昨年2月に厚生省の「准看護婦問題調査検討会」が、准看護婦に関する実態調査を実施しまして、6月27日にその調査結果が発表され、議論を喚んでいるところであります。私ども産婦人科、とくに中・小病院や診療所にとりましては、准看護婦制度の存続・廃止及びそのレベルアップにつきましては大変関心の深い、しかも重大な問題であることは、日母産科看護学院への毎年の入学者の約70%が准看護婦であることからも明らかであります。そこで、9月28日に日母の産科看護部と医療対策部が中心となりまして、厚生省健康政策局看護課看護職員確保対策官の藤木則夫氏を講師にお招きし、「准看護婦問題勉強会」を開催致しました。本日はその内容とその後の検討会の審議状況をご紹介しながら、准看護婦制度と日母について私の考えを述べてみたいと思います。
看護職員需給見通しにつきましては、平成3年に高齢者保健福祉推進10か年戦略を踏まえ平成12年までの10か年の見直しを行ないました結果、週40時間制、夜勤回数月平均8回以内、育児休業、週休2日制等の勤務条件改善のための需要を考慮しましても、平成12年には116万人の需給が確保される見通しでありますが、最近は離職者が少なく、2年位早まるのではないかとのことであります。しかしながら現在、看護婦が48万人、准看護婦が39万人と准看護婦が約半数を占める現行の看護職員の養成力を前提としているからこその見込みであると思いますが、11月29日の検討会で厚生省は、準看養成の存廃議論の参考にすることを目的に、21世紀初頭の看護職員の需給予測(粗推計ですが)を提示致しました。それによりますと、「21世紀初頭に入ると、看護職員は最大限に見込んでも、相当程度の余裕がでる」と過剰を予測し、さらに少子社会の到来や高学歴志向を勘案し、準看養成所への入学志願者は激減が見込まれることを指摘しています。これに対しまして医師会側は「今後の産業構造を考えると、先のことは見通せない」と反論しております。
昭和26年、当時の女子の高校進学率は37%であったことから、高校卒業を前提とした看護婦のみによる供給では不十分であると考えられたため、短期間で多数養成できる中学校卒業者の看護婦養成が必要とされ、「医師、看護婦の指示を受けて看護業務を実施する者」として都道府県知事の免許による准看護婦制度が1951年(昭和26年)に創設されました。
准看護婦をめぐるこれまでの議論経過としましては、昭和38年に准看護婦制度は必ずしも合理的なものではない。根本的に再検討する必要があるとの[医療制度調査会答申]が、昭和45年には准看護婦養成を高卒+1年とする[保健婦助産婦看護婦法の一部を改正する法律]が国会に提出され、衆議院で可決されましたが、参議院で審議未了となり、これ以後、法律改正案はありません。しかしその後も昭和48年に中卒者を基礎とする准看護婦教育制度の存続には無理があるという[看護制度の改善に関する報告]が、昭和62年に准看護婦制度の廃止と存続の両論併記の[看護制度検討会報告]があり、そして平成6年には准看護婦学校養成所等の実態の全体把握を行い、関係者や有識者、国民の参加を得て速やかに検討し結論を得るべきであり、その養成を停止すべきという意見と制度の改善を図りつつ継続すべきとの意見の両論併記の[少子・高齢社会看護問題検討会報告]が出され、この検討会の提言を踏まえまして、准看護婦の養成の在り方等について、その実態を調査するため「准看護婦問題調査検討会」を設置し、検討会がアンケート項目を決め、昨年2月に調査が行なわれたという経緯であります。
平成6年の女子の高校進学率は97.5%に達し、大学・短大への進学希望も54.0%と高学歴化が進む一方、少子化の影響で18才女子は平成8年の83万人が平成21年には59万人と約3分の2に減少する見通しであります。高学歴化が容易となれば資格、賃金の面で正看護婦一本化の動きが看護側や国側から出てくるのは当然かも知れません。
准看護婦養成所入学者のうち、大学・短大卒を含めて高卒以上の学歴を有する人が95%を超える現在、現状を追認する意味でも入学資格を高卒にすべきではないでしょうか。他の医療関係職種との関係や、保健・医療・福祉の場で共に働く社会福祉士、介護福祉士との整合性も図れます。
准看護婦教育の評価につきましては、調査では養成所教員、准看護婦、病院長、看護管理者は不十分と回答する割合が高いのに対し、診療所の長は十分と回答する割合が高く、見解が分かれましたが、1,500時間教育では教育内容は不十分と思われますし、高齢化の進展に伴い、老人保健施設や訪問看護などの在宅医療において重要な役割を果たす地域に密着した准看護婦を養成することが益々必要となりましょう。産婦人科におきましても、従来の産婦人科としての診療以外に、婦人科かかりつけ医として在宅医療や老人デイケアを中心とした高齢者医療や、周産期における訪問看護・訪問指導に乗り出す際の重要な戦力となることと思います。
このように准看護婦養成所の教育内容の向上や、現行の准看護婦制度の問題点は改善すべきでありましょうし、また国家試験を行なう事も検討すべきでありましょう。
一方、調査結果の中で准看護婦養成所生徒の勤務内容で、「採血」、「注射」、「導尿」等の回答があったことは明らかに保助看法に抵触するものであり、この結果については真撃に受けとめるべきであります。11月29日の検討会でも、医療機関の勤務を準看養成所の入学条件とすることの禁止、奨学金の貸与義務の撤廃、違反業務を行なわないことの徹底など適切な進路指導を、「直ちに改善すべき事項」として報告書に盛込むことで合意しております。
官公立病院や総合病院などの高度医療機関での准看護婦の比率は減少し続け、現在准看護婦のいない大病院もかなり存在しておりますが、プライマリーケアの第一線である民間中小病院や診療所では准看護婦に依存している所が多いようであります。将来の看護職員の採用方針を見ましても、病院長は看護婦主体、診療所長は准看護婦中心と云う調査結果が出ております。看護婦或いは准看護婦への依存度が診療内容の差に起因しているとしますと、自ずから医療経営者側と理想の看護制度を望む看護側の要求の善意の乖離が生まれるのは止むを得ないかも知れません。しかし、いまただちに准看護婦制度が廃止されれば地域医療が混乱することは目に見えており、全体的な看護サービスの低下に繋がります。
日医では「看護体制検討会議」を設置し、独白のアンケート調査を行い、その内容を踏まえて准看護婦制度を堅持し、教育カリキユラムの見直しを含めて准看護婦の資質向上を図るための方策等を検討しており、1 2月11日開催の「准看護婦問題調査検討会」では、准看護婦養成存続を前提に1)養成所の入学資格を高卒に引き上げる、2)カリキュラムの時間数を増加する、3)準看資格の国家資格化などの具体案を提示しております。
この放送が行なわれる頃には「准看護婦問題調査検討会」の報告書が厚生省に提出されておるかも知れませんが、検討会での討議や報告書の取り扱いについて大いに慎重さが望まれるところです。