検診を合わせても20%そこそこの受診率の国とは背景が異なっています。またわが国でも子宮頚がんの扁平上皮癌の浸潤癌については1年又は2年の検診が妥当との報告があるが、最近増加の見られるに腺癌については1年間隔でも十分でないことが示されており、上皮内がん発見のための有効な検診も1年間隔で十分であるという報告はありません。また若年女性においては子宮温存を図ることが必要でそのためには上皮内がんの段階で診断する必要があります。

 こういったことを踏まえて日産婦医会は子宮がん検診に対し次のような取り組みを推奨しようとしております。

  1. 当面の間1年間隔の検診が望ましい。特に若年者においては1年間隔の検
    診が必要であるが、これまで提起的な受診暦があり、異常の見られなかった30歳以
    上の検診については間隔の延長も考慮する。
  2. 事前申し込みがなくても、各医療機関でいつでも検診ができるようにし、
    特に若年者は個別検診が望ましい。
  3. 検診受診率の目標を80%とする。妊婦検診や一般診療においても成功経
    験者は必ず検診を薦める。
  4. 中高生を含む一般市民に対し、HPVや検診に関する啓発を行い、それと
    ともにHPVDNAテストの検診への導入を図る。
  5. 子宮体がんに関しては症状のあるものやハイリスク者を対象に従来どおり
    の検診を行うこととするが、体がんを強く疑う症状のあるものには細胞診のみならず
    超音波、組織診、ヒステロスコピーなどの検査も考慮する。

 次に乳がん検診に関する改定点ですが、従来は30歳以上を対象とし、50歳未満の対象者は年1回、問診ならびに視触診により実施、50歳以上の対象者は2年に1回マンモグラフィ併用検診により実施していました。今回の改正により、検診対象者が40歳以上に引き上げられ、全例にマンモグラフィ併用検診を実施することとなりました。但し、乳腺密度の高い症例の多い40歳代では、精度を高めるために2方向撮影が必要とされています。また乳癌予防についての指導についても触れていますが、従来行われていた自己検診を自己触診といい改め、マンモグラフィ検診を補完し、中間期乳癌の発見を期待する健康管理の一環と位置づけています。さらにしこりなどの自覚症状を認めた場合には検診ではなく乳腺専門医を受診する必要がある旨説明すべきだとしています

 マンモグラフィ併用検診の実施方式については従来と変更はなく、同時併用A・B分離併用A・Bの4方式が提案されていますが、多くのかかりつけ医が参加できる方式として、日産婦医会では撮影を他の施設で行う同時併用B又は分離併用B方式を推奨しています。これは全国のマンモグラフィ撮影装置約3000台のうち検診に適合する機種はわずか1500台というデータが出ており、これを有効活用するには現時点ではこの方式が最も適しているように思われるからです。

 また今回の乳がん検診の改定点についてもいくつか問題点が指摘されており、医会では次のように考えています。すなわち、今回の改定では検診の受診間隔を2年に1回としていますが、隔年検診が主流である欧米では検診受診率が70%から80%であり、本邦の10%台の検診率の現状では、さらに検診率低下を招く危険性が高く、当面は現状どおりの1年検診とすべきです。加えて、対象年齢に関しても、少なくともハイリスクの30歳代女性に対しては、視触診を中心とした検診を続けるべきでしょう。

 癌研でのデータによりますと、50歳未満の場合、マンモグラフィ検出不能癌が12%を占め、しかもその42%が腫瘤径2センチを超えるものでした。このように、40歳代にマンモグラフィ検診が導入されてもなお視触診の果たす役割は重要で、日産婦医会の先生方には従来どおりの視触診を中心とした検診に順次マンモグラフィ検診が組み込まれるものと考えていただきたいと思います。

 ここで、医会より会員の先生方に次のようなことをお願いしたいと思います。

 かかりつけ医を検診の中心にすえたシステム、特に分離併用B方式は精中委読影資格を持っていない先生方でも今すぐ参加可能な方式です。しかし、精中委は視触診を担当する医師も評価C以上が望ましいとしており、いずれはそれが求められるようになると思われます。今後とも、医会が開催する年3回の読影講習会を中心に、各地で開催される講習会に積極的に参加され、読影資格の獲得を目指していただきたいと思います。また、特に日本産婦人科乳癌研究会では目標を質の高い乳がん検診医の育成に目標を絞り、マンモグラフィ読影のみならず、視触診、エコーなどの技術向上も目指して研修内容の充実を図っており、さらに認定医制度も策定しておりますので、こちらにも先生方の積極的なご参加をお願いいたします。

 終わりに、これまで述べましたように、今回の改定の影響で婦人科検診の実質縮小が最も危惧されるところですので、検診の主体たる各自治体の担当者の動きに十分注意を払っていただき、来年度の検診体制がさらに充実したものになるようご尽力をお願いしたいと思います。