平成17年11月14日放送
第110回日産婦学会関東連合地方部会(10/15、16)
第110回日産婦学会関東連合地方部会長 小西 郁生
みなさま、こんにちは。信州大学産婦人科の小西でございます。
本日は、このお時間をいただき、先日開催いたしました、第110回日本産科婦人科学会、関東連合地方部会の内容をご紹介いたしたいと思います。第110回の関東連合地方部会は、平成17年10月15日と16日の2日間、松本市内にございます長野県松本文化会館で開催させていただきました。関東一円より、約650名という、非常に多数の方々のご出席をいただきました。またローテート研修医も38名が参加し、さらに市民公開講座では、のべにして約100名の市民が参加され、盛会のうちに終了することができました。
これも皆さまの格段のご支援、ご協力の賜物であり、この場をお借りして、心より御礼申し上げます。学会に先立ち、市民公開講座を開催いたしました。まず、私が「婦人科がんの早期発見と早期治療―進行癌治療の進歩も含めて」という内容で講演させていただきました。子宮がん検診により子宮頸癌を早期発見できることは国民の皆さんのほとんどがご存じでありますが、近年、異形成や上皮内癌の発症年齢が若年化しており、20歳から子宮がん検診を始めるべきであることを強調いたしました。さらに、早期発見が重要であるだけでなく、進行癌の治療法が現在いかに進歩しているか、子宮癌で肺転移や脳転移があっても集的学的治療で治癒にいたるケースも多いことをお示しし、たとえ進行癌とわかっても頑張って治療をうけることが大切であることを、述べさせていただきました。
次に、信州大学耳鼻咽喉科の宇佐美教授より、長野県における新生児聴覚スクリーニングに関するご講演をいただきました。新生児の難聴は、早期に診断して、きちんと療育し、必要に応じて人工内耳を入れることにより、手話でなく、普通の学校に行くことができる可能性が出てきますので、このスクリーニングは大変価値のある事業であります。長野県では、県が産科の各施設に検査機器導入に対する補助を行ったことで、4年前に全県下にスクリーニング体制が確立され、現在、出生児の90%以上が検査を受けております。しかも、予想どおり1000人に一人という大変高い頻度で難聴児がみつかってきております。このようにスクリーニングの方は大成功を収めましたので、各都道府県でもこの長野モデルを参考にしていただきたいと思います。しかし、本県でも、診断された後の療育体制はまだまだ不十分であり、今後、至急に整備していく必要があります。
さて、肝心の学会の方のプログラムを紹介いたします。まず、教育講演の前座といたしまして、当産婦人科の塩沢助教授が、子宮内膜癌研究の最前線というテーマで、自らのデータも含め、エストロゲンと内膜癌研究の世界的状況を発表させていただきました。
次に、本学会のメインテーマですが、今回は第110回という大きな節目の会であり、この110回は「ひゃくとうばん」とも読めますことから、「産婦人科診療のリスクマネージメント」をメインテーマとして、教育講演、シンポジウム、招請講演、ランチョンセミナーを企画いたしました。
まず、弁護士で医師でもあり、日経メデイカル誌上でもご活躍の竹中郁夫先生に来ていただき、土曜日に教育講演を、日曜日にはシンポジウムにもご参加いただきました。竹中先生には、教育講演の中で、産婦人科における医療トラブルの特性を解説していただき、産婦人科にはいろいろな悪条件がある、だからといって、一般社会からは、産婦人科の医療トラブルがやむをえないものであると見られることは今後もありえないこと、そこで、私たち産婦人科医には、インフォームド・コンセントを含めて、懸命な努力が要求されることを述べられました。
そして、引き続き、日曜日の朝から、シンポジウム「周産期診療のリスクマネージメント」が開催され、海野教授、平出先生の司会のもと、各シンポジストから、まず妊婦健診でのリスクマネージメント、出生前診断のリスクマネージメント、そしてしばしば問題が発生する分娩時のリスクマネージメント、さらには病診連携におけるリスクマネージメントと、それぞれ、大変わかりやすいご発表をいただき、会場と結んで活発な議論が行われました。随所に、竹中先生からも貴重なコメントをいただきました。
シンポジウム全体を通じまして、あらかじめ十分なインフォームド・コンセントを行うことがきわめて重要であること、医療者どうしの良好な連携が必須であることが再確認されました。また、ある程度、標準的な取り扱いに関するガイドライン的なものが求められてきていることが痛感され、今後の課題と思われました。
シンポジウムに引き続き、日産婦医会、医療安全・紛争対策委員会委員でいらっしゃいます、藤井恒夫先生の招請講演を拝聴いたしました。
