平成16年11月22日放送
産科オープン・セミオープンシステムに関する現状における日本産婦人科医会の考え方
日本産婦人科医会副会長 佐々木 繁
はじめに
平成15年12月17日に開催されました厚生労働科学「産科領域における安全対策に関する研究」(中間報告)に基づいたシンポジウムでの「産科オープンシステム病院の普及について」、ならびに平成16年1月15日朝日新聞朝刊の「健診は医院で、出産は大病院」の記事が会員、とくに診療所会員の間で大きな議論となりました。つまり、これからは一人医師の診療所では分娩を取り扱うことが出来なくなるのかという心配です。これらの件につきましては、当医会田邊常務理事は日産婦医会報(平成16年3月号)で誤解された部分も含め詳しく説明しています。
さて、本年9月以降に、周産期医療に関連する厚生労働省厚生労働科学研究の三つの研究班が相次いでシンポジウムや市民フォーラムを開催や報告書の提出を行います。次の研究班です。
- 産科領域における安全対策に関する研究(中林班)
- 地域における分娩施設の適正化に関する研究(岡村班)
- 小児科産科若手医師の確保・育成に関する研究(鴨下班)
産科オープン・セミオープンシステムにつきましては、今後開催されるブロック協議会で議題として取り上げられたり、会員からの問い合わせもあります。さらに、全国8カ所での「周産期医療施設のオープン病院化モデル事業」が厚生労働省の来年度予算概算要求に盛り込まれたことから、厚生労働省やマスコミから産科オープン・セミオープンシステムについて産婦人科医会はどのように考えているのかの説明を求められました。そこで、急遽3人の副会長と関連する6人の常務理事、8人の幹事合計17名で「周産期医療を考える連絡会議」を常務理事会内に設け、種々検討した結果を「産科オープン・セミオープンシステムに関する現況における日本産婦人科医会の考え方」(案)として作成し、また、医療対策部内の有床診療所問題検討小委員会の委員からもご意見を伺い、常務理事会案として9月11日に開催された平成16年度第3回理事会に提出し、一部修正の上承認されました。
その内容については、医会ホームページや日産婦医会報10月号に掲載されておりますのでお読みいただけたことと存じます。本日は記載されなかった連絡会議でのご意見なども紹介しながら、「考え方」を説明させていただきます。
考え方
産科オープン・セミオープンシステムについては、地域医療レベルの向上、医療事故防止、周産期医療の安全性の観点から、日本産婦人科医会は順次推進すべきとの考えです。しかしながら、現状を見ると大都市型のシステムであり、実施可能な距離に制約がある地方の中小都市・郡部に波及するには少なくとも10年以上の期間を必要とするでしょう。さらには、受け入れ施設についても医師数、労働環境、設備等に問題があります。大学病院においても、医師不足から異常分娩の搬送について若手医師から不満の声があがっている、あるいは総合周産期母子医療センターの設置が遅れている、また、夜間当直1名オンコール1名でセンターといえるのか といった意見もありました。
とくに近時産科医の減少が深刻であることから、今後、周産期医療を取り扱う病院の再編・統合化は避けられない状況です。例えば仙台市、北海道砂川市、静岡県島田市などで再編・統合化がマスコミで報道されています。
一方では、全分娩の45%以上を診療所が取り扱っている現状も考慮すると、本システムを今すぐに全国一律に導入することは妊産婦側や受け入れ病院側からも不可能です。
しかしながら、現在の妊産婦は高齢化、少子化が目立ち、産科医療の有する潜在的なリスクは自ずと高まりを見せています。そのため、病病・病診・診診連携化の必要性は今後ますます高まることは明らかです。
さらに、本システムについては当医会としても以前から継続して調査・研究を行ってきました。アンケート調査結果(平成13年9月)によると、本システムは全国で約1割強の施設で実施されており、現在本システムを実施していない病院や利用していない診療所も共に、約4分の3の医師が今後定着させるべきであると回答しています。しかし一方で、全国オープンシステム病院を対象とした調査(平成15年度調査)によると、日本で産科オープンシステムが有効活用されている施設はまだまだ少ない状況です。
