今年も花粉症でお悩みの方にとって辛い季節が近づいてまいりました。つい最近までは、毎年春先になると、風邪でもないのにしつこいくしゃみや、水のように流れでる鼻水、頭の芯まで痛くなるような鼻づまり、そして目の玉を取リ出して洗いたいようなつらいかゆみになやまされていらっしやる方が全国の疫学の調査では国民の10人に1人の割合で存在していることがわかっていましたが、今年の春の束京都の疫学調査では花粉症の方が都民の5人に1人存在していることが明らかとなりました。10年前の調査と比べると実に2倍にも増加したことになります。さらにスギ花粉症発症年令も中年の働きざかりにとどまらず、小学校入学前の児童から70才以上のシルバー世代にまで広がっています。今日の医療では典型的なI型アレルギーである花粉症は、一度発症してしまうと完全に治癒させることは困難とされています。しかし、花粉症も予防は可能であることが、最近は常識となりつつあります。従って春先のスギ花粉症でお悩みの方にとっては、まず第1に来年のスギ花粉がどれくらい飛散するのか、またいつから飛散開始するのかをあらかじめ知っておくこと、第2に予防の方法を具体的に耳鼻科の先生のアドバイスや、マスコミ等の花粉症に関する記事などに注意して実行することだと思います。
ここでは、第1の予防となる、来年のスギ花粉の飛散予想について、少し詳しくお話ししておくことに致します。
まず最初に来年のスギ花粉の総飛散数について予想してみます。すでにご存知のように今年の夏の気候は全国的にほぼ平年並みの暑さでした。人間にとってはやや快適だった今年の夏はスギの木にとっては少し物足りない気候だったかもしれません。実はスギの花粉を形成する雄花の蕾は夏の日中の最高気温が30℃前後の日が多ければ多いほど沢山できる傾向があることがわかっています。ちなみに今年の7月中旬から8月上旬までの平均日最高気温は、東京周辺では29℃前後と、ほぼ平年並でした。
そこで千葉県船橋市における過去19年間の毎年のスギとヒノキ科花粉の総飛散とこれらの前年の7月中旬から8月上旬までの1ケ月間の平均日最高気温との相関関係を求めたところ、比較的高い相関のある予測式が得られましたので、この式に今年の千葉県船橋市の平均日最高気温、29℃を代入しますと、来年の予測総飛散数は過去19年間平均値とほぼ等しい約1,800個となりました。
この予測値はアメリカの標準花粉捕集器であるダーラム型による毎日1Cあたりの飛散数を、飛散期間の日数分累積した値です。またこの予測総飛散数は東京の都心や、東北の森の都仙台、東海地方のメイン都市名古屋、近畿地方の京都・大阪の大都市、あるいは九州の大都市である福岡や宮崎でも極端に夏の気温が異ならない限り、あまり変わらない予測値となっています。
また東北以西各地のスギ林に近い町や村では過去のデータから大都会の2倍から5倍の飛散数になることがわかっています。
日本の大都会の多くは、東北から九州までその周辺にスギの植林がまだまだ多く存在していますが、東京のような一大都市の中心でさえも、周辺の衛生都市である横浜市や千葉市などと、ほとんどかわらない飛散数が観測されていることがわかっています。これは恐らく都市化の進んだ、コンクリートとアスファルトのジャングルでは一度落下した花粉が再びビル風などの強い風で舞い上がる、いわゆる再飛散をおこすことにより、周囲にスギの木がなくても花粉だけは衛星都市とかわらない飛散数が実際に観測されるためと思われます。同じような再飛散はちょっしとた都会でもおきているはずであり、都会における再飛散の解明が今後の大きな調査目標でもあります。
次に最も確実な総飛散数の予測は、スギの木自体の雄花のでき具合を観察し、これを数式化して予測する方法です。過去11年間の南関東の千葉県、東京都、神奈川県の3ケ所、計15地点で毎年11月にスギの木の小枝先端の雄花の蕾の数を1ケ所につき150本観測していますが、過去11年間の1枝につく平均的な雄花の蕾の数は24個でした。ところが今年11月の平均的な雄花の蕾の数は30個も観測されました。
これは過去11年間の平均的な、雄花の蕾の数の約1.3倍に相当します。そこで、過去11年の南関東の11月のスギ雄花の蕾の数とそれらの翌年の総飛散数との相関を求めましたところ、かなり高い相関のある予測式が得られました。この予測式に今年11月の雄花の蕾の数30個を代入したところ、来年の総飛散数は最高気温からの予測数よりかなり多い2,800個となりました。以上の2つの予測結果から来年の平均的な予測総飛散数は1,500〜2,500個の範囲になるものと思われ、この予測値は東北から九州の大都会にもある程度あてはまるものと思われます。次に飛散開始日の予測ですが、アレルギー学会等の研究会において、全国の主な花粉研究者や耳鼻科の先生方で合意していますスギ花粉の飛散開始日は、1月1日から連続2日以上に渡り、1個以上の花粉が観測できた最初の日と定めています。これに従えば過去11年の平均的な南関東の飛散開始日はバレンタインデーの2月14日前後となっています。来年も気象庁発表によれば今世紀最大のエルニーニョの出現により、かなりの暖冬と予測されています。従って来年の飛散開始日は早けれ関東以西の太平洋側では2月初めから、遅くても平均よりも1週間早い2月7日頃になるものと予想していいます。
実際に過去の飛散開始日までの1月1日からの累積日数と、累積最高気温との相関が比較的良好であることがわかっています。すなわち飛散開始日前に平年を上回る暖かい日が多ければ多いほど、飛散開始は早くなっています。千葉県船橋市では過去19年間で2年間1月下旬に飛散開始がありましたが、この1年とも1月中旬までに最高気温が,20℃を越えた日のある一大暖冬でした。従ってもし1月中に最高気温が1日でも20℃を越す日があれば、来年も1月中の飛散開始になることは確実のようです。
終わりに、今年の11月上旬に関東と東北地方のスギの雄花の蕾のつき具合を愛車で1週間2,000H以上も走破して調べてきました。その結果少なくとも関東地方はかなり良好であり、特に南関東は昨年よりやや良好な蕾のつき方ですが、東北地方は福島から山形まではやや平年より少なく、秋田県はかなリ少ない印象でした。また今年夏の気象からは、来年の全国のおおよそのスギ花粉の飛散予想は、西低東高になる可能性が大であります。
花粉症の皆さんは本日から花粉症予防の認識を新たにして、憂欝な春を快適にすごす方法を身につけてほしいと思います。