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妊婦健診の超音波検査で胎児心奇形が疑われたら

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国立成育医療センター 周産期診療部
部 長 
   



<はじめに>

 出生時に見出される先天奇形の頻度は約3%といわれています。心奇形は先天奇形の中で最も頻度が高く、約1%(生産児100人に1人)といわれています。生後1年以内に治療が必要となる重症心奇形はその1/3-1/2で、生産児200人から300人に1人となります。心奇形は胎児期から診断される例も少なくなく、産科臨床の場において必ず遭遇する疾患です。しかし、心奇形の種類は多数あり、胎児心奇形の診断は複雑で、一般産科医には難しく対応に苦慮することが多いものです。ここでは、日常産科臨床において胎児心奇形を疑った場合の対応や考え方について述べます。

<胎児心奇形の超音波診断>

 胎児心奇形の診断は超音波検査による形態診断によってなされます。胎児超音波診断の実際や詳細については他書を参照してください。拙著は胎児の超音波検査による基本的な見方についてまとめ1) てあります。また胎児心エコーに関しては、胎児心エコー検査ガイドライン2) があります。しかし、心奇形の胎児診断は難しく、出生前診断率は未だに低いのが現状です。四腔断面で異常所見が見いだしやすいEbstein奇形、左心低形成症候群、内臓錯位症候群の診断率は比較的高いのですが、完全大血管転位症、ファロー4徴症など大血管の異常や、総肺静脈環流異常の胎児診断率は低率です。したがって、胎児超音波スクリーニング検査で、「心臓に何かありそうだ」と異常を疑うことが重要となります。日常一般産科臨床において、すべての胎児心奇形を見つけだし的確に診断するということは求められておらず、胎児心奇形を疑う症例を拾い上げ、適切な施設へ紹介するということで十分だと思われます。繰り返しますが、心奇形の胎児診断は難しく、出生後早期に手術を要する重症心奇形でさえ出生前に異常所見を拾い上げられない場合も少なくありません。このことを医師ならびに妊婦は十分理解しておくことが重要です。

<胎児心奇形を疑った際の超音波検査>

 胎児心奇形を疑った際には、まず異常を疑う所見を明確にすることが重要です。胃の位置(右)、心臓の軸(左軸偏移、右軸偏移)、心臓の大きさ(心拡大)、四腔断面の左右差(右室低形成、左室低形成、右房拡大)、大血管の大きさ(肺動脈が小さい、大動脈が小さい)・並び方(交差せず並行)、大動脈弓(細い)、肺静脈(左房に入らない)などです。異常所見から疾患名を推定することも可能となりますが、診断名をつけることにこだわらず、異常所見を明らかにして、疑いをより確実にすることが重要です。胎児心奇形では、合併奇形が少なくありません。合併奇形の有無が予後を左右します。そこでまず、推定体重を測定し、胎児発育不全の有無を明らかにします。心奇形単独で胎児発育不全をきたすことは通常なく、胎児発育不全を認めれば、染色体異常や先天奇形症候群などを疑います。また、可能であれば、他臓器に形態異常がないか調べます。特に頭部、顔面、消化器、腎、脊椎、手の異常について調べます。他臓器に形態異常を認めれば、多発奇形として染色体異常や先天奇形症候群などを疑います。

<胎児心奇形を疑った際の対応>

 日常産科臨床で胎児心奇形を疑った際、地域の事情に合わせて、心奇形および心外奇形の精査と出生後の管理が可能な周産期施設(周産期センター、大学病院など)に紹介します。紹介された施設では、通常、産科医が心奇形のみならず胎児全体の精査、ならびに母体の状態を含めた産科診察を行います。心奇形がみられた場合、産科医は小児循環器科医と連携をとり心奇形の精査を行い、心奇形の内容、生後予想される血行動態と経過、生後必要となる内科的・外科的治療法、予後などについて検討します。心奇形においては診断名をつけることより、予想される血行動態と必要となる治療法の選択が重要となります。したがって、出生前から小児循環器科医の関与が不可欠です。また新生児科医、心臓外科医、看護師も加わり、分娩施設や生後治療を行う施設の検討も含めた治療方針を討議します。通常胎児右心不全をおこさない限り、心奇形が原因で胎児が子宮内で状態が悪化することはなく、通常の産科的適応で分娩方法は選択します。妊婦ならびにパートナーは、生後の児の経過、治療法、予後などについて一番知りたいものであり、小児循環器科医や新生児科医から出生前に説明してもらいます。

<胎児心奇形を疑った際の説明>

 説明は妊婦だけにするのではなく、可能なかぎりパートナーの同席のもとで行って下さい。胎児心奇形を疑った際は、再来していただき、所見の確認と説明を行うといいと思います。説明の要点を以下に記載します。説明の際に参考にして下さい。

  1. 胎児の心臓に通常みられない所見(異常)が見られた。
  2. 心疾患(心奇形)が疑われるが、心疾患(心奇形)でない可能性もある。
  3. 胎児心奇形の出生前診断は非常に難しいので専門家にみてもらうため紹介する。また、心臓以外にも異常がないかもみてもらう必要がある。
  4. 心奇形だとしても多くの疾患は、生まれた後に薬や手術によって治療ができる。
  5. 心奇形は、生後ほとんど治療を必要としない疾患から、生後早期から集中治療や手術が必要となる疾患まで様々である。心奇形の種類や状態により、生後の治療法やその時期、入院期間、予後は異なるので、詳しい説明は専門施設できいてほしい。
  6. 出生前に生後の状態を正確に推測するのは難しく、生後精査して治療方針を決めることとなるだろう。7)出生前に診断がつかない例も多いが、出生前に診断することにより円滑に生後の治療へつなぐことが可能となり、また家族もいろいろ準備ができる利点がある。

 

文献1) 左合治彦,林聡,湊川靖之,北川道弘,名取道也:胎児の超音波診断.Jpn J Med Ultrasonics 2007,34(4):427-437.
文献2) 胎児心エコー検査ガイドライン作成委員会編:胎児心エコーガイドライン.日本小児循環器誌 2006,22(5):591-613.