平成18年1月23日放送
  小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の推進
  日本産婦人科医会常務理事 田邊 清男


 今晩は、昨年開催されました「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の推進」ワーキンググループに付きまして、お話し致したいと存じます。

 集約化・重点化が叫ばれるに至った理由としましては、新たに産婦人科を志望する医師が減少して医師不足が深刻であり、かつ病院における産婦人科医師の地域偏在が著しいため、従来どおりの配置をすれば広く薄いものとなり、個々の医師に過酷な勤務を強いることになると同時に、緊急時の対応も含めて産科医療の質の低下を招き、医療の安全性の観点から極めて問題であること、などです。
対応としましては、医療資源の集約化・重点化により、たとえ住民の利便性が損なわれるとしても、小児科・産科の医師の確保はもとより、医療の安全性の確保、小児科・産科医師の過酷な勤務状況の改善や良質な医療を継続的に提供するために、緊急避難的な措置として、最も有効と言われています。
これらの指摘を踏まえ、厚生労働省、総務省及び文部科学省から成る「地域医療に関する関係省庁連絡会議」が平成17年8月11日に取りまとめた「医師確保総合対策」においては、小児科・産科医師の配置が少ない病院が多く存在している地域では、医療資源の集約化・重点化を推進することを提言しています。

 こうした一連の提言を受けて、関係省庁連絡会議の下に「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化に関するワーキンググループ」が設置され、平成17年9月から11月にかけまして検討会が3回開催され、その後メール等で意見の交換が行われました。
私が第1回の検討会で主張しましたことは、

  1. 地域に産婦人科医がいなくなるような統廃合はやらない。
  2. 統合には診療所も含めて考える。すなわちローリスク分娩は診療所で、ハイリスク分娩や緊急時の対応は統合した基幹病院で行う。
  3. しかも、病院はローリスク分娩も扱わないと経営が成り立たなくなる可能性があるが、その場合はローリスク分娩を診療所から奪うのではなく、国等から補助金を出すなどして解決する。
  4. 統合した病院には新生児科医すなわちNICUを必ず配置する。
  5. 統廃合は一時的な特定の病院への産婦人科医集中化であって、このまま産婦人科入局者が減少して行くと統合した病院ですらやっていけなくなるので、産婦人科医増加策を大至急行う。
  6. 診療点数をたとえ増額しても、勤務医個人の収入はアップしないので、勤務医が働いた分収入が増加するような方策を考える。
  7. 都道府県の周産期医療協議会と十分打ち合わせをする。

以上の7点でした。

 病院の集約化・重点化を検討するに当たっては、まず、既存の周産期医療ネットワークを基に、産科医師数、地域の人口、分娩の状況、地理的な要因、産科診療所の配置、小児科医師・新生児科医師数、NICUの有無等を総合的に勘案して、産科医療がおおむね完結するような圏域を設定します。その際、必ずしも既存の医療圏にとらわれる必要はありません。
一方、産科部門を有する病院には、総合周産期母子医療センタークラスの病院、地域周産期母子医療センタークラスの病院、及びそれらのいずれでもない病院、の三種類に分けられます。このうち地域周産期母子医療センタークラスの病院の中から、圏域内で中心的な役割を果たす病院(以下「連携強化病院」)を1ヵ所ないし数ヵ所設定し、併せて地域において連携強化病院に協力する病院(以下「連携病院」)を設定します。

 連携強化病院の診療機能等に関してですが、産科医療では、まず取扱分娩件数は特に定めはありませんが、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案し、ハイリスク分娩を中心とし、安定的な産科医療が提供できる程度とします。婦人科医療としては、全身麻酔手術の件数は特に定めはありませんが、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案して決めます。小児科・新生児科医療では、小児科外来、小児科病床・病棟、さらにNICUを置きます。医師配置に関しては、宿日直の体制も含めて適切な勤務体制が確保できることとし、産婦人科医が5人以上いることとします。しかしながら、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案し、引き続き増員に努め、可能な限り10人以上とします。診療支援の体制としては、必要に応じ、連携病院の外来診療等に対し、定期・不定期に産科医師を派遣します。住民のアクセスの確保に関しては、必要に応じて分娩用の宿泊設備の提供、さらに診療の支援等では、母体搬送車等の提供、IT等による遠隔診療支援、いわゆるオープン病院システムによる分娩室・手術室の提供、地域の連携病院や診療所の産科医師に研修の場を提供することなども行うこととなっています。
一方連携病院としましては、産科医療では、産科病床・病棟は適正数とし、リスクの低い分娩や分娩前後の診療を行ないます。婦人科医療では、広汎子宮全摘出術以上の大きな手術や悪性腫瘍に対する放射線治療等は、連携強化病院と機能に応じて分担します。医師の配置に関しては、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案して決めます。
以上が連携強化病院ならびに連携病院に関する概要です。

 なお、産科医が減少している現状では、既存の産科診療所はこれまで以上に大きな役割を担う必要があります。そこで、集約化・重点化を行った結果として、後方施設としての病院の産科部門が縮小や廃止になれば診療所への影響も免れないため、その計画や実施に当たっては十分な配慮が必要であること。さらには、集約化・重点化を実施しない地域も含めた中長期的な産科医師・産科医療確保対策については、国や関係団体等で引き続き検討を進めることも記載されています。

 本集約化・重点化の実地主体は都道府県ですが、都道府県医師会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、大学医学部等の関係者から成る地域医療対策協議会を設置し、当該圏域ごとに連携強化病院及び連携病院を設定します。さらには、総合周産期母子医療センタークラスの病院との連携は当然、産科を標榜する診療所等を含めて、その連携体制について検討することになっています

 集約化・重点化を推進する際の問題点としては、例えば、集約化の対象病院は当面は公立病院ですが、日赤や済生会等の公的病院、さらには私的病院へも将来は参加を呼びかけます。さらには、医師を始めとする病院職員の異動の際に生じる身分の問題、連携強化病院から連携病院へ定期・不定期の産科医師派遣を行うことにより生じる兼業の問題、空床を分娩用の宿泊設備等に使用する目的外使用、連携強化病院が病床を増床する場合の知事特例、さらには連携病院等への財政上の支援等に、国や都道府県は努めることになっています。
なお本集約化・重点化は、地域により状況が大きく異なることから、全国一律に対応する必要はありません。実施する場合であっても、地域の実情を十分に踏まえた対応が望まれます。例えば、東北地方各県のように産科医師の偏在が著しく深刻な県においては、そもそも産科医師の絶対数が少ないことから、県単位での集約化・重点化は困難であり、複数の県からなるブロック単位で集約化・重点化を考える必要があります。
集約化・重点化のスケジュールと致しましては、国が平成17年末までに見直しを予定している医療計画の作成指針に基づき都道府県へ提示し、都道府県は平成18年度末を目途に、病院の小児科・産科機能の集約化・重点化の必要性を検討し、その実施の適否を決定します。そして、遅くとも平成20年度までに具体的な対策を取りまとめ、新たな医療計画に盛り込むことになっています。

 本集約化・重点化に関する答申は平成17年12月2日に上部部会である社会保障審議会医療部会に上げられ、その後マスコミによれば、平成17年12月中頃には、既に国は都道府県に対して集約化・重点化について提示したようです。このように集約化・重点化はすでに動き出しております。

 以上、平成17年秋に開催されました「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の推進」に関するワーキンググループに付きまして、ご報告致しました。