【急 告】

ホルモン補充療法の適応変更に関する警告(米国)についての
日本産婦人科医会の指針

 

平成14年7月24日
社団法人日本産婦人科医会

 

 去る7月9日アメリカNIH、National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI)は心疾患予防効果と乳癌増加の有無を検討することを主目的として、結合型エストロゲン(0.625mg/日)と酢酸メドロキシプロゲステロン(2.5mg/日)を健康な女性約16600名(50歳から79歳)へ平均5.2年間投与したホルモン補充療法に関する治験を、突然中止することを決定(NIH News Release, http://www.nhlbi.nih.gov/)しました。そしてJAMAで7月17日発表予定であった論文(JAMA, July 17, 2002. Vol 288, 321〜333)をインターネットで直ちに公表しました(http://jama.ama-assn.org/)。この発表は膨大な量のHRTが処方されている米国ではニューヨークタイムズ等全米の新聞やテレビで広く報道され(7月9日)、日本では10日読売新聞が朝刊で報道しました。

 これを受けて日本産婦人科医会では10日直ちに原文を取り寄せて検討すると共に、12日日本更年期医学会および日本産科婦人科学会に、従来の慣習に従って学問的見地からこの件を検討することを依頼し、できるだけ早急に結論を出して欲しい旨申し入れを致しました。同時に、三者が協同歩調をとってそれぞれの会員の研修指導に当たることを確認致しました。医会としましては両学会からの結論を待って指針を提示する方針でしたが、両学会では学問的に検討するためには時間が必要との事です。しかし医会としましては、早急に指針を提示するよう会員からの要望も強く、両学会の結論が出るまで暫定的に以下のようにホルモン補充療法の治療指針を提示することに致しました。この事は両学会とも了承済みです。なおこの間、会員から種々のご提言を頂きました。本文を作成するに当たり参考にさせて頂きましたことを感謝致します。

 今後ホルモン補充療法に関する日本産科婦人科学会あるいは日本更年期学会等からの指針や内外の雑誌に有力な治験成績等が出される毎に、医会報やホームページ等を通じて情報提供を行う予定です。

 

ガイドライン(概略)

 別添に示してありますJAMAの論文(要旨)から明らかなように、エストロゲンとプロゲスチンとの同時併用療法を受けている女性では骨折や大腸癌が有意に減少しましたが、心血管疾患、脳卒中および(浸潤性)乳癌が有意に増加しました。また、総死亡率には有意差がみられませんでした。これらのリスクは非常にわずかであり、一人一人の女性に与える影響は極めて少ないと考えられますが、長期間の多数の女性への影響を考慮してNIHは治験を中止したものです。そこで、日本産婦人科医会として当面以下のような同時併用療法に関する指針を提示します。

  1. 現在長期的な(4〜5年以上)同時併用療法を行っている患者では、直ちに併用療法を中止する必要はありませんが、継続する場合は乳癌、心血管疾患、脳卒中等に十分注意し、健診を定期的に受けさせ、これらの疾患の早期発見に努めます。
  2. 長期にわたる併用療法をこれから開始する場合は、併用療法のリスクとベネフィットについて患者とよく相談し、個々の患者に合った選択をすべきです。ただし、冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)の予防を目的として併用療法を開始すべきではありません。また、大腸癌の予防を目的として併用療法を行う妥当性も現在のところありません。
  3. 更年期障害(ほてり、のぼせ、発汗、腟乾燥等)の治療のために短期間併用療法を行うことは、通常はベネフィットがリスクを上回ると考えられ、併用療法を行ってもよいと考えられます。ただし、この場合においてもリスクを考慮して患者と相談の上決定します。

 いずれにしろ、エストロゲンとプロゲスチンとの同時併用療法に関しては、リスクとベネフィットとに関して患者とよく相談し、個々の女性に合った治療方針を立てるべきであり、また併用療法を行う場合は乳癌、心血管疾患(血栓症を含む)、脳卒中等の早期発見に努めることが重要です。

 なお、子宮全摘出術後女性に対するエストロゲン単独療法に関する治験では、上記のようなリスクは現在のところ認められておりません。また他の薬剤、他の投与量、他の投与法による治験は行われておらず、これらの影響は分かっていません。

以上

HOME