本システムは、周産期医療システム[周産期ネットワーク、オープン・セミオープンシステム、周産期センター(総合・地域)、病病・病診・診診連携等]の中の一つのオプションとして地域ごとに考えるべき課題であり、システムを構築できる地域では構築に向けて早急に努力していただきたいとの考えです。
オープン病院化に関しては、厚生労働省でも開放型病床の施設基準を緩和し、産科オープンシステムが進行することを期待しています。
当分は、複数医師のいる診療所や一人医師の診療所であっても高次医療施設やオープン・セミオープン病院との連携を密にして、さらに分娩の risk assessment を適正に行って、ローリスク妊娠の分娩管理は積極的に行っていただきたい。また、ハイリスク妊娠は出来るだけ周産期母子医療センター等、高次医療施設へ分娩を集約化することが肝要であるとするのが医会の考え方です。
オープンシステムを利用し、健診は診療所で行い、分娩は病院を借りて同じ医師が行うという米国のシステムはある意味では理想です。しかしながら、日本では、病院・診療所のあり方、設置状況等の相違や、診療所側にとって医師の出務(すべての分娩を病院に出かけて行うのは精神的、肉体的にも大変厳しい)や出務中の自院の患者への対応(夜間や時間外は良しとしても、外来診察時間中の外来患者への対応をどうするか)、地理的制約(少なくとも診療所から病院へは30分 以内、出来れば15分以内で到着できることが望ましいと思われる)等問題が多いです。そのため、本来の意味でのオープンシステムを採用している病院・診療所は非常に少ないと見受けられます。したがって、現状ではセミオープンシステムが適していますが、いずれにしても、受け入れ病院の外来機能を診療所が受け持つ といった新たな概念 を地域に浸透させることが必要です。
病院側、診療所側共にメリットを伸ばし、デメリットを克服して産科オープン・セミオープンシステムが普及すると、さらなる「安全で快適な分娩」を提供することが期待できますが、これには医師を信頼して診療所での分娩を望むといった妊産婦の立場や離島・僻地医療を含めて行政・医療従事者・国民が一体となって今後検討していく必要があります。
その他、連絡会議では、(1) 分娩料や分娩介助料の病院・診療所の配合割合、(2) 医事紛争の際の責任の所在、(3) 受け入れ側の医療機関でも、妊婦健診や正常分娩を取り扱わないと経営が成り立たない等の意見が出されました。
まとめ
- 産科オープン・セミオープンシステムについては、地域医療レベルの向上、医療事故防止、周産期医療の安全性の観点から、日本産婦人科医会は順次推進すべきとの考えがある。
- 本システムを構築できる地域では、構築に向けて早急に努力する。
- 全国的にみると、医療機関の配置状況、受け入れ施設のないよう(ハード、ソフトの両面)等に地域差が大きい。その地域にとってどのようにシステムが適しているか、本システムを一つのオプションとして、その他地域性にあった様々な周産期医療システムを考え、推進していく努力が求められる。
- 当分は、複数医師のいる診療所や、一人医師の診療所であっても高次医療施設やオープン・セミオープン施設との連携を密にして、分娩の risk assessment を適正に行って、ローリスク妊娠の分娩管理を積極的に行う。
- ハイリスク妊娠は出来るだけ周産期母子医療センター等、高次医療施設へ分娩を集約化する。
以上が考え方のまとめです。
最後に念のため「産科オープン・セミオープンシステム」の定義を述べます。
オープンシステムとは、妊婦健診は診療所で、分娩は病院の形態で、診療方針の決定権即ち主治医権は診療所にあり、原則として診療所医師が分娩に立ち会います。
一方、
セミオープンシステムとは、妊婦健診は診療所で、分娩は病院という形態はオープンシステムと同様ですが、主治医権は病院にあり病院医師が入院後の治療方針を決定し、分娩に立ち会います。以上、「産科オープン・セミオープンシステムに関する現状における日本産婦人科医会の考え方」について説明させていただきました。