平成17年5月23日放送
  病診連携に対する満足度調査結果
  前日本産婦人科医会医療対策委員会委員 角田 隆


 医療への社会的ニーズは多様化しています。先進的な医療を求める傾向は加速し、一施設での対応は困難となりつつあります。こうした社会の要求に応えるため、病診連携の推進は極めて重要と考えられます。 病診連携については医療サイドのみでなく患者さん自身が適切な医療を提供されたという認識が重要と思われます。そこで、今回は連携後の医師と患者さんの満足度を調査することで、双方の信頼関係向上を促し病診連携がさらに推進されることを目的としました。

調査概要

 日本産婦人科医会定点モニター521施設に対し、病診連携の満足度(以下“満足度”)に関するアンケート調査を行いました。さらに、紹介時にモニター施設の医師より患者さんに“満足度”に関するアンケート用紙を手渡し、後日産婦人科医会への返送を依頼しました。

調査結果

モニター施設よりの回収率は59%、患者さんよりの回収率は15%でした。
最初に医療サイドよりみた病診連携に対する満足度を検討しました。

  1. 紹介先の決定理由
     紹介先の決定理由は、患者さんの希望;71%、専門性;57%、地域の中核病院;52%でした。専門性の判断は、“医師との交流で得た情報”が51%で最も多く、その他“癌センターや周産期センターなど肩書きで判断”、“紹介先の情報誌による”が認められましたが、“ホームページ”は3%にすぎませんでした。紹介先の医師との交流が紹介時の重要な情報手段となっていることが明らかとなりました。
  2. 逆紹介(この逆紹介とは病状が落ち着いたら紹介元に返すことですが)について
     逆紹介は72%の施設に認められました。逆紹介に対し“満足”;45%、“不満”は10%でした。逆紹介の割合(逆紹介数/紹介患者さん数)は10%未満が61%と最も多く、次いで10〜30%未満は26%でした。
     逆紹介の有無を病診連携に“満足”と“満足でない” グル−プで比較すると、逆紹介があると回答した施設は“満足”な グル−プの74%に比し“満足でない” の45%と低率で、逆紹介の有無は“満足度”に大きく影響しました。
  3. 紹介先職員の対応について
     紹介先職員の対応に対する満足度は高く、事務職員、看護職員とも80%以上が満足との認識でした。
  4. 紹介後の経過報告と満足度
     経過報告は、“初診時と治療終了後の双方”が50%で最も多く、“初診時または治療終了後の一方のみ”は34%で、報告がほとんどない“も2%に認められました。
    経過報告が“十分でない”との回答は 25%に認められましたが、その理由は、“返事が遅い”、“詳細が不明”、“最終診断が不明”などでした。
    経過報告に“満足なグル−プ”では“初診時と治療終了後の双方に報告がある”が80%と多く“不満なグル−プ”は22%と低率でした。“不満なグル−プ”では“ほとんど報告がない”が8%も存在しました。(図1)(図1-2)。
  5. 病診連携(治療)に対する総合的な満足度
    94%が満足で、医療サイドよりみた病診連携は良好に機能していることが明らかとなりました(図2)。

患者さんサイドよりみた病診連携に対する満足度の検討

  1. 紹介された病院の所属と決定理由
    紹介先は、国公立病院;
    56%で最も多く、大学病院;23%、私立病院;14%で、専門病院は7%と最も低率でした。紹介先決定は、“医師が決定”;64%、“自分で希望”;34%でした。自分で決定した理由は、“病院が近い”が54%と最も多く、次いで“中核病院”;35%、“評判がよい”;33%、“設備の充実”;30%でした。しかし、専門病院を決定理由にした人は6%に過ぎませんでした。

  2. 職員の対応について
     紹介元の事務職員、看護職員、医師の対応に、
    95%以上が満足との回答でした。紹介先職員の対応にも同様に90%以上が満足で、紹介先に対する満足度も良好でした。
     次に病診連携に“満足でないグル−プ”
    42人の職員に対する“満足度”を検討しました。紹介元の職員の対応は、事務職員、看護職員、医師のすべてにおいて90%以上が満足で、病診連携には満足でなくとも、紹介元への満足度は高いことが明らかとなりました。紹介先職員の対応について“満足”との回答は、事務職員;88%、看護職員;83%でしたが、医師に対しては76%と低率でした。病診連携に“満足でないグル−プ”では、紹介先の医師への満足度が最も低いことが明らかとなりました。

  3. 紹介時の各疾患と医師に対する満足度の関連
     紹介時の疾患を子宮癌、子宮良性腫瘍、妊娠分娩管理、周産期救急、新生児疾患、卵巣腫瘍、乳腺腫瘍に分類しました。“満足度”を紹介元と紹介先で疾患別に比較すると、紹介元は周産期救急を除くすべてで紹介先を上回りました。紹介先に対しては、特に妊娠分娩管理に対する満足度が低いことが明らかとなりました。(図3

