産科オープン・セミオープンシステムに関する現状における日本産婦人科医会の考え方
平成16年9月11日
(社)日本産婦人科医会はじめに
平成15年12月17日開催の厚生労働科学「産科領域における安全対策に関する研究」(中間報告)に基づいたシンポジウムでの「産科オープンシステム病院の普及について」、ならびに平成16年1月15日朝日新聞朝刊の「健診は医院で、出産は大病院」の記事が会員の間で大きな議論となった。これらの件については、当医会田辺常務理事が日産婦医会報(平成16年3月号)で詳しく説明をしている。
当医会では「周産期医療を考える連絡会議」を設け、最初のテーマに産科オープン・セミオープンシステムを取り上げ、現状における考え方をまとめた。考え方
産科オープン・セミオープンシステムについては、地域医療レベルの向上、医療事故防止、周産期医療の安全性の観点から、日本産婦人科医会は順次推進すべきとの考えである。しかしながら、現状をみると大都市型のシステムであり、実施可能な距離に制約がある地方の中小都市・郡部に波及するには10年以上の期間を必要とするであろう。さらに、受け入れ施設についても医師数、労働環境、設備等に問題がある。
とくに近時産科医の減少が深刻であることから、今後、周産期医療を取り扱う病院の再編・統合化は避けられない状況である。
一方では、全分娩の45%を診療所が取り扱っている現状も考慮すると、本システムを今、全国一律に導入することは妊産婦側や受け入れ病院側からも不可能である。
しかしながら、現在の妊産婦は高齢化、少子化が目立つところであり、産科医療の有する潜在的なリスクは自ずと高まりを見せている。そのため、病々・病診・診々連携化の必要性は今後益々高まることは明らかである。
さらに、本システムについては当医会としても以前から継続して調査・研究を行ってきており、アンケート調査結果(平成13年9月)によれば、本システムは全国で約1割強の施設で実施されており、現在本システムを実施していない病院や利用していない診療所も共に、約3/4の医師が今後定着させるべきであると回答している。しかし、全国オープンシステム病院を対象とした調査(平成15年度調査)によれば、日本で産科オープンシステムが有効活用されている施設はまだまだ少ない。
本システムは、周産期医療システム[周産期ネットワーク、オープン・セミオープンシステム、周産期センター(総合・地域)、病々・病診・診々連携等]の中の一つのオプションとして地域ごとに考えるべき課題であり、システムを構築できる地域では構築に向けて早急に努力する。
オープン病院化に関しては、厚生労働省でも開放型病床の施設基準を緩和し、産科オープンシステムが進行することを期待している。
当分は、複数医師のいる診療所や、一人医師の診療所であっても高次医療施設やオープン・セミオープン病院との連携を密にして、分娩のrisk assessmentを適正に行って、ローリスク妊娠の分娩管理を積極的に行う。また、ハイリスク妊娠は出来るだけ周産期母子医療センター等、高次医療施設へ分娩を集約化することが肝要である。
オープンシステムを利用し、健診は診療所で行い、分娩は病院を借りて同じ医師が行うという米国のシステムはある意味では理想的である。しかし、日本では、病院・診療所のあり方、設置状況等の相違や、診療所側にとって医師の出務や出務中の自院の患者への対応、地理的制約等問題が多い。そのため、本来の意味でのオープンシステムを採用している病院・診療所は非常に少ないと見受けられる。したがって、現状ではセミオープンシステムが適しているが、いずれにしても、受け入れ病院の外来機能を診療所が受け持つといった新たな概念を地域に浸透させることが必要である。
病院側、診療所側共にメリットを伸ばし、デメリットを克服して産科オープン・セミオープンシステムが普及すれば、さらなる「安全で快適な分娩」を提供することが期待できるが、これには妊産婦の立場や離島・僻地医療を含めて行政・医療従事者・国民が一体となって今後検討して行く必要がある。まとめ
- 産科オープン・セミオープンシステムについては、地域医療レベルの向上、医療事故防止、周産期医療の安全性の観点から、日本産婦人科医会は順次推進すべきとの考えである。
- 本システムを構築できる地域では、構築に向けて早急に努力する。
- 全国的にみると、医療機関の配置状況、受け入れ施設の内容(ハード、ソフトの両面)等に地域差が大きい。その地域にとってどのようなシステムが適しているか、本システムを一つのオプションとして、その他地域性に合った様々な周産期医療システムを考え、推進して行く努力が求められる。
- 当分は、複数医師のいる診療所や、一人医師の診療所であっても高次医療施設やオープン・セミオープン施設との連携を密にして、分娩の risk assessment を適正に行って、ローリスク妊娠の分娩管理を積極的に行う。
- ハイリスク妊娠は出来るだけ周産期母子医療センター等、高次医療施設へ分娩を集約化する。