日産婦医会報(平成12年4月)「医療経済実態調査」より見た有床診療所の現状(2)
日本産婦人科医会医療対策委員会委員 伏屋 道夫
三月号に引き続いて「医療経済実態調査」をもとに産婦人科診療所の経営に参考となる部分を抜粋し考察を加える。
7.医業収入に占める医薬品比率と収益
個人立診療所総数936カ所(有床267カ所、無床669カ所)中、医薬品比率10%未満の医療機関が26%と一番多く、次いで30-40%の医療機関が19.1%であり、次いで15-30%の医療機関と続く。10%未満の医療機関は院外処方箋を主体とする診療所であろう。医業収入、医業費用、収益と医薬品比率の関係をみると、有床、無床共に医薬品比率が30%未満までにおける収益は約200万円前後であるのに対し、30%を超えると約150万円以下と急激に落ちてくる。また、医業費用のうち給与費、材料費、委託費、減価償却費等には各比率に大きな差は見られないことから考えると、医薬品費の占める割合の高低が収益に結びついていると考えられる。これからは薬価差益が望めるような時代ではなく、ましてや平成12年度よりR幅2%となれば逆鞘となる商品も出てくるであろう。さらに、不良在庫などの解消等も考えると、院外処方の功罪にはいろいろな意見もあると思われるが、収益という点のみで考えてみれば一考の余地は十分にあると思われる。
8.収益別診療所数の割合
有床においては一月当たり収益50-100万円の診療所数43(全体の16.1%)、0-50万円、100-150万円各36(13.1%)、無床においては100-150万円133(全体の19.9%)、50-100万円124(18.1%)、150-200万円93(13.9%)と、全体に低額な所にピークを認め、50-200万円が全体の約半数を占める。350万円までは無床診療所、それ以降は有床診療所の占める割合が増えている。約半数の開業医は、このような低額な収益の中から税金、社会保険料、借入金の返済、老後に備えた積立金等を支払い、ギリギリの線で良い医療を行うために精神、肉体を酷使しながら働いているのである。
9.年間設備投資額
土地、建物、医療用機械備品等の設備投資額は、有床434万円、無床306万円で、医学の進歩による医療機関の設備の重装備化が進んできていることが窺える。
10.青色申告採用状況および雇用従業員一人当たりの人件費
有床青色申告採用施設数250(93.6%)、不採用17、無床青色申告採用施設数561(83.9%)、不採用170であった。青色専従者の有無別に給与を比較すると、青色専従者のいる施設では、有床の場合、青色専従者給与48万9000円、一般職員給与22万9000円、無床の場合、青色専従者給与47万1000円、一般職員給与17万5000円で青色専従者給与は有床、無床共にほぼ同額であるが、一般職員給与は有床の方が高くなっている。青色専従者給与の上限は月50万円位までが妥当のようである。
小括
以上の調査結果を産婦人科診療所の経営に反映させるには以下のことが必要条件と考えられる。
(1)医薬品費の圧縮を図ること、特に医薬品費比率を30%以下にすること。そのためには院外処方も考慮する必要がある。
(2)有床診療所における医業費用の約35%を占める給与費の圧縮、そのためにはパート等の活用を進め、専従者給与の活用を行う。
(3)建物、設備等への投資は対費用効果を考え慎重に行う。
終わりに
今回の調査結果より、無床診療所の方が有床に比べ医業収入は少ないが、医業費用の減少により実質の収益は増加していることが判明した。このことは、分娩・手術の減少あるいは年齢的に無理が利かなくなっても母体保護法指定医に必要な病床を残し規模を縮小すれば、外来診療を主体にして何とかやっていけるということを示している。
しかし、現実には分娩を止めた多くの施設が経営の苦しさを訴えていることを見ると、それほど楽観はできない。そのためには、分娩を止めるまでに借入金を極力減らす、従業員数を可能な限り圧縮する、高額な医療機器の購入は慎重に検討し病診連携による院外施設の活用を促進する、院外処方の採用等の条件が必要と思われる。同時に、これまでの妊娠・分娩主体の診療形態から女性におけるトータルヘルスケアを主体とした広い範囲の診療形態へと変わっていかなければならない。それには自院の患者層、地域特性を考慮した診療時間の設定、或いは他施設にないような自院独自の特殊性を模索し打ち出していくことを考えていかなければならない。また、日母医報や学会誌、数多くの医学雑誌等を大いに参考にし、医師会活動、研修会等に積極的に参加して情報を収集し自己の研鑽を積んでほしいものである。