  4. 紹介のタイミングについて
     紹介のタイミングは、86%が“適切”との回答で、2%が“遅い”との回答でした。
    タイミングが“適切”と思ったグル−プでは、病診連携に“満足している”が86%、“不満”は1%のみでした。タイミングが“遅い”と思ったグループでは“満足”が71%、“不満”は6%、でした(図4)。
     病診連携に“満足”と“満足でない”グル−プを比較すると、“適切”との回答は“満足でない” グル−プの78%に比べ“満足”なグル−プは88%と高率でした。以上より紹介のタイミングは“満足度”に影響すると考えられますが、タイミングが適切でなくとも紹介先の職員の対応や治療が良好であれば、満足度は高いことが示唆されました。
     タイミングを疾患別に検討すると、“遅い”との回答を周産期救急と乳腺腫瘍に認めました(図5)。

  5. 紹介元医師の病状説明について
     説明が、“理解できた”90%、“説明不足”;4%、“理解できなかった”;3%でした。
    病診連携に“満足”と“満足でない”グル−プの比較では、“理解できた”は“満足な” グループの93%に対し“満足でない”グル−プは76%と低率でした。それに対し“満足でない”グル−プでは“説明不足”;14%、“理解できなかった”;11%で、これらは“満足”なグル−プに比べ高率でした(図6)(図6-2)。紹介時の病状を、理解できるよう説明することが“満足度”の向上に必要と思われました。

  6. 病気に対する説明は、紹介元と紹介先で違いましたか
     “同じ”か“ほとんど同じ”は92%、“違った”か“わからなかった”は6%でした。
     病診連携に“満足”と“満足でない”グル−プで比較すると、説明が“同じ”か“ほとんど同じ”は“満足”なグループの96%に対し“満足でない”なグループは73%と低率でした。それに反し“まったく違っていた”か“分からない”は、“満足” なグループの4%に対し“満足でない”グループは27%と高率でした(図7)(図7-2)。紹介時の疾患に対する正確な説明は“満足度”に大きく影響しました。

  7. 紹介先での治療後、紹介元を受診していますか
     “何らかのかたちで受診しているか受診するつもり”が73%で、“受 診していない”との回答は30%、のみでした。
    病診連携に“満足”と“満足でない”グル−プで比較すると両群に差は認めませんでした。すなわち、“満足度”に関わらず、紹介元との関係は比較的良好に保たれていることが示唆されました。

  8. 紹介元と紹介先の診断は同じでしたか
     “同じだった”は85%、“違った”あるいは“よく分からない”は11%でした。
     病診連携に“満足”と“満足でない”グル−プの比較では、“同じだった”は“満足”なグル−プの90%に対し、“満足でない”グループは57%と低率でした。このことより、紹介時の正確な診断も満足度に影響することが示唆されました。

  9. 総合的に病診連携に満足していますか
     “満足”;84%、“不満”;2%、“どちらともいえない”;11%でした(図9)。不満の理由は、“きちんと診察してくれない”、“ベッドの待機期間が長い”、“事務的な態度”など、紹介先に対する不満が見られました。


まとめ

医療サイドよりみた病診連携の満足度

  1. 逆紹介の有無は“満足度”に大きく影響しました。

  2. 紹介先職員に対する満足度は高率でした。

  3. 経過報告の良否が“満足度”に大きく影響しました。

患者さんサイドよりみた病診連携の満足度

  1. 紹介元への満足度は高いことが明らかとなりました。

  2. 病診連携に“満足でない”ケースでは、紹介先医師への満足度が最も低率でした。

  3. 疾患別の“満足度”では、紹介元に対して周産期救急が、紹介先に対しては妊娠分娩管理が最も低率でした。

  4. 紹介のタイミングが“遅い”は周産期救急と乳腺腫瘍に認めました。タイミングの良否は“満足度”に影響しました。

  5. 紹介時の病状説明は満足度に大きく影響しました。

  6. 治療終了後70%以上が紹介元を受診しており、紹介元と良好な関係が保たれていることが示唆されました。

  7. 紹介元の診断の正否は満足度に大きく影響しました。

考察

 医療側、患者さん側とも病診連携が社会的に容認されていることが明らかとなりました。医療側の“満足度”向上には、治療前後の経過報告や逆紹介を促すことが必要と思われました。患者さん側よりみると、周産期救急や乳腺腫瘍の紹介のタイミングが遅い、紹介先での妊娠分娩管理に不満が多いなどが問題で、乳腺腫瘍には診断精度の向上を、周産期救急には、地域の周産期救急システムを早期に構築することが重要と考えられます。オープンやセミオープンシステムによる分娩が奨励されつつありますが、受け入れ施設はきめ細かい管理によりアメニティー向上を図ることが必要と思われます。