日産婦医会報(平成12年5月)

少子化対策と医師会の役割

岩手県支部副支部長・盛岡市医師会会長 小林 高


はじめに

 急速に進む少子化へのわが国の対応が著しく遅れていることは、衆目の一致するところです。少子化の原因も明らかになり、多くの課題が示され、国はエンゼルプランを策定しましたが、プランの大半が絵に描いた餅になったことも周知のことです。
 国の少子化対策が進まないため、地方は一層動きが鈍く、わずかに保育所への援助が実施されただけで、本格的な対策とは程遠い状態でした。
 岩手県盛岡市では医師会が中心になり、「地域における少子化を考える会」を立ち上げました。本稿では、その設立までの経緯と現状についてご紹介したいと思います。

設立に至るまで

 岩手県では、医師会の積極的な考えにより、医学的な面での対応はある程度進んでいました。二年間にわたって全県下で「高齢出産調査研究」を実施し、医師会の提言によって岩手医科大学付属病院に「高度不妊治療センター」が設置されました。そして現在は「周産期医療センター」の開設に向けて準備中です。
 盛岡市医師会は1998年8月に、「地域における少子化を考える会」を立ち上げました。国や地方行政の対応を待っていては、少子化対策は取り返しがつかないほど遅れてしまうという危機感が強かったのです。住民の意見を聞いて、医師会が実行できることはないだろうか。私たちが提言することで実現可能になることはないだろうか。社団法人である医師会が先頭に立って行動を起こすことで、行政や他の民間団体を動かすことが可能になるのではないかとも考えました。
 一年間で25回の会議を開いて議論いたしました。会のメンバーは、マスコミ関係者、福祉関係者、看護関係者、市会議員、保母、子育て中の母親、青年会議所、PTAなどで、医師会からは私一人が入り、医師会は事務局を務めて裏方に徹しました。

盛岡地域の少子化対策の始動

 1999年8月に「盛岡地域の少子化問題への提言」をまとめました。この間に私たちが実施したことや、提言したことの中から主なものを紹介いたします。

(1)緊急少子化対策推進本部の設置
 縦割り行政を排して行政の強いリーダーシップを求めました。

(2)気軽な出会いの場作り
 結婚願望はあっても、出会いの機会に恵まれない男女に出会いの場を提供する。お見合いを復活させようという試みを行いました。
 イ.ワインパーティーの開催
 1999年6月と10月に独身男女合計100名の参加で開催しました。募集と同時に締め切るほどの応募者が殺到し、13組の男女が意気投合しました。
 このパーティーの成功により、岩手県は平成12年度に「出会いの場の創出」を新規事業に盛り込み、予算計上しました。今後、県内各地に広がるものと期待しております。
 ロ.出会いコーディネーター作り
 各地域で出会いの機会を作るためには、地域で活動する「出会いコーディネーター」を養成して、地域ぐるみで出会いの場を作る必要があります。

(3)パパ・ママ学級の開催
 数年前から医師会の提案により、市が平日にパパ・ママ学級を開催しておりましたが、今回は休日しか参加できない妊婦夫婦を対象にして開催しました。子育て不安の解消などを目的として講演や実技指導を行いました。
 平成12年度は、日母岩手県支部が受け継いで県内に拡大する予定です。

(4)パパ手帳の交付
 父親の育児参加を促し、育児の楽しさ、家族の絆の大切さなどを知ってもらうことを願って作成しました。医師会がパパ手帳を作ったのは全国でも初めてのことだと聞きました。6000部を印刷し、母子手帳交付の窓口で無料配布しております。その後、県内各地から問い合わせがあり、1万部を増刷いたしました。

おわりに

 その他、思春期や子育て支援、街づくりなどの提言を行いました。その中で特筆すべきことは、医師以外のメンバーが熱心に、真剣に取り組んでくださったことでしょう。
 さらには、理論より実践をスローガンにして行動した結果、岩手県、盛岡市などの行政が本気になり始め、少子化対策のプラン作成の際に私たちに事前に相談を持ちかけるようになりました。日母の全国の支部の皆様にもぜひ行動されることをお勧めいたします。