11月9日に行われた、全国支部がん担当者連絡会について、その内容をお知らせします。
会は前日ブラジルでのYAMANEから帰国されたばかりの坂元会長の挨拶から始まりました。
今回は、「がん検診のこれからを考える」をメインテーマとして組み立てました。特別講演3題で、まず最初に、東北大学大内講師より、乳がん検診に対する画像診断導入の話をして頂きました。大内先生は、厚生省乳がん画像診断導入の班会議の班長を務めており、すでに、班会議は、49歳以下は視・触診を中心とした現行法、50歳以上は2年間隔で視・触診に加えマンモグラフィーで行うのが有効であるとの結論を厚生省に提出しております。今回はその結論に至るまでの経過と、その後の精度管理について解説して頂きました。
乳がんは視・触診法を中心として、第2次老人保健法に導入されましたが、振り返ってみると、十分に疫学的検討がなされての導入とは言えず、現在までのデータ分析においても著明な疫学効果が認められません。
富永班の分析でも外来受診群と検診受診群で10年生存率がないこと、手術の術式にも差がないことなどが、検診方法の再検討を必要づけました。
そこで、外国で有効性を説く論文も多い、画像診断導入を検討することになりました。この画像診断導入の有効性を確かめるために、22市町村によるパイロットスタディが行われ、この検討の結果、少なくとも50歳以上の検診者に対しては、画像診断導入が有益であるとの結論を得て、取りあえず、これからの乳がん検診は49歳までは現行法、50歳以上は画像診断導入を推進するのが一番有効な方針であるとの結論に達しました。
現在の見通しでは、実際の画像診断導入は平成12年以後になると思われますが、わが国で、今後導入が行われた場合、その精度管理はどうするか、また地域におけるシステムはどのようなことが望ましいのか、との検討も、引き続き厚生省は大内先生の下、班会議を編成、着手しており、その詳細も述べて頂き、その中における産婦人科医の役割も明確に示され、参加者一同に感銘と同意を与えてくれました。
午後行われた特別講演には、日母がん対策委員長を長く務めた天神美夫先生、厚生省老人保健課の課長補佐の鈴木康裕先生により、それぞれの立場から、これからの婦人科がん検診の行方についてお話して頂きました。
両先生とも平成12年が検診ばかりではなく、医療が大きく変わる年であると発言されました。これらのことは現在、橋本政権の行政改革と無関係ではありません。例えば、厚生省と労働省が合併し労働福祉省になる可能性があることも十分に見守っていかなくてはならないことだと強調されてました。すなわち、省庁の合併が実現すると、今まで独自に行われてきた各種検診が、統合されるものと考えられているからです。
これに重ねて医療改革、社会保障改革などの各種の改革も行われることが予想され、こうした流れの中では日母も考え方を変えていく必要が生じる可能性について強調されました。
省庁の再編成と医療制度大改革がどうマッチングするかがおそらく各種検診のあり方とも密接に関わってきます。これは、今では予想しかねる非常に重大な課題を含んでおります。現在、婦人科がん検診に関わっている省庁は、厚生省、労働省、社会保険庁などですが、厚生省は老健制度、社会保険庁は保健施設事業、労働省は労働安全衛生法の範囲で行われています。しかし、今までは、それぞれ独立したシステムで行われており、老健法下の検診以外はその成績についての資料がなく、実情が把握できておりません。
こうした検診が平成12年度からの改革を機に統合されていく可能性があり、このこと自体はメリットがあるとも考えられています。これらのことは、婦人科がん検診については、ほとんどの場合が婦人科医は関わっているので、日母会員ばかりでなく、未加入の産婦人科医に対しても、勤務医部会などを通じて日母が指導していくことは可能になるでしょう。
また、日医は21世紀を見据えた健康投資プロジェクト委員会というものを発足させ、母子保健、学校保健、老人保健というものを一本化させ、効率向上を考えていると思われます。このことは、省庁の統合とも一致するものと言えましょう。日医はこれを政策提言として、新しい展開を図っていますが、厚生省はこうした提言を受けて、未来の予防医学といった構想を考えていると思われます。この場合の予防医学とは単にがん予防だけを指すものではなく、成人病を生活習慣病とにも捉え、がんに対しては一次予防というものが考えられますが、それらが予防にシフトしていく可能性があります。労働省が現在展開中の地域産業保健センター347カ所、産業保健推進センター各都道府県47カ所の整備も進んでおり、これには、日医のシナリオが深く関与していますが、これに日母がどのようにマッチングさせていくのかが今後の課題であるとの解説を得ました。
また厚生省の鈴木先生の特別講演では、平成12年の大変革を前に、がん検診導入の経緯と目標、導入の条件等について述べられましたが、その中でこれからの課題として、受診率の向上、効果・死亡率の低下、精度管理等について目標に達する必要性の説明がなされました。
これらを踏まえた上で、国や県、市町村の役割分担が重要とし、また財政問題として厚生省全体の予算の伸びを3000億円に抑える必要があり、そうした中から、老健法の婦人科がん検診予算に関して、今までは特例で補助金として支出していた30〜39歳の検診の補助金を廃止し、一般地方交付税として繰り入れることを明言しました。
これはすでに市町村に通達されております。すなわち従来は使用目的が明記されたがん検診が一般財政化されたということは場合によっては、市町村が他の目的に使用される可能性を示唆しているとも考えられます。
この対策としては各市町村の日母、または産婦人科医会は各地の医師会と密な連絡をとり、その一般財源の中に繰り入れた予算の中から婦人科がん検診の費用を確保する必要性が出てくるでしょう。
まだ、政策は流動的であり、現在日母本部としても明確な方法を示すことはできませんが、少なくとも、今回の天神、鈴木両先生の特別講演から得られたものは、大筋では変わらないと思います。
今後は平成12年度を機とし、第4次老人保健法が組み立てられますが、今までは一度計上された検診が老人保健法が削られたことはありませんが、今後目標に達しない検診は補助の対象から外れていく流れも考えられます。検診はいつまでも、過去を引きずるものではなく、新しい時代に向けて会員一同で、考えていかなければならない時期が来たようです。