藤井恒夫先生は、広島県では、医師会の中にしっかりとした医療事故特別委員会が設置されており、医療訴訟に対して、組織的な対応をされているというご紹介があり、とても参考になりました。また、実際に重大な事故に遭遇した場合には、冷静に対応することがとても重要であることを強調されました。
お昼には、リスクマネージメント関連のランチョン・セミナーを2題企画いたしました。最近急速に増加しております、エコノミー症候群、すなわち、肺血栓塞栓症の診断・治療をこの分野の第一人者である小林隆夫教授にご講演をお願いし、いかに頻々と発生しているかという実態、予防方法と治療方法を教えていただきました。
また、近年、急速な発展をみせております腹腔鏡手術における重大合併症の予防について、伊熊健一郎先生からご講演を賜りました。長年の豊富な経験から注意すべき点についてわかりやすいお話をいただくことができました。
さて、今回の学会のもう一つのメインテーマとして、私のライフワークでもあります、卵巣癌を取り上げ、特にその治療の最新情報をご紹介し議論する場にしたいと考えました。
まず、土曜日のイブニング・セミナーには、私の友人であり、南カリフォルニア大学教授のPaul Morrow先生に来ていただき、最新の卵巣癌手術をお示しいただきました。スライドでは、実際の手術の様子をふんだんに見せていただき、大変、impressiveなご講演であり、またその内容は現在わが国で標準的に行われている卵巣癌手術をはるかに越えるものでした。すなわち、腫瘍の占拠部位をいくつかのゾーンに分けて、それぞれのゾーンでいかに根治的な手術を追及するか、骨盤腔では腹膜の全切除と必要に応じた直腸・S状結腸の合併切除、右上腹部では横隔膜の転移巣切除と必要に応じて全横隔膜のstripping、左上腹部では脾臓摘出術、大網ではその全切除と必要に応じて横行結腸の合併切除、腹腔内全体の腸管切除では3箇所までであれば積極的に行う、そして後腹膜では徹底的なリンパ節郭清、という内容でありました。今後、わが国の婦人科腫瘍専門医が歩むべき道筋を示したものとも考えられ、大変インパクトの大きな講演であったと思われます。
翌日の日曜日には9時から11時まで、「卵巣癌治療の最新情報」に関するシンポジウムが、吉川、鈴木、両教授の司会により行われ、各シンポジストからは非常にinformativeな内容のご発表をいただき、会場のみなさんもいっしょになって、活発なdiscussionが展開されました。
初回化学療法のあり方、2回目の手術に対する考え方、再発癌の手術療法と化学療法、そして、最近注目されているエリスロポイエチン、および将来の分子標的治療、という、内容で構成され、会場に来られた先生方は、現時点における、卵巣癌の標準的治療法、そして将来の治療法への展望が2時間ですべてご理解いただけたのでないかと思いますし、また、残された問題点もうきぼりになったことと存じます。
卵巣癌に関連したランチョンセミナーでは、「腹腔内播種性転移の画像診断」というテーマで筑波大学の田中優美子先生にお話をいただきました。一般に、腹腔内播種性転移の術前診断は非常に難しいという印象があり、omental cakeなども開腹して初めて見つかることが多いと思われます。しかし、田中先生は画像診断の専門家らしく、パワーポイントを駆使して、非常にわかりやすいご講演をされま、参加した方々も、これだったら明日から、自分でも診断できそうだ、と思われたことと存じます。
さて、一般演題の方ですが、関東一円の多数の施設からご応募いただき、全部で178題のポスター発表をいただきました。土曜日の午後と日曜日の午後の、2回に分かれて行われましたが、最後までたくさんの方々が参加して下さいました。
ポスター会場は熱気にあふれ、非常に活発な議論が行われておりました。これらの中から8つの演題を優秀賞として表彰させていただき、お土産に手作りの「松本てまり」をお贈りいたしました。おめでとうございます。
最後になりましたが、久しぶりに2日間の学会ということで、土曜日の夕方に総懇親会を企画いたしましたところ、220名という、とても大変たくさんの方々がご列席下さいました。信州のいろいろなおいしいもの、特に素晴らしい大吟醸酒を堪能していただき、とても和気藹々とした会となりました。今、産婦人科をめぐる環境は人不足を初めとして大変厳しいものがございますが、お互いに協力しながら、明日への道を切り開いていきたいと思った次第です。
このたびの第110回関東連合地方部会では、みなさまには、本当にお世話になり、ありがとうございました。心より御礼を申し上げ、ご報告を終わらせていただきます。